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4話 感動

 なんだこれは。


 フォルは驚愕していた。田舎者のフォルは普段家の貧しい料理しか食べたことが無く、ユリーと暮らし始めてからは、ユリーが焼いた肉の塊ばかり食べていたので、外食というものを経験したことがなかった。


「おォ、そんながっつくなんて珍しいじゃねェか」


「凄くおいしいです。レストランの料理ってこんなに美味しいんですね」


「いやァ、これはこの街の名物料理で、普通の家でも作られているモンだぞ。」


「これが!?そうなんですか。それは、良いですね」


「なんだァ、俺が作る飯じゃ不満かァ?」


「いえ、そういう事では……」


「ハハハッ!まァ俺は肉焼いてるだけだからなァ!まァ、味わって食えよ」


 ユリーにそう言われると、フォルは料理を食べることに夢中になった。

 この街はジェノ帝国の城下町。ジェノ帝国は軍事力に長けており、各国が紛争の渦中にある中で、極めて安全な街として人気があり、豊かな街でもある。


 フォルは味わいながらも全ての料理を平らげ、依頼所へ向かった。依頼所では、主に懸賞金や依頼のチェック、報酬の受け取りをすることが出来る。ここを利用する依頼者は民間人だけではなく、国家的に危険度が高いと認定された魔物や犯罪者は、国から懸賞金が掛けられる事がある。

そして、ユリー達は依頼所へ向かった。


「おっと、あぶねェ。忘れてた」

ユリーはそう言うと、何やら仮面を取り出し、顔に着けた。


「それは?」


「あァ。ちょっとあってなァ。お前は付けなくても大丈夫だ。さァ、中へ入るぞ」


中へ入ると、まるで役所のような雰囲気があった。賞金稼ぎ(バウンティハンター)や傭兵が利用する機関であることから、何となく汚らしく闇の世界が垣間見えるようなところかとフォルは思い込んでいた。


「意外と綺麗ですね」


「あァ。国家機関みたいなもんで、国防を主な職務とする騎士団がカバーできない範囲を補う機関だからなァ。国もガッツリ関与している機関だから、意外とちゃんとした所なんだぜ」


 壁には高額な懸賞金が掛けられた魔物や犯罪者が貼られている。そして、その下にある机の上に、懸賞金リストと書かれた本が置かれていた。手に取って、開いてみる。すると、写真と懸賞額、そして、魔物に関する情報が記載されていた。


「師匠、名前が無い魔物もいるのですが」


「あァ、奴らはネームレスといってなァ、討伐対象になっちゃいるが強くて狩ろうとしなかったり、討伐しようとしても返り討ちにあっちまったりで、情報や特徴が集まりにくいから名前をつけられないような奴らだ」


「強いんですか?」


「あァ。ネームレス級の魔物を討伐できるようになったら一人前のバウンティハンターの証だ」


「そんなことより、ちょっと来い」

ユリーに呼ばれ、フォルは懸賞金リストを置き、受付にいるユリーの元へ駆け寄った。


「依頼リストを見せてくれ」

ユリーは受付にそう言うと、受付は笑顔で応対し、ユリーに懸賞リストを手渡した。


「依頼は大量に来ては流れるように処理されていくからな、請負人が重複しないように依頼に関しては依頼所で管理されている」

なるほど、とフォルは頷く。


「ユリー、殿?」

どこからかユリーを呼ぶ声がした。


「師匠、あちらの方が、」


「マズイッ!行くぞッ!」

そう言うと、ユリーはフォルの手を引き、依頼所を後にした。


「危なかったぜェー」


「今のは何だったんでしょうか」


「あァ。ユリーの旧友か何かだろうな」


「師匠の、ですか?」


「ん?あァ。そうだな。とりあえず、本屋に行くぞ」


「はい」

フォルは、慌てるユリーに若干の違和感を覚えながら、ユリーについていった。


 本屋に入ると、ユリーはフォルに魔法を教えるための教材を探し始めた。ユリーのあとをついていこうとすると、ある本が目に入った。


『基礎から分かる!リカーナ地帯周辺地域の名物料理の作り方』


 リカーナ地帯とは、ジェノ帝国の統治下に置かれている周辺の村を含めた一帯の地域を指す。パラパラとめくると、先ほど食べて感動した料理も載っていた。フォルは食い入るように見る。


「なんだァ。欲しいのか?昨日の懸賞金で買ったら良いじゃねーか」


「良いんですか?」


「良いも何も、お前の金なんだから好きに使えよ」


「ありがとうございます!」

フォルは本を持ち、嬉々として会計へと向かった。来る日も来る日も訓練の日々だったので、何かに好奇心を示すフォルを見たのは初めてであった。自身の野望のためとはいえ、フォルに己の期待を強いすぎた。ユリーは深く反省した。

会計を済ませ、満足げなフォルにユリーは一つ提案をする。


「食材買って帰るかァ?」


「良いんですか!?」


「本だけ持ってたって作れなきゃ意味ねェーだろ。その方がお前も食うだろうしなァ。その代わり、食う量は俺が決めるぞ」


「はい!」


 フォルには大きな使命を負ってもらう事にはなるが、多少の趣味や生き甲斐は生きる人間として持つべきであるということはユリーも感じるところであった。

そして、八百屋や肉屋を回って、一通り買い物を済ませると、帰宅することにした。孤児院へは、買い物の荷物が多いことから、家に荷物を置いてから行くことにしたのだ。

勿論、帰路に現れた魔物はフォルが倒すことを命じられた。


 フォルは気分が高揚していたからか、帰路の魔物狩りは大して苦にはならなかった。心なしか、行きよりも帰りの方が早く感じた。

自宅に着き荷物を整理すると、すっかり夕方になっていた。


「ちっと遅くなっちまったなァ。でもまァ、孤児院に顔合わせにだけでも行くか。なァ?」


「わかりました。」

 

 ユリーとフォルは家の中の物が一緒に転送されないよう外に出て、赤く丸い玉を取り出す。

 そして、一瞬にして景色が一変する。


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