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9話 一心同体?

 そう言うと、ユリーは突然倒れた。まるで気を失ったかのように、それはプツンと操り人形の糸が切れたかのようであった。


「あ?え!?師匠!?」

フォルはその場で狼狽える事しか出来なかったが、マザーはフォルとは全く対照的に落ち着いていた。


「ちょっと!もう、ほんと説明が足らないんだから!フォル君、大丈夫だから」


「え、でも、だって、え?師匠」

マザーにそうは言われても、目の前でいきなり自分の師匠が倒れたのだ。冷静でいられる訳がない。


「そう慌てんなよ。ついさっきぶりだなァ」


 どこからともなくユリーの声がする。しかし、その声はたった今倒れた人形から聞こえてはいない。というより、自分の心で呟いた時のように自分の中から声が聞こえる。


「は?え?師匠、どこ?」


「あァ、お前ん中だ。俺ァ精霊だからな。これでお前も保持者(ホルダー)の仲間入りって訳だァ」


 ひたすら慌てふためく事しか出来ないフォルに、新たな混乱が襲い掛かる。


「初めまして。貴方とお話がしてみたかったのです。私、エルシアというのです」


 ここには、フォル、ユリー、マザーの三人しかいないはずなのだが、そのいずれの者でもない声がする。それも、先ほどのユリーの声と同じように、マザーの中から聞こえる。

そして、その声の主は言葉を続ける。


「私は、この子に宿っている精霊なのです」


「ちょっと、エルシア!フォル君混乱しているのに、畳みかけないでよ!」


「それは申しわけないのですけど、テンションが上がってしまうのもやむを得ないと思うのです」


 ここまでの一切をフォルは何一つ理解出来ていない。困惑しているフォルを見かねて、マザーがフォルに説明する。マザーが言うには、フォルにはユリーが宿り、そのことによって、フォルは保持者(ホルダー)となった。保持者(ホルダー)は、自分に宿っている精霊や他の精霊と会話をすることが出来る。そして、保持者(ホルダー)同士もまた、「無色の精霊」を介して、言葉を発さずに会話をすることが出来る。どうやらエルシアはマザーに宿っている精霊ということらしい。

一通りの説明を受けて、落ち着いたフォルに再びエルシアが話しかけてくる。


「私は貴方を見るのは初めてではないのですけど、ずっと話したかったのですよ」


エルシアは、フォルの事をマザーと同じくらいの時間見守ってきたのだ。実際には何か出来ていた訳ではない。しかし、だからこそだろう、そのもどかしさが相当あったことが見て取れた。


「は、初めまして。フォル=カーマインです」


 フォルはとりあえず挨拶をすると、ユリーが会話に割って入る。


「いいか?俺の事は今日からソルと呼べ!それが俺の本当の名だァ!」


「え、師匠じゃなくていいの?」


「あァ!?師匠に決まってんだろ!なめてんのか!?」


「ソルさん、相変わらず滅茶苦茶ですのね」

呆れたようにエルシアが呟く。ソルはうっせェ、と小さく言葉を返す。


 それから、てきとうに雑談をして、マザーの夫としての、つまり本来のユリーの埋葬を手伝うことになった。フォルはユリーという人がどのような人なのか知らないが、ここにいる皆の会話を聞いていると、ソルにとっても決して浅くない関係であることは分かった。

ソルやマザーと共にフォルもユリーを弔い、保持者(ホルダー)について、詳しく解説を受けることになった。全員孤児院へ入り、空き部屋へ移動する。そして、早速講義が始まる。


「まずは、俺たち精霊についてだが、無色の精霊と有識の精霊に識別されるのは知ってるよなァ?」

ソルがフォルに問う。


「大まかには……。えーと、ソルみたいに喋るのが有識の精霊で、そうじゃないのが無色の精霊だよね?」


「あァ?なんだそりゃァ、もっとマシな答えを、」


「間違ってはいないと思うのですが」

すかさずエルシアがフォルに味方をする。


「だァーッ!うるせェなァ!!!」


「大体貴方はいつもフォル君に厳しすぎるのです」


「人の教育方針にケチつけんじゃねェ!甘やかしてっと強くなれねェだろうが!!!」


「はあ、こんなことなら私がフォル君に宿るべきだったと心から悔いるのです」


「こら、フォル君が困ってるじゃない」

マザーが二人の子供染みた喧嘩を仲裁する。


「あ、あァ、すまん。そうか、まずは有識の精霊についてだな。有識の精霊ってのは俺達みたいに個性と思考を持った精霊の事だ。無色の精霊が自我を認識した時、個性と共に思考を持ち、人や物に宿ることが出来るようになる。そして、個性を持った有識の精霊は、個性に特化した魔法しか使えなくなる」

ソルは言葉を続ける。


「それに対して無色の精霊はだなァ、無個性で色々な性質に転化することが出来る。そして、思考を持たない空気のような存在だ。魔石を使って魔法を使うときは、この無色の精霊に転化させたい性質の思考を与えて無色の精霊を転化させる。お前が火を出そうと念じたらちゃんと火が出るだろォ?あれはお前の火を出す意思を無色の精霊に与えて、無色の精霊が火に転化してるって事だ」


フォルは深く頷く。


「じゃあ、魔法で出した火や電気は精霊なの?」


「あァ、無色の精霊が転化したものだ。だから本物の火や電気のように見えるが、完全に本物って訳じゃねェ。だが、鍛錬を積めば、水では消えない火や蒸発しない水を魔法で生成することも出来るようになるぜ」


「じゃあ、身体能力を向上させるような強化魔法は?」


「あァ、あれも精霊を体内で転化させたもんだな」


「へぇ。あ、そういえば、ソルの個性は何なの?やっぱり砂とか?」


「あァ、俺ァ『大地の精霊』ソル様だ」

なるほど、だから砂ばかり食べていたのか、とフォルは勝手に納得をする。


「そして私は『復元の精霊』エルシアというのです」

すかさずエルシアがフォルとソルの会話に割り込んでくる。


「ッたく、やりづれェな。まァいいや、これからお前は各国を旅することになるわけだが、……ン?どうした」


 きょとんとした顔をしたフォルに気付き、ソルが止まる。


「僕、各国を旅するの?」


「あったり前だろうがァ!!!てめェふざけてんのか!?奴らの情報を掴むには、バウンティハンターとして各国を渡って情報を集めるしかねェだろうがァ!」


「だって、僕何も聞いてないから!」


「なんで何も説明してないのよ」

 マザーは、やれやれと飽きれついでに、はぁーっと深いため息をついた。


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