6話 交流
フォルは落ち込んだ様子でユリー達のいる場所までトボトボと歩いて戻る。
「なんだァ?なに落ち込んでんだよォ」
ユリーがフォルの気も知らないで能天気に話しかけてくる。
「いつもなら、あのリビックは、1回で、」
悔しさ交じりにフォルが言葉をとぎれとぎれながらも心情を吐露していると、それを察したユリーが遮って発言をする。
「ハハハッ!まァ最初は緊張してるのがバンバン伝わってきたぜェ。ありゃァ上手くいくわけねーたァ思ったが、よく冷静さを取り戻したと思うぜ」
「そうよ!私驚いちゃったんだから!もしかしたら、フォル君。将来は騎士団長になっちゃったりして!」
ユリーの言葉を聞いていたマザーは、大げさにフォル励ますのであった。
フォルは、マザーはともかく、ユリーに励まされるなんて珍しいなぁと思ったが、そうではない。実際にフォルは成長しているのだ。フォルは1回目の失敗から冷静を素早く取り戻すことが出来たのだが、そうした咄嗟の判断が実際の戦場では生死を分ける。そして、今回フォルは適切な判断をすることが出来た。
ユリーはただフォルの成長を正しく評価しているだけなのだが、当の本人であるフォルはそのことに気付けず、単に落ち込んでいる自分を励ましているに過ぎないものだと考えた。
「マザぁー!」
すると、突然子供の声が孤児院の方から聞こえてくる。赤髪で毛がツンツンと跳ねている元気そうな少年と、白髪で長いストレートヘアのおっとりとした女の子がマザーの元へと走ってくる。
「俺もうお腹空いちゃったよぉー!」
赤髪の少年がそう言うと、白髪の女の子はそれに困ったようにマザーと少年を交互に見ていた。
そして、マザーは二人に、フォルに対して自己紹介をするように促す。
「俺はアルフェイ!皆からはアルって呼ばれてる!よろしくな!」
「私はフェティアナ。フェティって呼んでね。」
二人に続き、フォルも自己紹介をする。
「フォルです。よろしく」
「ん?お前も騎士団に入りたいのか!?」
アルフェイは、フォルの腰元の剣に気付くと、食い気味に聞いてきた。
「いや、僕は賞金稼ぎ……」
フォルがそう言うと、アルフェイは目を丸くして固まった。
子供であれば、まずは騎士団に一度は憧れるものなのだ。騎士は、国の英雄として称えられ、非常に名誉のある職業なのだ。それに対し、バウンティハンターは死者も多く常に死と隣り合わせであって、騎士団落ちの最終的な受け皿という位置づけなので、アルフェイがこのように驚くのも無理はない。
「へぇー、お前変わってるなぁ!俺はさぁ、騎士団長になって、オルゲード様みたいに平和の象徴になるんだ!」
「そうなんだ、すごいね」
騎士団に疎いフォルはてきとうに相槌を返すと、マザーが割って入る。
「そのためには、まずリビックを倒せるようにならなくちゃね!」
「おう!俺はもう魔物と戦って特訓しているんだぜ!すごいだろ!」
「そいつァ、頼もしいなァ!坊主、強くなれよ!」
フォルが反応に困っていると、ユリーはアルフェイに声をかけた。フォルも、何となくこれに同調するのであった。
「マザー、今日はマザーの代わりに私がご飯を作るね!」
一部始終会話を聞いていたフェティアナが、会話の終わるタイミングを見計らって、マザーに声をかけた。それを聞いて、料理に関心を持ち始めていたフォルは若干反応する。その反応を見過ごさなかったユリーは、フォルに命令を下す。
「フォル、手伝ってやれ」
「い、いいんですか?」
「あァ。邪魔になるようなことはすんなよ」
フォルは元気よく返事をすると、喜んで孤児院の中へ向かっていった。アルフェイも遅れながら、ちょっと待てよー!と言いながらついてきた。そして、夕食の準備をフォルとフェティアナで済ませ、フォルも孤児院の子達と一緒に食事を取ることにした。
他の孤児院の子達とも楽しそうに会話をしているフォルを見ながら、別の席でユリーとマザーが密かに会話をしていた。
「なァ。こいつら全員騎士団の入団試験を受けさせるのか?」
「えぇ。それがオルゲードが皇帝様に頼み込んで取り付けてくれた、最大の譲歩だから」
「国からの支援金がなきゃ成たたねェもんなァ。お前がバウンティハンターとして稼げばいいんじゃねェのかァ?」
「万が一、ここに何かあったらどうするの?」
マザーはそう言うと、ユリーを厳しく睨む。
「それもそうだな。ってこたァ、ここは実質的に騎士団養成所ってとこか。まァ、お前が指導者なら試験は問題なさそうだな」
「どうかしら。ただ、この子たちの将来を勝手に決めてしまっている事に、凄く罪悪感があるわ」
「んな事言っても仕方ねェよ。奴隷として死んでいくよりはマシだろ。それを言ったら俺だって、フォルを殺すことになるかもしれねェ」
ユリーがそう言うと、お互いに言葉を失い、沈黙が続く。
「そうだ、フォルをここで指導してやってくんねーか?」
ユリーが話を変えようと、提案を持ち掛ける。
「あなたが教える以上の事は、私には無理よ」
「ずっと面倒見ろって事じゃァねーよ。何日かに一回、こうして交流させてやって欲しい。あいつァ今まで俺としか接してきてねェ。他者との交流する力がねェと、バウンティハンターとしても色々と支障が出てきちまう」
「分かったわ。そういうことなら、私もそれが良いと思うわ」
食事を済ませると、フォルはユリーに呼び出された。
「――というわけで、お前もここで一緒に勉強してもらう事になったァ!」
「えっと、急ですね。それはどういう訳なんでしょう」
「あァー?うるせェな、俺がそう言ってんだから文句言うなクソガキ!」
「いつもという訳じゃないわよ。ただ、フォル君と一緒にここに来た子達もいるし、お友達も出来るかなぁーと思って」
マザーが子供じみた言い争いに割って入り、フォルに持ち掛ける。
「分かりました。……あの、そしたら料理とかも、」
「勿論手伝ってもらうわよ!」
フォルが何か言いたげに口ごもると、察したマザーが答えた。そう言われると、フォルの顔がパッと明るくなった。
ユリーは、分かりやすい奴め、と心の中で笑うと、フォルを愛らしく思うのであった。