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5話 違和感

「あら、ちょっと来るのが遅かったわね」

あの眼鏡の女の声がする。


「色々街案内とか買い物とかしててなァ」


「あ、この間はありがとうございました。あの、」

フォルは治療のお礼を述べるが、彼女の名前を知らないため、言葉につまる。


「私の事はマザーって呼んでね」

眼鏡の女は優しい笑顔でそう言うと、表情は一変して、何やらやる気に満ちた表情でフォルを見つめる。


「さて、じゃあさっそくお手並み拝見といきますか!」


「は?」

フォルは女の言っていることが何一つ分からなかった。フォルの困惑した様子を見て、マザーはユリーにクレームをつける。


「あなた、この子に何も説明していないの?」


「あァ?俺はちゃんと孤児院に行くっつって連れてきたぞ」


「そうじゃなくて!今日魔物と戦ってもらうってことは言ってないの?」


「そうだなァ、でもこいつァいつも戦ってるし、大丈夫だぜ」


 マザーは、まったく。と言葉を漏らすと、フォルに確認を取る。


「えっと、急だけどごめんね。今から魔物と戦ってほしいんだけど、無理なら日を改める?」


「いや、僕は特に問題ありませんが」


「なァ?多少は逞しくなったろォ?」

ユリーが割って入る。


 マザーはこれを無視すると、手に持っていた本を開き、地面に置く。そして目を瞑り、何かを唱え始めた。すると、本に書かれていた文字がウネウネと動くと、本から飛び出し、黒い鎖となってジャリジャリと伸びてくる。

先端に黒い首輪が生成されると、首輪のサイズにぴったりはまるように魔物がズワッと急に姿を現した。


「これは……?」


「私が捕獲した魔物よ。この本は魔導具。フォル君に戦ってもらうのはこの子!」


 マザーが召喚したのはリビックという魔物であり、家畜として飼育されている豚が精霊を取り込み突然変異した魔物だ。魔物は、動物が精霊を取り込んだり、魔力を持つことで動物から突然変異したのが始まりである。

そして、リビックは、豚に剛毛な毛が生えたような容姿をしており、毛の色は白に若干ピンク色がかかったようであり、また、イノシシのような長さの毛が生えている。体長は膝くらいの高さで大きさも大体子豚程度の大きさだ。

戦闘態勢に入ると、魔法により体毛に熱を帯び、タックルをしてくる。長時間触ればやけどをしてしまう。しかし、


「あの、リビックでいいんですか?」


「ええ。あの子を捕獲してね」


 フォルは、こんなものでいいのか、と驚いた。やけどをすると言っても、長時間触ればの話であるし、大きさも膝に届くかどうか程しかなく、タックルも軽い打撲をしかねない程度であり、脅威とは言えない。何より、街と家までの行き来で既に何体か倒している。


「フォル、魔石は2つで良いな?良いか、『捕獲』だからな」

そう言うと、ユリーは小魔石を手渡してきた。


「それじゃあ、始めるわよー!」

マザーが調子よく合図をすると、ぼーっとしていたリビックは突然フォルに敵意をむき出しになった。


 フォルはユリー以外の人に見られながら戦うという違和感を抱えながら、1つ魔石をポケットへ入れ、1つは手の内に収めたままにした。

リビックの体毛が若干逆立つ。魔法で体毛に熱をまとっている証である。そして、鼻を下へ向け、軽くその場で足踏みをすると、フォルへジャリジャリと鎖の音を立てながら突進してきた。

フォルはしゃがみ、手を地に着ける。リビックは鼻を下に向けて突進してくるが、これは弱点の鼻から相手に突っ込まないようにするためである。

そして、フォルはリビックが下を向けている鼻にダメージが与えられるように、魔法で突出させた岩をリビックの鼻にぶつけるタイミングを図る。


 よし、よし、もう少し引き付けて、

 

 今……ッ!


 フォルは心の中でリズムを取ると、一気に魔法を発動し、地面から岩を突出させた。


 すると、リビックの頭がゴツンと鈍い音を立てて岩にぶつかった。

タイミングが早すぎたのだ。マザーに見られているという普段とは異なった状況による違和感と緊張感によって、力みと焦りがタイミングを早めてしまった。リビックは体毛に覆われており、鼻以外には物理的なダメージは受けにくい。

リビックは、ぶるぶるっと身震いをすると岩を避け、再びフォルを捉えて足踏みを始めた。フォルは咄嗟に距離を取り、手元にある魔力を失いただの石と化した魔石を捨て、ポケットから新たな魔石を取り出す。


 フーっと深く息を吐き、平静を取り戻しすと、リビックの突進に集中する。

フッ、フッ、フッと短く息を切らしながら、リビックが突進してくる。今度は冷静に見られているからか、リビックの突進速度を完全に把握出来ていた。


 そして、先ほどの力んでいた状態とは異なり、全身から力が抜けた状態でありながらも意識だけは集中させていた。


 あと少し、もう少し、もっと引き付けて、


 よし、ここだ。


 フォルは冷静に距離を見極め、魔法を発動する。


「ピギッ!」

リビックの鼻に岩が直撃した。リビックが苦しそうに悲鳴を上げると、その場に倒れ込んでしまった。

フォルは、リビックが意識を取り戻さないうちに、既に首輪が付いているものの捕獲の体をなすために縄で縛りあげ、終わりましたと言った眼差しでマザーの方を振り返った。

いつも通りであれば、フォルは2回目の魔石を使用するところからの動作を初動から出来たのだが、普段と異なる状況がフォルに焦りを生ませた。フォルは、恥かしさと悔しさを強く感じるのであった。


「どうだ?」

マザーの横で見ていたユリーが、マザーへ問いかける。


「そうね。悪くは、無いんじゃないかしら」

マザーは、今までフォルに向けたことないような、冷酷とも捉えられかねないような顔でフォルを見つめたまま答えた。


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