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13話 孤児院の職員達

 その頃、ロウアとハスノマもまた、別の地で戦闘を開始していた。


 ロウアの魔法で、一つ目の黒い巨人をシーニスから離れすぎない距離に転移させていた。

 

 一つ目の黒い巨人は、すべてを通り抜けていく。つまり、斬りかかろうが魔法で対抗しようが、そこには何もないかのように、貫通し、通り抜けてしまう。しかし、今にも暴れ出しそうな巨体の身体に不釣り合いなほど、静止したままである。


「さて、どうしようか」


 ダンディと呼ぶにふさわしい落ち着きと老け具合を持ち合わせているロウアが、まだ若く青臭さが残るハスノマに問いかける。


「私もこの類の魔物は相手にしたことがありません。ロウアさんはどうすべきだと思いますか?」


「若者が何でも答えを乞うな。悪い癖だぞ」


「しかし、今はそんなこと言っている場合では……!」


「そう思うなら早く答えなさい」


「い、いや、そうですね、私としては、特に脅威も感じられませんし、片方がここで奴を見張り、もう片方がシーニス様のところか、キルエのところへ向かうべきかと」


「ふむ。50点だな」


「え?」


「正解は、こいつを無視して他と合流することだ」


「しかし、それはあまりにも危険では……!」


「気が付かないか?奴はネームレス級の魔物を短時間で2体召喚している」


「確かに、かなりの負担だとは思いますが、相当な実力者であればそれも可能なことかと」


「話を最後まで聞きなさい。確かに可能ではあるが、それが出来るものであればシーニス様は別にして、我々を蹴散らすなど訳がないであろう。わざわざ魔物を召喚して我々の戦力を分散させずとも、あの場で我々をまとめて相手にした方が、手間が省けて楽だったのだ」


「言われてみれば、そうですね……」


「では何故分散させたか。それは、一人では一度に全員は手に負えないと踏んだのだろう。つまり、奴にネームレス級の魔物を2体同時に召喚できるほどの力は無い。無論、あのゴリラのようなものは攻撃してきている以上、本物の魔物なのだろうがな」


「では、目の前にいるこいつは一体……」


「魔法によって生み出された幻影だ。恐らく我々を足止めする為だけに生み出されたハリボテだ。お前が奴に攻撃している間に探知魔法で生体反応を調べたが、魔物以前に生き物ですらなかった」


「そんな」


「確かに私もここまで追跡してから答えに辿り着いた。しかし、それにしてもお前はこの時点までのどこかで気が付くべきだった。考察力、分析力が足りん。探知魔法を使わずとも、断定はできずとも、仮定としてこの結論に至ることは可能であろう。騎士団長を目指す者として!お前に足りないものはそれだ。そして、今からすべきことは何であるか、答えなさい」


「保護対象の有無と戦力の差を考えると、キルエ達と合流すべきかと思います」


「うむ、正解だ。いくぞ」


 ロウア。『百識のロウア』の異名を持ち、知識や思考力が卓越しており、数々の戦争で指揮を執り勝利へと導いてきた。ハスノマの師匠である。ジェノ帝国内ではかなりの有名人だが、彼らを完全に舐めていたあの訪問者の知る事ではない。



――――――――――――――――――――――――――――――



「あいつの攻撃は大して恐くねぇ。ワンパターンだし、まず当たる心配はない。そろそろケリをつけるか!」


ブオラはそう言うと、ユラに確認を取る。ユラは、ブオラの意図を察し、頷く。

ブオラは、目を閉じて集中する。すると、ブオラの両方の拳が黄金に輝き始める。


 『チャンピオングローブ』。ブオラの特殊技能である。3分間身体機能が大幅に向上し、拳のインパクトによる破壊力は特に顕著に上昇する。しかし、3分間経つと、任意に魔法が使えなくなり、傷や病気の有無、健康状態に関係なく、30秒間強制的に回復魔法による回復が始まる。攻撃が鋭い相手に不用意に使ってしまうと、30秒のインターバル中に苦難を強いられることになってしまう。したがって、使う相手は慎重に選ばなければならない。


 この特殊技能というものは、基本の魔法に独自の組み合わせにより作り出された個人特有の魔法である。特殊技能は基本の魔法を高度のレベルで使えなければ習得する事ができないので、上級者のみに許されたものである。また、特殊技能の有無により実力者か否か判断されることもある。そして、特殊技能は保持者(ホルダー)に対抗する手段となりうる。


ブオラは再度屈むと、先ほどとは比べ物にならない跳躍で一瞬にしてゴリラの怪物の前へと移動する。


「ラアアアアアアアアアアアアアッシュ!!!!!!!!!!!!」


ブオラはそう叫ぶと、黄金のグローブを纏った拳でラッシュを始める。

リアクションする余地も与えない。一発一発がゴリラの骨格を無視したようにめり込んでおり、それが無数に打ち込まれていく。高速かつ強力な連打は3分間休まることはなかった。ゴリラが再起不能であることは、骨格が変形している所を見れば明らかであった。そして、30秒のインターバルが始まる。


「『豪拳のブオラ』、久々に拝見させて頂きました」


 ユラが厭味ったらしく笑顔でブオラをからかう。


「ああ、今日は『氷木のユラ』さんはお休みだな」


 ブオラがそれにお返しをすると、ユラは真剣な面持ちになる。

「さて、どっちに行きますか」


「まずはキルエ達のところへ行くのが一番なんだろうが、どうだろうな」


「ええ、そうですね。ロウアさん達と鉢合わせてしまっては意味がない」


「ここはお嬢のところへ行くべきだと俺は思うが」


「決まりですね」


そう言うと、ユラは魔法で身体強化し、急いでシーニスのところへ向かおうとする。


「おい!待て!」

 それをブオラは慌てて静止する。


「どうしました!?」


「あと10秒待ってくれ、インターバル中だ」

満面の笑みでブオラはユラにウインクで答える。


「ああ、はい……」



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