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10話 保持者、フォル=カーマイン

 フォル達は、孤児院で騎士団の入団試験を終えたアルフェイやフェティアナが帰ってくるのを待った。ジェノ帝国の騎士団の入団試験は、決して容易ではない。入団試験へ向けた一流の対策塾の塾生でも5人に1人通るか通らないかといった具合である。

しかし、この孤児院で騎士団にとって必要な要素をマザーから日々学んでいた孤児院の子供達からしてみれば、それほど難しい事ではなかった。

 ソルやマザーはその点について知っていたので、特に緊張感もなかったのだが、フォルだけは、ずっと緊張したままであった。


「あああ、大丈夫かなぁ」


「うるせえなァ。大人しくしてろよ。よし、やることねェし、特訓でもするかァ!」


「え、師匠はもう肉体がないのに、どうやって修行するの?」


「お前の中にいて実体がねェだけで、お前を通して視覚や聴覚を得てるからなァ」


「てことは、同じ風景が見えてるの?それは、ちょっと気持ち悪いかも」


「まァ慣れろ。同じ風景ってのたァ少し違う。お前ら人間よりも魔力を感知する力は当然長けている。精霊だからなァ。例えば、お前を背後から魔法で狙ってる奴が居たとしたら、感知することが出来る!」


「へぇ、それで、修行って何するの?」


「もう少し食いつけよォ、まァいいや。という訳で、ちょっと行ってくる」

 二人の会話を傍観していたマザーとエルシアに向けて告げる。


「わかった、フォル君頑張ってね!」


「私たちも見てあげるべきだと思うのですが」

エルシアが口を挟んでくる。


「駄目よ、邪魔になるから」

しかし、マザーはエルシアを制止する。


「しかし、私たちも、」


「駄目」

マザーは言い切る前にエルシアを止める。

そんな会話を繰り広げられている最中、フォルは孤児院から離れた道の外れへと向かっていた。


「それにしても、本当あの子は修行の虫なのですね」


「誰かに。期待されたことが生まれて初めてなんじゃないかな。あの子、家族から愛情を受けてなかったみたいだから」

フォルを見送りながら、エルシアとマザーは小さく言葉を交わした。




「よし、この辺でやるかァ」

 道の外れまで着くと、フォルとソルの修行が始まる。


「まずは、俺を発現することからだなァ」


「発現?」


「あァ、今のお前は自分の中から俺の声が聞こえているだけだろォ。だがな、俺を感知して、俺の魔力を掴む事が出来れば、俺がユリーの肉体でやっていたように、魔石を使わないで俺の個性に属した魔法を使う事が出来る」


「おぉー」


「だが、道のりは険しいぞォ!よし、早速だが、砂を出すように、手に魔法を念じてみろ」


「うん」


 フォルは一生懸命念じる。しかし、砂が現れる訳がない。魔石が無いのだから、当然である。


「魔石を握ってないんだから当然手に何も感じないだろォ。そしたら、自分の中に魔力を感じろ」


「ど、どうやって」


「自分の中から湧き出すように、俺を引き出すんだよォ!」


「んんーーー」


 フォルは懸命に何度も繰り返す。しかし、一向に何かが湧き出る気配は無かった。


「っくはぁーっ!出ない!」


「オラオラァ、諦めてる暇はねェぞ!」


 フォルは諦めることなく、何度も繰り返す。普段口うるさいソルも、この時はおとなしくフォルを見守っていた。その後も、何度も何度も繰り返したが、結果は同じであった。

どの位経っただろうか、修行は終わりを告げる。


「フォル君ー!皆帰って来たわよ!」

マザーが入団試験に向かった子供たちが帰ってきたことをマザーが報告しに来た。


「お疲れ様、フォル君。今日は何をやったのかな?」


「師匠を引き出す?魔力を引き出す?とかいうのを。でも、全然出来なくて。」


「あぁ、あれね。私もやったわよー」


「え?マザーも?」


「そりゃあやったわよ。私も保持者(ホルダー)だもん!」


「凄いですね。僕、全然出来ませんでした」


「当たり前じゃない!たった一日で出来たら天才だよ!」


「この子も私を引き出すのに相当苦労したのです」


「そうよ、私も沢山念じたわよ」


「まァ俺も最初から出来るたァ思っちゃいねェよ。こんなもん一発で出来たら天才だぜ」


「一回で出来た人、いるの?」


「ハジメ君がそうなのです」

エルシアが会話に入る。


「あー、あいつァ、マジで天才だったからなァ。まァ、そう悔しがるなよ。相手は勇者だ」


「う、うん」


「さあ、みんな待ってるわよ。行きましょう!フォル君に夕飯手伝ってもらわなきゃ!」


 マザーは気を取り直すよう促し、フォルを孤児院へ手を掴み引っ張っていった。

そして、フォルの趣味である料理を手伝っている最中も浮かない顔であった。


「おいおいィ、元気出せよォ」


「だって、ハジメ様にできたのに、僕は」

心の中でソルとフォルは会話する。


「だからよォ、相手は勇者だぞォ?持って生まれた待遇が違いすぎる」


「でも、それに勝たなきゃいけないんでしょ?」


「いやァ、まァ、そうだが……」


「僕は、もっと強くなりたい」


「確かに俺ァ、お前にバウンティハンターになれッつったがよォ、なんつーか、やる気スゲェよなァ、お前」


「だって、師匠の期待に応えたいから」


「おォ、そうか。いや、まァ、うれしいけどよォ、よく恥ずかしげもなく言えるなァ」


「生まれて初めて期待されたから、嬉しかったんだ」


「……なァ、フォル。仮に、だ。もっと強くなれるとしたら。もっと、厳しくても耐えられるか?」


「強くなれない方がつらいよ」


「そうか、分かった。悪かったな」


「なんで謝るの?」


「俺ァ、お前を過小評価していたようだ。これからは気を引き締めてお前をより厳しく鍛える。だがな、その代わり、俺ァ責任を持ってお前をあのガキ、いや、ハジメより強くしてやる。」


「本当?頼むよ、師匠」



「おおーい!まだかよー!?」


 調理場の外からアルフェイが急かすように、様子を伺いにきた。


「ちょっと待ってよ!私も試験受けて疲れてるんだから!フォル君、もう少しだよ!がんばろ!」

今日の夕食係のフェティアナがアルフェイに答えると、フォルに声を掛ける。


「あ、う、うん」

ソルとの会話に気を取られていたフォルはてきとうに返事をした。


 しばらくして、夕食は出来上がり、孤児院の子供たちとマザーを含む職員は席に着き、食事を始めた。入団試験を受けた後という事もあり、食事が終わった後も、あの試験はどうだとか、あれは上手くいったとか、会話はすごく盛り上がった。


「俺なんてさぁ、個人戦全勝だったぜ!」

アルフェイが誇らしげに語る。


「でも勝った後はしゃぎすぎて試験委員に怒られてたじゃん。」

それにフェティアナがボソッとツッコむ。


「うるせぇ!お前だって勝った後喜んでたじゃねーか!」


「でも私は怒られてないもん!」


「やってることは一緒なんだよー!」






ビ、ビ



   







ビ―――――――――――――――――――――――――――――― 






ビ――――――――――――――――――――――――――――――






ビ――――――――――――――――――――――――――――――










微笑ましい喧嘩をしている最中、

突然、今まで聞いたことがないような、警報音が孤児院の中に響き渡る。


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