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その結婚ちょっとまった!! 一度は行ってみたいセリフだよね

 リリアナの声に全員が彼女を注目する。

 リリアナは焦った顔をしてアンと皇帝、そしておれを見ていた。


 正直おれはリリアナが叫んだ理由が分かっている。

 それは…………。


 リリアナは深呼吸し、再度叫んだのだった。


「その結婚ちょっとまった!!」


 人生で一度は言ってみたいセリフである。

 正直そんなシチュエーション憧れていましたが、なってみるとマジでめんどくさい。

 それも相手はこの国で一番偉い皇帝さん!

 この後の展開が予想できるおれは頭と胃が痛かった。


「なんじゃ、貴様は!

 旦那様のメイドの分際で、お父様。

 皇帝の言葉を遮るのかえ?」


 まぁ、当たり前のことを当たり前のように言う、アン。

 その表情は驚きが半分に怒りと興味が半々で丁度いい感じにミックスされている。

 おれは恐る恐る皇帝の顔を伺う。

 その表情はどういうことか、と聞いていた。


 そんなおれと皇帝のアイコンタクトを無視して、リリアナは話を続ける。

 もはや、リリアナとアンの直接対決の様相を見せていた。


「こんなこと急に言われても納得できません!

 カルロスもミハエル侯爵様もまったくご存じではないということではないですか!!

 そんな結婚認められません!

 100歩。

 いえ、一万歩譲っても、ミハエル侯爵に許可を得てからにするべきです!!」


 リリアナはアンの眼を見て、はっきりと自分の意見を主張する。

 まぁ、リリアナの意見も間違いではない。

 間違いではないのだが、相手が皇帝の時点でもう意味のないことのような気がする。

 親父なら即答で許可を出すはずだ。

 むしろ、喜んで出すはずだ。

 もちろんそのことを今おれからは言わない。

 そんなことをしたら、後がとても恐ろしい。


 アンはセバスを差し、その言葉を一蹴する。


「なんじゃ偉そうに!!!!

 ただのメイドが主人に断りもせず出しゃばるでないわ!!

 旦那様の気品や品格が疑われるわ!!

 旦那様の正しいメイドであるならば、そこにいる執事のように場をわきまえて下がっておるのじゃ!

 それに、お父様の意向がある限り、侯爵であれこの結婚に異議申し立てることなどできるわけがないじゃろ!!!!

 …………そんなこともわからんのかの?」


 アンは最初本当に怒っていた。

 最後のほうはだいぶ落ち着いた声色になっていた。


 多分おれのメイドが主人に対して考えもせずに、出しゃばったと思ったのだろう。

 そう、ただのメイドであれば、おれも出しゃばるなと言えるし、言わなきゃいけないのだ。

 ただ、リリアナはただのメイドではない。

 しかしながら、この場でおれの口からそれを言うわけにはいかなかった。


 今の状態は売り言葉に買い言葉、まさにその言葉がふさわしい!

 カチンときたのだろう、リリアナは、


「あなたにカルロの何が分かるのよ!!!!」


 と叫ぶと、それを聞いたアンは怒りを隠しもせずに、


「そなたこそ、旦那様の何なのじゃ!!

 たかがメイド、それも奴隷のくせに、旦那様をカルロと気安く呼ぶでないわ!!!

 

 と、叫ぶとリリアナに詰め寄りその細い指でリリアナの胸倉を掴み、彼女に巻かれている首輪を見た。

 リリアナはそれに負けじと言い返す。

 ほかのみんなにも知られていなかったはずのことを。


「私はカルロの婚約者よ!!!

 結婚の約束もしたわ!!!

 彼のすべてを知っている!!!

 彼に愛されているわ!!!

 あなたなんかに絶対にカルロを渡さないんだから!!!

 ずーっと一緒にいたのは私なのだから!!!

