7話 師弟対決
マザーの授業とユリーとの訓練を経て半年が経った。フォルはとても充実した時間を過ごした。友と語らい、良き師に、時には厳しく、時には優しく、大切に愛情に恵まれた時を過ごした。
フォルには弟がおり、奴隷として捕らえられるまでは両親ともに健在であったが、唯一、しかし非常に大切である愛情に欠けていた。元々貧困の家庭であったし、弟が優秀であったために、劣る兄は可愛がられなかったのだ。
だから、こうした生活は、フォルにとって新鮮であり、とても幸せな時間であった。
そして、今日は騎士団の入団試験。フォルとユリーは孤児院の皆を見送りに来ていた。
「頑張ってね、皆」
「おう!さっさと終わらせてくる!」
フォルの激励にアルフェイが軽く答える。
「ちょっと、本物の入団試験なんだから。軽く考えちゃだめだよ!」
聞いていたフェティアナがアルフェイを諭す。
「……。じゃあ行ってくるわ」
真剣な面持ちに切り替わったアルフェイは、その言葉を残し、孤児院を後にした。
フォルは、孤児院の皆を見えなくなるまで見送ると、しばらくその残像を想起して、彼らが見えなくなった道をずっと眺めていた。
「よし、お前も試験を始めるかァ」
横にいたユリーが突然言い出した。
「試験って?」
バウンティハンターに試験は無い。死者が多く、常に人手不足であるため、基本的に登録さえすれば、誰でもなることが出来る。フォルがこのような疑問を抱くのも当然であった。
「お前の実力を試すんだよ」
「いつもやってると思うんだけど」
「うるせェなァ。テメェ、生意気な口ばっか成長しやがって、半年くらい前の健気さはどこいったんだァ」
「口の悪さで師匠に言われたくないなあ」
「とにかく、だ。これからお前に試験を受けてもらう」
「何をするの?」
「勿論討伐だ。対象は、俺だァ!」
「は?」
「いや、だからよォ、俺と戦うんだよ」
「本気?」
「ッたりめーだろォ。準備しろ。昼からやるぞ」
フォルは街へ行き、魔石を購入したりと準備を進めた。昼になると、準備をユリーとフォルは場所を訓練場として使っている砂漠に場所を移した。
「これは俺からのプレゼントだ。使えッ!」
ユリーはそう言うと手に持っていた片手剣をフォルに向かって放り投げた。フォルはこれを見事にキャッチする。
純白の鞘に純白の柄。まさに純白の刀と呼ぶにふさわしい姿をしていた。
「そいつァ『帰還刀・カトリーヌ』。ヘンな名前だが、これでも魔道具の中でも国宝級の魔道具、宝具だ。鞘を所持している者ン所へ帰ってくるようになっている」
「ありがとうございます」
フォルはそう言うと、カトリーヌを携帯した。試しに剣を抜き放り投げてみる。
「念じてみろ」
ユリーがそう言うと、フォルは剣が戻ってくるよう念じた。
すると、カトリーヌはフォルの手元へと一瞬にして転送されたように戻ってきていた。
「これは、すごい。」
「それじゃ、始めるぜッ!」
「ええ!?急だなぁ。」
フォルの関心を無視し、ユリーは開始の合図を告げる。
フォルはカトリーヌを手に取り身構える。一方、ユリーはただ立っており、フォルの出方を伺っている。
フォルはもう片方の手に握りしめている魔石を確認すると、フォルはカトリーヌを振りかぶり、ユリーに斬りかかる。ユリーは横に身をかわすと、着地したフォルを蹴り飛ばす。
「グッ!」
バランスを崩し、倒れかけるが、何とか持ちこたえた。その隙に、ユリーはフォルの剣が届かない程度の距離を置いた。
フォルは体を起こしざまに、ユリーに剣を投げた。
「おっとォ!!」
ユリーは慌てて避けたため、若干体勢を崩す。それを見たフォルは、ユリーに突っ込む。
「おォ?武術かァ!?」
ユリーは構えたが、ふと気づく。
「ッ!マズイッ!」
フォルは、手にカトリーヌを呼び戻すとそのまま再び振りかぶり、斬りかかった。そして、カトリーヌは何かを捕らえた。しかし、それはフォルが狙っていたものではなかった。
「砂!?」
カトリーヌは、地面から伸びてきた砂に刺さったまま抜けない。その隙にユリーは距離を取る。
「今のは焦ったぜェ。正直そこまでやれるたァ思わなかった。そんじゃ、こっちからも行くぜッ!」
ユリーがそう言うと、ユリーの背丈ほどの砂の壁がザラザラと地面から上がってきて、壁にユリーが隠れる。
「砂玉ァッ!!!」
砂の壁から、高速で一塊の小さな砂が無数に鉄砲のように飛んでくる。
「な!?」
フォルは身体機能を向上させる強化魔法を唱え、思い切り射程圏外へ飛ぶ。
魔石は大した大きさの物でもなく、身体機能はすぐに元通りとなる。すぐさまポケットを探り新しい魔石に持ち替え、カトリーヌを手元へ呼び戻し、思考する。
相手は保持者。どうする。どうすればいい。
「おォ、砂玉を避けたかァ!クックック、次はどうする?」
ユリーはニヤニヤと笑いながら挑発する。
基本的にユリーは普段から土や岩を操る魔法しか使わない。突然発火したり、電流を浴びたりする恐れはない。石や砂を動かす分、他の魔法に比べて相手に届くまでに時間がかかる。つまり、ユリーに効果的な手段は、反撃の隙を与えない近接技のコンビネーションだ。 しかし、ただ突っ込んでも、カトリーヌを警戒されている以上、恐らく砂でカトリーヌを捕らえられ続けるだろう。
かと言って、今フォルが使える技は多くは無い。
そうなれば、
思考が結論に達すると、フォルは早速行動に移す。
フォルは、真っ直ぐユリーに向かって走り出した。そして、魔石を使って身体機能を向上させ、スピードを転調させて一気にユリーへ突っ込む。
「ハハッ!おもしれェ!!!」
ユリーは満面の笑みでそう言うと、ユリーの周りの砂がサラサラと動きだし、迎撃の体勢に入る。
フォルは先ほどと同じように、カトリーヌを振りかぶり、思い切りユリーを斬りつける。
しかし、
「無駄だァ。分かってんだろォ?」
冷めた口調で、鋭く答える。やはりカトリーヌはユリーの頭上へ地面から伸びてきた砂に掴まれてしまっている。
フォルは、すかさずカトリーヌを手元に戻すと、今度は屈んで左の外側から内側へ向けて刃を走らせ、斬りかかる。
「テメェ!同じ相手に何回同じ手使ってんだァ!!舐めてんのかァ!?」
ユリーはそう言うと、カトリーヌを受け止めるための砂と、もうひとつ、刃のように鋭い岩を地面から生成し、まずは脇腹まで接近してきたカトリーヌを砂で受け止める。
そして、体に何かが突き刺さるような鈍い音がした。
「ンァッ!?」
ユリーの右肩に、片手剣程度の氷柱が突き刺さっていた。