2話 初陣
ある日、フォルはユリーに苦しめられていた。
「も、もう無理です」
「駄目だ!もっと食わねェと強くなれねーぞ!」
ユリーは袋に詰め込まれた砂を口に大量に流し込みながら、フォルを怒鳴りつける。
「うぅ、苦しい……」
ユリーの主食は砂だ。そして、多くの水分を取る。どういう原理で砂だけで生きているのかは分からない。しかし、現にこうして砂を大量に飲んでいて、しかもそれだけで生活している。
フォルは、勇気を出してユリーに問いかける。
「あの、なんで砂を食べてるんですか」
「あァ?うるせェ、俺の主食なんだよ」
「いや、あの、普通にご飯は食べないんですか」
「ッたく、うるせーなァ。いいから食え!食ったらすぐ修行に入るぞ」
「え、あの、はい……」
フォルの試みは失敗に終わった。そして、目の前にある大きな肉の塊を何とか平らげる。正直、今から体を動かせば吐いてしまうほど苦しい状態にあった。しかし、そんな事情を汲むような緩さはユリーには無い。
早速外に出て、訓練場所である砂漠地帯に移動し、修行が始まる。
「よし!早速だが、今日はいよいよ魔物と戦ってもらう!初の実戦訓練という訳だァ!」
「ですが、魔物は、」
「おう!今捕まえてくる!」
ユリーはそう言うと、地面の中へ潜っていった。ユリーは土を操る魔法に長けている。地面にある砂や岩を手足のように自在に操る。この世界において、魔法は誰しも使うことが出来る。本来、人間や動物が魔法を使うことが出来ない。しかし、魔石を介し精霊の力を借りることで、魔法を使うことが出来る。
その中で、ある限られた人間だけは、魔石を使用せずとも魔法を使うことが出来る。それが保持者と呼ばれる存在である。保持者とは、何らかの事情により、体内に精霊を宿すに至った者の事である。
ユリーは魔石を使用したり、大きな魔法に必要な術式の暗唱を用いずに砂や岩を操っているので、恐らく何らかの精霊を宿した保持者なのだろう。
しばらくすると、魔物が入った砂の檻を手に下げたユリーが歩いて帰ってくる。
「よーし、こいつと今から戦ってもらう!」
ユリーが捕まえてきたのは、ピーポットと呼ばれる魔物だ。
体は白く、人の顔ほどの大きさで、卵のような楕円の球体の形をしており、真ん中に物騒なほど大きな口がある。
そして、羽が生えており、普段は卵に扮して動かないが、卵だと錯覚して襲いに来た動物を捕食する時や敵に遭遇した際は、羽で浮遊し、攻撃に転じる。
「知っての通り、魔物と動物の違いは魔法を使うことだ。という事は、魔物のコイツも当然魔法を使う。気を付けろよ。じゃあ、始めるぜ!」
そう言うと、ユリーが手に下げていた砂の檻がさらさらと崩れていく。
「ギギ、ギイ!」
ピーポットはフォルに敵意をむき出しにしており、威嚇の鳴き声を上げ、パタパタと羽を羽ばたかせ浮遊しながらフォルを警戒している。フォルは、携帯していたショートソードを抜き、片手に持ち、構えてピーポットの出方を伺う。
双方が動かない時間が続く。
「おらァ!ビビってんじゃねーぞ!戦えェ!」
フォルは、ユリーの言葉を受け、じりじりと距離を詰める。すると、フォルは突然腕に痺れを感じる。
「ッ!グッ!」
思わず態勢を崩し、ショートソードを手放しかける。しかし、咄嗟に冷静さを取り戻し、再び構える。
今の痺れは、電流か?つまり、この魔物は雷属性の魔法を使うのか。
フォルは今自分が受けた攻撃を推察する。
ピーポットは、魔法により電気を放出させ、相手を麻痺させる。そして、相手が動けなくなったところを捕食する魔物である。しかし、人間を一発で気絶させる程の魔法を使う事が出来ない。フォルはピーポットの魔力の低さに救われた。
フォルはポケットにあるユリーから実戦用に支給された魔石を、ポケットに手を入れ確認する。小石程の魔石が3つだ。つまり、この魔物を、ショートソードと魔石3つ以内に倒せ、ということである。
この魔石の大きさからすれば、1個につき1回ずつしか使えないだろう。3回しか魔法が使えないのに、様子見で使うのはもったいない。どうする、どうする。必死に考える。ずっと様子を見ている訳にもいかない。かといって、迂闊に近づけばまた電流を浴びる事になってしまう。
動きはそんなに速くない。ここは、遠距離から攻撃を当てるのが良いか。
フォルは覚悟を決め、空いている片方の手でポケットから魔石を取り出し、手に意識を集中する。
「はァァーッ!!」
フォルは、ショートソードを持っている方の腕に風をまとい、ショートソードを振り上げ、ピーポットに向かって振り抜く。そして、そのタイミングで腕にまとった風は刃を伝い、鋭い風の刃となってピーポットへと向かう。
ジャッと鈍い音を立てて、ピーポットの体に切り傷を付ける。パタパタと飛んでいたピーポットはバランスを崩し降下しだす。
フォルはこの機を逃さなかった。一気に刃が届く圏内へと飛び込み、そしてショートソードを振り上げた。
しかし、全身に痺れが襲い掛かる。近距離で電流を浴びたせいか、先程とは比べ物にならない痺れがフォルを襲う。フォルは、思わず膝から崩れ落ちた。苦痛の叫びをあげる余裕もなかった。
そして、ピーポットはフォルに襲い掛かる。ピーポットは、フォルの殺傷能力を奪うべく、ショートソードを持っていた利き腕にかみつく。ピーポットの牙がフォルの腕に食い込む。
「ッあああああ!!!」
思わず悲鳴を上げる。もう一方の手で必死に引き剥がそうとするが、牙が肉に食い込んでおり、一向に離れる気配はない。ピーポットの使う魔法自体は大して脅威ではない。あくまで対象の動きを止める程度のものである。最も恐れるべきは、この牙である。子供の手足であれば、嚙み切ることが出来る程度の力を持っている。
このままでは、フォルの腕も噛み切られてしまう勢いだ。
まずいまずいまずい!!!
このままだと腕を持っていかれる!!このまま何とかするしか……!
必死に思考する。
上半身を起こしてポケットから魔石を取り出し、拳に握りしめたまま、魔法を発動させるため、念じ始める。そして、嚙みついているピーポットに拳を当て、魔法を発動する。拳が突然発火し、その拳を伝った炎がピーポットを焼き尽くす。
「ギ、ギギ……!」
ピーポットはフォルから離れ、一瞬浮遊したが、すぐに地面に落ち、もがき苦しんでいる。ただの石と化した魔石を捨て、フォルはその手でショートソードを拾い、ピーポットにショートソードを突き刺す。
ピリッと足に痺れを感じる。最後の足掻きだろうか。そして、足でピーポットを押さえ、ショートソードを引き抜き、もう一度突き刺す。
ピーポットの動きは完全に止まった。
フォルは痛みと出血と疲労から、その場に倒れ込んだ。