 これからも一緒なのは私なのよ!!!!!!」


 真っ赤な顔で怒りと羞恥をすべて丸め込んでリリアナは叫び、唖然となっているアンの目の前に右手のリングを見せた。


 …………そうなのである。

 おれとリリアナは結婚の約束をし、初めて愛し合った関係だったのだ。

 その時からリリアナいや、リリィはおれのことを二人の時にカルロと呼ぶようになった。

 そして右手のリングはおれがリリィにあげた婚約指輪のようなものだった。

 この世界に婚約指輪や結婚指輪の習慣はない。

 ゆえにリリィの言うことは世間的には何の意味のないことだった。

 それでも稀に本当に通じ合いとても深く愛し合っている夫婦が結婚する際に揃いの指輪を授かるという伝説が協会に残っている。

 リリィはそれを求めたのだった。


 アンは真剣な目でリリィを見ていた。

 リリィの言葉と思いはアンに伝わった。

 痛いほどに。

 リリィは泣いていた、彼女自身気が付いていないだろう、眼から一筋涙が流れ落ちる。

 それはとても綺麗な涙だった。

 アンは俺とリリィをよく見る。


「詳しく話してみるのじゃ。

 そして、名前を教えてくれるかのぅ?」


 手を離し、アンはリリィに優しく言ったのだった。

 リリィは胸元を綺麗に治すと、彼女は話し始めた。

 おれとリリィの人生の話を。


「私はリリアナ。

 幼いころ、妹のエリーゼと共に国を滅ぼされて奴隷になりました。

 そして、カルロス様、カルロが私たちをそこで拾ってくれました。

 カルロは妹エリーゼの死の病を治してくれただけでなく、私たちに家族のように接してくれました。

 それからずーっと、カルロが王都の学校に行った時も、初陣で戦争に出た時も共に歩んできました。

 私の人生はカルロとずっと一緒、これまでも、そしてこれからも」


 ぽろぽろと涙が流れていく。

 リリィは自然と流れ落ちる涙を止めることができない。


 よく考えると、おれとリリィ、エリーゼはずっと一緒だった。

 あの時からひと時も離れたことはなかった。

 そして、今のおれを救ってくれたのもリリィだった。


 アンはそれを聞くとリリィに問いかける。


「のぅ?

 リリアナ、お前が最初に旦那様にあったのはいつの話じゅ?」


「旦那様が10歳の時、初めのメイドを選ぶ時です」


「……では、わらわと同じ日に初めて会ったということじゃな。

 その時からリリアナは旦那様に惚れていたのかのぅ?」


「そうです。エリーゼを助けてくれた時に私はカルロに惹かれたのです」


 アンは頷くと、リリィの手を取る。


「では、わらわたちは同じ日に出会い、同じ日に好きになったということじゃな?

 となれば、わらわたちは同じ日に結婚するべきではないのかのぅ?」


 ここで超理論が発動した。

 なんでそう結論付いたかわからない。


 おれとリリィが驚いた顔をしている。

 ついでに、皇帝も皇子も枢機卿達も同じ顔をしていた。

 もちろんエリーゼとマーリン、セバスも同様に驚いた顔をしていた。


 そして超理論を当たり前のように話すアン。


「わらわはこの者の心根を聞いたのじゃ。

 リリアナはまことすべてを旦那様に捧げておるのじゃ。

 そのような者を無下にはできぬ。

 聞けばわらわとリリアナは旦那様に同じ日に出会い同じ日に惚れるたという。

 これは運命と言わずしてどうするのじゃ?」


 アンはそういうと、リリィを抱きしめた。

 まるで姉妹のように。

 しばらくしてゆっくり離れると、しっかりと手は握られたまま、皇帝に向かって言ったのだった。


「わらわとリリアナは二人で旦那様の妻になるのじゃ」


 アンがその言葉を言うと、周りが騒然となり始めた。

 それはそうだろう、二人で妻になる。

 それも帝国の皇女と奴隷出身のメイドがだ。

 到底身分の差をどうにかできることではない。


 シリアスな雰囲気を感じていたおれは実はこの時考えていたのは別のことだった。

 ハーレム物のお約束について考察していた。

 昔立てたフラグが強制的に立ち結婚する

 妻同士が喧嘩の後仲良くなる、それも百合レベルで。

 もはやお約束テンプレートなハーレムルート。

 なんというか親父の遺伝なのか、それとも転生のチート能力なのかどっちか分からないけどありがとうございます!

