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15話 魔物を引き連れた少女

「大丈夫、大丈夫。レイグお兄ちゃんが負けるはずない!」


 魔物を引き連れ、亀のような魔物の上に乗って移動しているフォル達を追う一人の少女は、自分にそう言い聞かせる。「こっちに来るな」という発言は、つまり、兄のレイグに危険が生じているという事に外ならない。そして、そのことは少女、ニスも十分理解していた。だからこそ、こうして自分に言い聞かせているのだ。

フォル達の位置については、レイグが召喚した魔物が密かに追っていて、それにより探知していた。つまり、レイグは2体のネームレス級の魔物、とは言っても、片方は幻影に過ぎなかったのだが、その影に隠して、1体下級の探知に長けた小石程度の小さな魔物を召喚していたのだ。

そして、探知を済ませた魔物がニスの元へ報告にやってくる。


「ん?あ、帰ってきた。おかえり!それで、獲物達の居場所は?うんうん、もうすぐ!?わかった、ありがとう!」


 そう言うと、ニスは用済みになった魔物を手で握りつぶした。


「あー、手ぇ汚れちゃった。お?あれかな?」

ニスは、フォル達を視界に捉えた。



「おい、後ろから何かくるぜェ」


「え?」

気配を察知したソルが、フォルに告げる。


「フォル!後方から魔物の群れが来る!前方はどうだ!?」

ニスと魔物達を肉眼で捕らえたキルエは、フォルに報告と確認を取る。


「こちらには何も見えません!」


「すまないがこちらの支援を頼む!アル!フェティ!お前たちは皆を先導して少し先へ離れていてくれ!前方の監視を頼む!」


「わ、了解!」

突然指示を受けたアルフェイが咄嗟に答える。


フォルはキルエの元へ来ると、ニス達を迎え撃つ体制に入る。


「あれ?二人とも怖い顔してる!まだ何もしてないのに!」

ニスは、白のワンピースを身にまとい、ぷーっと口を膨らませ、可愛い仕草を見せるが、キルエとフォルは緊張を崩さなかった。夜に一人で10歳程度の女の子が道の外れにいること自体不自然であるし、何より、巨大な亀のような魔物の上に乗っており、更に魔物を10体程引き連れているのだから、脅威以外の何物でもなかった。


「何の用だ」

キルエは冷静に問う。


「待ってよ!私の名前はニス!ニス=ジェイガス!レイグお兄ちゃんと一緒に、孤児院の皆を取っちゃおうって作戦なのだ!」


「いまいち話がかみ合わないな。つまり、この子たちを連れ去るということだな?」


「そうだよー!大人しくしててくれたら、乱暴なことはしないけど、どうするかな?」


「フォル、少し離れてて」

キルエは小声でそう言うと、フォルは指示に従って少し下がった。


 キルエは、何もない空間に剣を構えるようにすると、そこに実際に剣が現れる。

そして、魔法を唱え始める。


「ま、待ってよ!ねえ!戦うの!?急じゃない!?一方的すぎない!?」

ニスは、相変わらずふざけているのか、あわあわとしている。


 そして、態勢が整ったキルエは、身体強化と共に、刃と体に風を纏い、斬りかかる。目に負えない速度で移動し、そして、移動しながらも風を纏った刃は刃先が届かないものまで切り付けていた。そうして、ニス達の前後左右上下を高速で何往復もする。特殊技能の形成途中のものではあるが、十分実戦で通用する程度のものであった。事実、10体程度いた魔物のうち、最後まで立っていたのは僅か1体で、ニスが乗っていた亀さえ甲羅ごと刻まれていた。


「は?え……?」

魔法で防壁を張る事で精一杯だったニスは、現状を認識し、困惑する。


「はぁ、はぁッ、」

一方、キルエもまた、一撃に全力を込めたことから、息が切れていた。


「キルエさん、大丈夫!?」

フォルが駆け寄り、キルエの心配をする。


「大丈夫。申し訳ないけど、フォルにも戦ってもらう事になりそうだ」


「分かりました。大丈夫です」


「いいかァ、フォル。これは実戦中の実戦だ。相手はお前を殺す気で来る。誰も止めちゃくれねェ。気引き締めて行けよォ!」

ソルがフォルに喝を入れる。


「はい!」

元気よく心の中で返事をすると、キルエの横に並び、構える。


「ちょ、ちょっと、は?意味わかんない。なんで皆死んでるの」

ニスは相変わらず困惑した様子であった。これを見て、その隙にキルエとフォルは作戦を練る。


「魔物が一体と子供が一人だ。私があの子供の相手をする。勿論、魔物の方も私で対応するが、もしもの時は頼む」


「僕も最初から戦った方がいいんじゃないでしょうか」


「いや、相手の能力が分からない以上、戦闘経験の浅い君をいきなり巻き込むのは危険だ。まずはここで待機しててくれ。様子を見て、援護を頼む」


「わかりました」


「きめた。きーめた!あんたたち殺してあげる!」

ニスは、身なりや年齢に似つかわしくない憎悪に満ちた笑顔でフォルとキルエを目に捉える。


「ダボズ。あのガキ殺しなさい」

恐らく魔物の名だろう。自分より年上のフォルをガキ呼ばわりした挙句、魔物にフォルを襲わせるようだ。


 ダボズと呼ばれる魔物は、ネームレス級の魔物なのか、単に認識されていないだけの魔物なのか定かではない。しかし、キルエの先ほどの攻撃に耐えているという事は間違いない。ダボズは、人型の魔物で、体が緑色と茶色の斑模様である。また、頭部には縫い目があるが、他には何もなく、髪の毛もない。一体どこから視界を得ているのだろうか。

ニスの指示を受けたダボズは、フォルへ向かって走り出す。これに応戦しようとキルエが前に出るが、横からニスの蹴りが飛んでくる。キルエはこれを剣で受けるものの、小さな女の子の肉体には相応しくないほど、キルエは横に飛ばされる。


「あんたの相手は私だから」

ニスは、幼さの残る声で静かにそう呟いた。


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