17話 誘う音
「ッく!フッ!」
キルエは明らかにニスに苦戦していた。
「あっはははは!!!ほらほらほらほらぁ~~~!!!どうしちゃったのよぉー!!!」
そんなキルエを嘲笑うかのように、ニスはキルエに猛攻を続ける。ニスは相変わらずラッシュを続けており、キルエはこれを刀で防ぐ一方である。
そして、キルエが苦戦する一方で、フォルとダボズの戦闘の状況にも変化が訪れる。
「あ、あれ。刃が通るように……」
フォルはダボズの鈍い拳避けつつ、ダボズにカトリーヌで斬りつけていたのだが、さっきまでの硬い皮膚と比べて若干柔らかくなっていた。
「あァ。間違いねェ。恐らくあのガキに精霊を送っていたからなァ。それで弱体化したに違いねェ」
フォルはそれを聞くと、より一層力を入れてダボズに刃を刻み続けた。フォルから見ても、キルエがニスに苦戦していることは見て取れていた。そのため、フォルはさっさとこの不気味な化け物を片付け、キルエに参戦しようと気合いを入れたのだ。
しかし、そこで一つフォルの頭に一つの疑問が過る。果たして、この化け物を斬りつけたところで、機能停止に陥るのだろうか、ということである。先ほど、フォルはダボズの縫い目にカトリーヌを投げつけたが、中身は空洞であった。中身が空洞の化け物に、外側の皮膚を刻んだところで意味はないのではないか、とフォルは考えた。
「これ、斬りつけて意味あるのかな」
フォルはソルに問いかける。
「あァ?なにがだよォ」
「こいつの中身空洞だよね。斬ってても意味はあるのかな」
フォルがそう言うと、ソルはしばらく黙り込む。そして、間を置いて、ソルはフォルに一つ指示を出す。
「おい、フォル。縫い目を狙え」
「え?どうして?」
フォルはダボズの拳を避けながら、その真意を問う。
「うるせェ。キルエの方に余裕がねェ、説明してる時間がねェんだよ」
フォルは、ソルの言葉を受けて、ダボズがキツく締めなおした縫い目を積極的に狙い始める。すると、それまではフォルの攻撃を全く意に介さない様子であったダボズは、縫い目を狙われると、途端に縫い目を守る仕草を見せ始めた。
フォルはこれを見ると、恐らくそこが弱みであると捉えた。そして、フォルの刃をダボズは止めることが出来ない。次第にダボズの縫い目は解れ始める。
「おい!フォル!その縫い目をぶった斬ったら魔石を出して手を突っ込めェ!なんでもいいから魔法をぶちまけろォ!」
しかし、それにダボズが反応したのか、ダボズは攻撃を止め、両腕で縫い目を覆った。ダボズの皮膚は柔らかくなってはいるものの、腕を斬り落とすほどの柔らかさではない。かといって、ここでダボズを無視してキルエに加勢すれば、ダボズが子供たちの所へ襲撃に向かうおそれもある。
フォルはどうしたものか、と頭を悩ませながらも、必死にダボズの腕に攻撃を加え続ける。
「ぐッ……!うっ!」
一方、キルエは相変わらずニスの猛攻に防戦一方であった。
「っち、あんたしぶといわねえ。まぁいいわ。一気に片を付けることにするわ」
ニスは幼げに舌打ちをし、そう言うと、後方に跳躍し、キルエとの間に距離を取った。
「はっ、はぁ……!はぁ……」
キルエは、ニスを追おうとするも、体力の消耗で体が動かない。ニスはこれを見て、にやりと嘲笑うかのように笑みを浮かべた。
「ダボズ!!すべてをあたしに『譲渡』しろっ!」
ニスはダボズに向かってそう叫んだ。
すると、縫い目を腕で覆っていたダボズは、突然守っていた縫い目を今度は自ら、先程と同じように開き始めた。
「フォル!!今だァ!!!」
ソルの言葉を受けて、それと同時に備えていた魔石を手に取り、ダボズが開いた縫い目の穴の中に手を突っ込む。そして、フォルは発火の魔法を唱えた。
その直後、ダボズの体は突然膨張し、大きな破裂音と共に、爆発した。ダボズの縫い目からは炎が立ち上がり、爆発にフォルは吹き飛ばされた。
「はあ!?」
ニスはダボズの爆発に呆気に取られる。そして、その油断をキルエは逃さなかった。身体強化魔法を足に特化させ、ニスに向かって一直線に跳躍する。そして、勢いそのままに、刀を振り抜く。一太刀。ニスの胸には、大きな一の字の線が鮮やかに斬り込まれる。
キルエは首を斬り落とそうとしたのだが、疲労の為、腕のコントロールが鈍ったのだ。
「ヴっ!!!」
ニスはそう短く鈍い悲鳴を上げると、仰向けに倒れる。鮮やかな斬り口から血が溢れ、ニスの服を血がじわじわと染めていく。
そして、キルエも限界だった。傷こそ負っていないものの、ニスの猛攻により疲弊していたのだ。その場で膝をついた。
フォルは、爆発に吹き飛ばされ、手に大きな火傷は負ったものの、他に目立った外傷はない。ダボズの皮膚が、ダボズの体内からの爆発の衝撃を抑えたのだ。フォルは、起き上がると、キルエのニスが倒れていることに気が付く。
そして、ダボズが無残な姿になっていることを確認すると、フォルはキルエの元へ駆け寄った。
「キルエさん!大丈夫!?」
「あ、あぁ。傷は負っていない。疲れているだけだ」
キルエは何とかフォルの心配に答える。
「ヴぁう!!!がっ!!!」
ニスは、鮮やかな斬り口の痛み耐え悶えている。
「ぎーーー!!!いっ!!ゆ、ゆるさ、、!!!ふ、った……!!」
フォルは、そうやって叫び痛み苦しむニスに止めを刺そうとした。
「『おいでよ醜いお友達』!!!」
フォルが覚悟を決め、ニスに止めを刺そうとした時、ニスは振り絞るように叫んだ。
すると、突然地鳴りが聞こえ始めた。
何か大きなものか、或いは大群か、いずれにせよ、地獄への誘いを予期させる音がフォルとキルエの聴覚を襲う。