 おれ、リリィに殺されなくて済むよ!

 で、この後皇子あたりが反発してくるよな?

 そして、枢機卿あたりがそれに同調して、連れてきたメイドや執事達ももちろん反対だと言ってくるはずだ。

 うむ、お約束というものだね!

 その反発を受けてリリィとアンはさらに結束を深めるはずだ。

 場は怒号に包まれるそして、皇帝の鶴の一声で場が収まる。

 彼は言うだろう、朕がそれを認めよう!と。

 そんな未来がおれには想像できた。


 現実逃避をしていると、テーブルをドンっと叩く音が響く。

 皇子がテーブルを叩いたのだ。

 彼は皆の注目を集めると、アンとリリィに向かって静かにしゃべり始める。


「そんなことができるわけがないだろうアンネローザ。

 第二皇女だからといって、言っていいわがままとそうでないわがままを区別するぐらいの分別は持て。

 その奴隷メイドはあくまでメイド、それ以上でもそれ以下でもない。

 お前と並び支えることなど断じて許されない!!

 それにそのメイドは皇帝陛下の結婚宣言をその言葉で汚したのだぞ?

 場合によっては極刑も辞さない」


 それを聞いた枢機卿も続ける


「そうですな、皇女殿下とメイド風情の同列結婚など断じて認めるわけには参りません。

 カルロス様は皇女殿下と結婚されると仮ではありますが公爵の爵位を継ぐことになるのですから、メイドを妻に娶ることなど我らが協会が許すことはあり得ませぬ!」


 それを聞いた周りの使用人たちの間に、アンのわがままが過ぎるとか、リリィがメイド風情のくせに身分をわきまえろというような陰口が響いていく。

 皇子と枢機卿が拒絶の意思を持つと、アンはそれに反発する。


「お兄様!! 枢機卿!!

 なぜ、そのようなことをいうのじゃ!?

 二人もリリアナの涙と覚悟を感じたのではないのかのぅ!!?

 リリアナ!

 お前からもお前の気持ちを言ってるのじゃ!」


 訴えかけるアンの手を握るリリィ。

 リリィは悲しそうな目をアンに返すと首を横に降る。


「もういいです、アンネローザ様。

 私が出しゃばった真似をしたのがすべていけないのです」


 そういうとリリィは皇子と枢機卿に向かって深く深く頭を下げる。


「殿下私がすべて悪いのです。

 皇帝陛下のアンネローザ皇女と我が主カルロス様の結婚宣言を、私の気持ちだけで止めたことを深くお詫び申し上げます。

 私は極刑に処されてもいいです!

 でも、主だけはカルロだけは、どうかどうか!!」


 静かに静かに二人に精一杯話しかける。

 最後は叫びだった。

 リリィの魂の叫び。

 いや、願いだった。


 使用人たちはそれを聞くと、急に静かになった。

 彼らにはリリィの姿が神々しく感じられたのだった。

 自分を犠牲にしても主を助ける。

 従者ができる最上の行為。

 それを見せられ、感化されない未熟な従者など皇帝直轄にはいないのだった。


 アンはそんなリリィを強く抱きしめる。

 その表情は何とも優しかった。


「お兄様!! 枢機卿!!

 聞いての通りじゃ。

 リリアナの心からの誠意をなんとするのじゃ!

 自分の命を捨ててまで、主を救わんとするその心根を蔑ろにするというのかのぅ?

