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8話 真実

 フォルは、同じ攻撃を繰り返す事でユリーの思考にパターンを刷り込み、同様にカトリーヌを使った斬りと見せ掛け、反対の腕で魔法により氷柱を生み出し、ユリーの肩へ放っていた。

結果は見ての通り、ユリーの肩に見事氷柱が突き刺さっている。


「そこまで!」


 どこかから声がすると、岩陰からマザーが姿を現す。

 

「フォル君、すごいよ!私感動しちゃった!それにしても、こんなに早く決着がつくとは思わなかったわ。」

そう言いながら、マザーはゆっくりと歩きながらこちらへ向かってくる。


「あ、あの、早く師匠に治療を……」


「あぁ、彼なら大丈夫」

マザーはそういうが、大丈夫な訳がない。肩に氷柱が突き刺さっているのだ。放っておけば、間違いなく失血死する。しかし、当の本人であるユリーも全く慌てる気配がない。


「なるほど、剣でフェイクをかまして氷柱をぶち込んだかァ。お前やるじゃねェか!」


「え、いや、師匠、大丈夫なの?」


「ン?あァ、これか。大丈夫だぜ」

ユリーはそう言うと、自ら氷柱を引き抜いた。しかし、不思議なことに一切血が出ない。


「あれ、血が……」


「詳しくは後で説明する」


そして、こちらまでたどり着いたマザーがフォルに一つ尋ねる。


「フォル君、1つ聞きたいんだけど」


「はい、なんでしょうか」


「真剣勝負とは言え、だいぶ大胆じゃないかしら。肩に氷柱を突き刺すなんて。下手したら死ぬわよ」


「あぁ。そうですね。でも、師匠が強いのは分かってますし、手を抜いたら怒られますから。それに、」


「それに?」


「あの、マザーの気配を感知していたので、恐らく治療はすぐに出来るだろう、と思いました」


「私の気配を感知していたの?」


「まぁ、そうですね」


 この言葉を受けて、マザーは一瞬驚くと、ユリーと顔を見合わせる。ユリーは満足げにマザーに目をやり、頷く。


「合格だァ!」

ユリーはいきなり叫ぶ。


「うわっ、びっくりした」


「よし、とりあえず場所を移そう」

ユリーはそう言うと、一同は場所を孤児院に移した。ユリーは、フォルにマザーと話し合いがあると言い、フォルはしばらく待機した。その後、孤児院の庭にて、ユリー、マザー、フォルが再度集合する。


「よし、俺は今から死ぬ!」

ユリーは口を開くと、とんでもないことを言い出した。


「はあ?」

フォルは驚き、間抜けな声をあげる。


「ちょっと、そんなてきとうな説明で伝わる訳ないじゃない!」

呆然としていたフォルに、マザーがフォローに入る。


「それもそうだなァ。どこから話すか。とりあえず、さっきの勝負の感想を聞こうか」


「正直言って、まさか師匠に勝てるなんて思わなかったよ」


「まァ、そうだな。だが己惚れるなよ。ありゃ俺の本来の力の100分の1程度の力しかねェ。決して自分が強いだなんて思い上がるなよ」


「え?」


「決して手を抜いていた訳ではないのよ。力を出していないんじゃなくて、力を出せないのよ」

マザーが補足に入る。


「出せない?どういう……」

フォルは理解できず、困惑するしかなかった。


「そもそも俺は人間じゃねェ。人間の体を操っている精霊だ。操り人形のように、空になったこいつの体を魔力で動かしていただけだ」


「そう。精霊は、生命に媒介して、真価を発揮するの。精霊そのものが単独で発揮できる力は微々たるものでしかないのよ」


「ちょっと待ってください、師匠が精霊?じゃあ、この肉体は……」


「死んでるわ。彼の名前はユリー=レイガール。私の夫だった人よ」


「ユリー?それって、師匠の名前じゃあ……」


「それは、恐らく彼が私に気を遣ってくれたのよ。姿形は私の夫なのに、別の名前で呼ばれることについて配慮してくれたのね。そうでしょ?」


「ン?あァ、いや、まァ、そういうことだな。」

マザーに問いかけられたユリーは、これに頷く。


「それで、だ。ここまでお前を鍛えてきた訳だが、それはバウンティハンターにするためだとは言ったよなァ?実はな、本当は別の目的がある」

ユリーは言葉を続ける。


「実は、討伐してほしい対象がいる。名前はハジメ=カゲヤマ。そして、その仲間だ」


「ハジメ?え、それって、あの、勇者の、ハジメ様?」


「そうだ。誰彼構わずいえる内容じゃねェ。だから、訓練を通して、俺が認めた奴にしか話せないんだよ」


「いや、勇者殺しなんて、そんなこと、そんなことしたら死刑どころの話じゃあ……」


「あァ、そうだ。勇者のままならな」


「え?それは、どういう……」


「実はね、私たちはハジメ君達が魔王を倒した後、彼らの帰路の護衛役として駆り出されたことがあるの。魔王を倒す前にも、交流はあったんだけど、魔王の討伐後の彼らは、もはや勇者ではなかった」


「あァ。どういう訳か、奴らは魔物というか魔王というか、とにかく人間じゃなくなってたんだよ。強力な魔物からは邪気というものが放たれているのだが、奴らからは、魔王の邪気に近いものが感じられた」


「そして、現に私の夫は彼らに殺されたわ」

ユリーとマザーが信じられないような話を交互に話す。そして、驚くことに徹していたフォルがユリーに疑問をぶつける。


「だとしたら、大問題になるはずなのに、そんな事誰も知らないよ。どうして知られていないの?」


「ユリーを殺して以降、奴らは息を潜めていて、目立ったような事はしていない。そして何より、魔王を倒した英雄に、そんな噂が流れてみろ。それに、やっと平和が訪れたと思ったら、今度は勇者が魔王みてェになったっつー救いようもねェ話だ。世の中は大混乱に陥るだろ。この話については、一部の人間の中にだけ伝えられる、原則口外禁止の情報だ」


そして、言葉を続ける。


「というわけで、俺は今からお前に宿る。そして、お前は今から勇者を討つため、保持者(ホルダー)になる。覚悟はいいか?」


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