11話 僕のお友達
警報音が孤児院に鳴り響く。何を警告するものなのか、全く検討もつかない子供たちは、何事なのかと唖然とするしかなかった。一方職員たちも固まっている。しかし、その表情は子供たちの疑問に満ちた表情とは異なり、驚きのあまり、呆気に取られているようであった。
「キルエ、子供たちを避難させなさい。他の者は私についてきなさい!」
「おい!俺たちはどうすりゃァいい!?」
「フォル君、キルエに従って、皆を避難させて。キルエ、フォル君も連れて行きなさい。」
「わかりました」
キルエは鋭い目つきで、力強く頷く。
「おいフォル!キルエは保持者じゃねェから俺の声は届かねェ、頼んだぞ!」
「う、うんわかった。キルエさんの指示通りにすればいいんだね」
皆が固まる中、マザーとソルはいち早くこれに対応する。そして、フォルも一体何が起こったのかと驚いたが、ただならぬ事態を察して、指示に従うことにする。こうして、孤児院の職員の一人、キルエと共に子供たちを避難させることになった。
キルエは、この孤児院の職員である。狐目で凛々しい顔つきで、長髪の女性でありながら、かっこよさを感じさせる顔立ちをしている。口数もそれほど多くないので、幼い子からは恐れられているが、女子からは憧れの的となっている。
「フォル、今からあなたの家へ皆を避難させる。ここから近いことは聞いてるけど、具体的な場所までは知らないから道を案内しなさい」
キルエはフォルにそう言うと、子供たちに集合をかける。
「皆!私のところに集合しなさい!!」
キルエが集合をかけると、疑問を抱きながら、ぞろぞろと子供たちが集合する。
「フォル、裏口から抜けるから。先頭を行きなさい。後方は私が」
こうして、フォル達は避難を開始した。
一方、マザーとその他の職員4名は孤児院の正面玄関から出て、道と孤児院の入り口の間に浮かんでいる人影の方へ向かう。目の前に辿り着くと、そこには20歳ほどの、貴族という言葉がまさにふさわしい、綺麗な黒のスーツを着た、サラサラとした艶のある髪の青年が立っていた。
「ここに何か用かしら」
マザーは、警戒心を露骨に出しながら、男へ問う。
「ひ、ひどいなぁ。ら、ら、来客に、い、そんな風な言い方するなんて」
「ここは私が許可した者しか入れないように結界を張ってあったはずだけど。さて、どうやって入ってきたのかしら」
「あ、ああ。隠れて結界は、け、結界を張っていた人を、こ、殺したら、ちゃんと、は、入れたよ」
「なッ!?貴様ッ!!」
職員の一人が激高する。
「ブオラ、落ち着きなさい」
男は一瞬、職員の一人、ブオラに目をやると、まるで何も無かったように再びマザーを見つめ、会話を続ける。
「あ、会いたかったよ、シーニス=レイガール。ここではマザー、だっけ。ぐ、軍人の育成は、じ、順調かい?」
「要件は何かしら」
マザーは男の戯言を無視し、本題に入る。
「こ、子供たちを、さ、里親に引き取りたくてね」
「帰りなさい」
「別に、お、お願いはしてない。君たちは、ここで殺すからね。あ、し、死ぬ前に何か言いたいことがあれば、み、皆さんどうぞ」
「そうね、じゃあ死ぬ前に1つ聞かせて。何のためにここの子供たちをさらうつもりなの?」
「え、あ、いやあ、相手が死ぬ人間とはいえ、それはちょっと、うーん、い、言えないかも」
「いくら勇者御一行様でも、ここでの会話までは把握出来ないんじゃ無いかしら?死にゆく人間の最後の頼みじゃない。いいでしょう?」
「え、あ、それはど、どうかな、ちょっと、それはお嬢達を、な、なめすぎなんじゃないかな」
「やはり、ハジメ君達の差し金なのね」
「え?……。あ。騙すなんて、ひ、ひどいなぁ。まぁいいか。ど、どのみち、皆さんはこれからここで、し、死ぬから関係無い」
「構え」
マザーがそう言うと、職員達は何も無い空間へ手を伸ばし、当然のように杖や剣等の武器を召喚した。
そして、一斉に招かれざる訪問者にそれを向けた。
「は、はは。じゃあ、ぼ、僕もお友達を呼ぼうかな」
そう言うと男は地面に両手をついた。
「させるかッ!!!」
職員の一人が、結晶石の付いた杖を男へ向けると、大人一人程の大きさの氷柱が瞬時に形成され、男へ向かって放たれる。
「ず、随分と強いガキのお守りが、い、いるんだね」
しかし、氷柱は男へと近づくにつれ、小さくなっていき、完全に姿を消した。
「き、君たちの力が怖くないから、こ、こうして堂々と召喚してるんじゃないか。さぁ、帝国の英雄が、ぜ、絶望する顔を見せてく、下さい」
男はそう言うと、両手をついた地面から、黒い影が二つ左右に伸びてくると、次第にその影は大きくなっていく。
そして、今度は地面から縦に伸びていき、実体が形成されていく。高さは人間の3倍ほどまで伸びた。ぐねぐねと動く黒い影は、徐々に落ち着きを見せ、影は地面へと引いていく。影の中から召喚されたものの正体が明らかになっていく。
男の右手側には一つ目の真っ黒な巨人が、左手側には真っ赤で異様に腕が太いゴリラのようなものが現れていた。
「ぼ、僕のお友達。可愛いよね。仲良くし、してあげてね」