 まさにリリアナの愛そのものではないか!!」


 アンは皇子と枢機卿に言い放つ。

 その瞳はまっすぐに二人を射抜いていた。

 そしてアンはこの場の支配者になったのだった。


 それに気に食わないのは皇子だった。

 彼は立ち上がると、アンとリリィに対して腰の剣を抜き、突き付ける。


「アンお前はその女に騙されている。

 その女は身分の低い下賤の者、帝国貴族に取り入り甘い汁を吸おうとしている女狐だ!

 そんな女はこの手で処刑してやる!

 お前の幸せのためにな!!!」


 そういうと皇子はリリィに対して剣を振り上げる、おれはとっさに自分が切れれるのも恐れず、二人の前にその身を投げ出した。

 おれの目前、本当にぎりぎりのところで、剣が止まる。

 パラパラと前髪が落ちたので、本当に危なかった。

 心臓がドキドキとうるさい、まじめにおしっこでももらしているかもしれない。

 でも、勝手に体が動いてしまった。

 そしておれは皇子に言う。


「おやめください、ジュリアス皇子。

 リリィは私の大切な家族です。

 リリィを殺すということは私を殺すと同じ意味だと思っていただいて結構です」


 驚いて動けなかったアンとリリィの目線を感じる。

 そして二人からの信頼と愛情も感じることができた。


 皇子は唖然としていた。

 本当にリリィを殺すつもりだったのだろう、おれがかばうなんて思ってもいなかっただろう。

 その目が異常者を見ているように開いていた。


 おれと皇子の目線がぶつかる。


 そして、場の雰囲気が最悪になろうとしたその時!


 黙ってすべての成り行きを見ていた皇帝が叫んだのだった。


「しずまれぇ!!!」


 一瞬で場の雰囲気を持っていく皇帝。

 おれたちはその場で動けなくなってしまう。

 それを見てゆっくりと皇帝は告げる。


「その結婚許そう!

 朕の名をもって祝福する。

 何人たりともアンネローザとリリアナの結婚を否定することはならぬ」


 その言葉を聞いて、アンとリリィは互いに抱き合っていた。

 皇帝はその姿を見て言う。


「カルロスを思う気持ちが二人をここまで密接にした。

 まるで姉妹ではないか!

 それを割くようなことは朕にはできない。

 ここに朕は宣言する、この時からカルロス、アンネローザ、リリアナの三名は夫婦であると!」


 すると、おれたちにまばゆい光が降り注がれた。

 そしてその光が収まると、三人の左手の薬指には同じ指輪がはまっていたのだった。

 奇跡。

 愛のなせる奇跡と協会でも語り継がれる伝説だった。


 枢機卿が驚愕してつぶやく。


「そんなばかな!

 その指輪はまさか…………」


 同時に皇子もおれたちを見て悔しそうにしていた。

 

「では、結婚の儀も終わらせたから、朕たちはそろそろ行こう。

 アンネローザ幸せになりなさい。

 そして、カルロス娘を支えてくれ!

 最後にリリアナ、お前に聞きたいことがある」


 急に皇帝に話しかけられたリリィは驚き、はいと答えるのにやっとだった。


「お前はもしかして西の妖精国のクレアの娘か?」


 クレア初めて聞いた名前だった。

 眼を見開いて驚くリリアナ。

 それを見て笑う皇帝にリリアナは首を縦に振る。


「であるか。

 リリアナ、お前は立派な貴族だったのだな。

 その心根は貴族として育てられなくても十分育つのだな。

 朕は反省しておる。

 リリアナよ、アンネローザをよろしく頼む。

 そして、カルロスを十分に支えてくれ」


 リリアナに頼む姿は皇帝ではなくどこにでもいる父親だった。

 そういうと、皇帝は皇子たちを連れて出て行った。


 残ったおれたちはその場で座り込み、一時間は動けなかったのだった。

つ、次こそは街づくりが始まる、はずです!

リリアナとの初めての話とかは別枠で書きます。

結婚ってすごい大変ですね!チートあっても!

感想、ブクマ待ってます! 作者の力になります。

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