3話 街へ
「よくやった!初戦にしちゃ上出来だァ!」
ユリーは倒れているフォルに拍手をしながら声を掛けてきた。
「あ、う、ぐ……」
フォルは返事をすることが出来ない。ピーポットに噛まれた腕の肉が抉れ、出血も激しい。遠のく意識を留めておく事と、痛みに耐える事で精一杯であった。
「よく頑張ったな!」
相変わらず満足そうな顔でフォルを称えるのであった。
そして、ユリーは赤く丸い宝石を取り出すと、景色が一変した。
「ちょっと!何と戦わせたの!?」
あの女の声がする。どうやら最初に連れてこられた白い家に着たようだった。
「あァ?ピーポット」
ここまで聞くと、フォルは意識を失った。
どのくらい経っただろうか。
ゆっくりと意識が戻ってくる。柔らかい。どうやら自室のベッドの上にいるようだ。
「おォ!起きたか!飯にするぞ!」
目を覚ますのを見守っていたユリーが起床を促す。
「あ、れ?確かあの女の人の所に……」
「あァ、治療はもう済んだから俺が連れて帰ってきたぜ。んな事より飯にすんぞ!早く起きろ!!!」
そんな事言われても、こんな体で、あれ?おかしい。どこも痛くない。
服を捲り慌てて腕を見る。ピーポットに噛まれた傷が完治していた。というよりも、傷跡一つ無くなっていた。若干パニックになりながらも、催促してくるユリーをこれ以上怒らせないために、起床し、食事の準備を始める。
食事を始めると、相変わらずユリーは砂を大量に飲み込んでいた。一方、フォルは食があまり進まない。それもそのはず、戦闘はしたものの、大した時間は要してらず、あとは寝ていただけであった。その上、戦闘の前に大量の肉を食わされていたのだから、消化が追い付いていない。
「ンー?どうした。食わないのか?」
「あまりお腹がすいてなくて……」
「そうか。まァいいから食えよ」
「いや、ちょっと」
「食えよ」
「……はい」
食べ残しなど許される訳がない。分かっていたことだが、フォルはがっくりと肩を落としながら目の前にある肉の塊を口に運び始めた。
「あァ、さっきの報酬だ」
ユリーはそう言うと、雑に紙幣と幾らかの硬貨をテーブルの上に置いた。
「報酬?」
「お前さっきピーポット狩っただろォ」
「え、あれって懸賞金かかってたんですか?」
「当たり前だろォ!安全なヤツ狩っても面白くねェだろ!?」
「いや、痛かったです」
「ハハハッ!まァ何事も経験だ若造!とりあえずこれは初めてのお小遣いだ」
「紙幣もある。こんなに懸賞金かかってたんですね」
「まァ、懸賞金かかってるってこたァ、それなりに危険度も高いし、懸賞金がかけられている魔物は最低でもこのくらいのもんだ」
テーブルには1220ルークが置かれている。大体パン1個で20ルーク程度なので、少ない額ではない。ピーポットはバウンティハンターの中では大して危険視されている魔物ではなく、単体で懸賞金が掛けられている魔物の中では最低ランクだ。しかし、フォルもユリーに救助されていなかったら、腕には障害が残る可能性があったし、最悪の場合、切断の可能性もあった。戦闘力を持つフォルですらこの様なので、民間人にとっては十分な脅威だ。
懸賞金の額はバウンティハンターにとってはある意味命の天秤になるので、懸賞金の額が低く、自分戦闘力や命に見合わなければ誰も討伐しない。
「明日、街に出てみるかァ。社交性も必要だ」
「街、ですか」
フォルは田舎育ちであったので、あまり街に馴染みが無かった。ピンと来ない様子でユリーを見つめた。
「お、行きたくねーか?でもなァ、懸賞金のリストや換金は街じゃないと出来ねェから、訓練の一つとして行ってもらうぞ。」
「いえ、田舎育ちなので、ピンと来てないだけです」
「あァ、そういう事か。じゃあ、色々まわってみるかァ」
フォルは何とか食事を平らげ、就寝に入った。
そして翌日。
「よし、行くかァー!道中に魔物が出てきたら、フォル。お前に倒してもらう!」
「あれ?あの玉は使わないんですか?」
「あァ。あれはお前らが最初に飛んだあの孤児院にしか行けねェ。」
「あそこ、孤児院なんですか?」
「お前何も知らねェんだなァ」
「いや、何も言われてないから……」
「あそこにも遊びに行くかァ。お前と同じ檻にいた奴らもいるぞ。」
「そうですか。あまり覚えてませんが」
そう言うと、ユリー達は街へ向かった。
道中、整備されているため、懸賞金がかかったような魔物が現れることは無かったが、懸賞金がかかるに値しない程度の魔物が度々現れた。しかし、弱い魔物ではあるもののフォルが経験値を積むには程よいものであった。
しばらく歩いていると、街が見えてきた。
「おう。あれが街だ」
「はぁ、はぁ……」
「おいおい、元気ねーなァ」
「ちょっと、魔物が、多くて」
「情けねェーなァ!まァ、それも慣れだ!」
「は、はい」
散々歩いてきたユリー達は、食事を取って英気を養う事とした。通りかかった店に入ると、ユリーは街の名物料理を上からてきとうに頼んでいった。
「あの、師匠も食べますよね」
「ん、あー。街で砂食う訳にもいかねーしなァ。まァ食ってもあんま意味ねーけど、ちょっとは食うかな。後は全部食っていいぞ」
「いいぞ」って。
フォルは心の中でそうつぶやいた。結局いつも無理やり食わされることになるのだ。