とある酒場にて 2
カランカラン…
「こんにち、は…」
扉を開けて、酒場を恐る恐る覗き込む少年。
「あんた、また来たんだ。暇じゃないだろ?」
前回、少女と共に座っていた少年は、同じ席で1人でいた。肘をついて気だるげに、未だ覗き込んでいる少年を見やる。
「今日は追い出さないんですか?」
「何か吐き出したくて来たんだろ? 暇つぶしに聞いてやるよ」
「優しいんですね。先程、一話投稿されたからですか?」
「投稿されたら相方が浮かれて、遊びに行ったんだ。暇なんだよ」
「あの内容で浮かれたんですか。奇特な人ですね」
「変わり者だよ。ま、燻っているよりは、表に出たいもんさ。いつまでもそんな所にいないで、こっちに座れば?」
ここ、と自分のテーブルに招いた。
「ありがとうございます」
と、酒場に入りコーラを注文した。テーブルの空いた席に座る。
「それで? どうしたのさ。早く言えば? 暇つぶしに聞いてやるから」
「はぁ。まだまだ先の話ばかり思いついているんですよ、あの人。それがまた、ひどい話ばかりで、流石に脱力して逃げて来ました」
どんな物なのか、話を聞いた少年はその話を覗いてみた。自分たちは同じ作者の中に暮らす、家族の様なものだ。お互いの話を覗くのも、意識さえすれば可能だ。だから酒場に来た少年も、一話投稿されたと知っているのだろう。
「はぁん。こういう事。ま、気の毒と言えば気の毒かな」
大した事ない、と肩をすくめる。
「今日も学園の話を思いついて書いていましたね…。明日投稿のお話も仕上げてないくせに。この間なんて、ラストシーン書いてましたよ、あの人。」
「こっちもラストシーンだけは仕上がっている。お互い様だね。なんでも、あんたの方のネタばかり思いつくんだってね。おかげでこっちの話が進まないんだ。いい迷惑だよ。全部仕上げてから投稿する予定だったのが、1話だけになったのも、あんたのせいだっけね」
「頭がコメディになっているから、真面目な話が進まないらしいですよ。勘弁してほしいです」
「あっちの彼女よりはましだ。我慢するんだね」
顎で向こうのテーブルを示した。
「……あちらの方達は、どうしたんですか?」
鮮やかな色合いを纏った青年が、酒場の隅で縮こまっている少女に向かって話しかけている。少女はテーブルと椅子でバリケードを築き、必死に近寄られないようにしているのだ。
「来ないで~。近寄らないで~~」
弱々しい声で、青年を拒絶する少女。
「愛しい人。どうして私から逃げるのですか? やっと共にいられるお話が進んだのです。さあ、こちらに来て一緒に座りましょう」
「お前なぁ…。あの扱いは流石に同情するって、気の毒に」
青年の隣にいた側近の男が、呆れた口調で言った。
「ううぅ~。私、どこにも行かなくていいです。このままここにいたい~」
「あれね。真夜中に思いついたネタがひどすぎて、主人公がストライキ起こしてる」
「ラブラブになると言ってませんでしたっけ、彼女。その後のお話なんですよね? 一体何があったんですか?」
「ムーンライトに投稿するしかないような内容になったらしいよ」
「……男性は良い笑顔ですね」
「あの人は好き放題に出来るんだ。当然だろ。流石の僕も彼女には同情したよ」
「…あなたが同情するとは、よほどの事ですね」
少年は少女の話を覗いてみた。
「うわぁ……。これはひどいな。自分の悩みなんて、大した事ない様に思えてきました」
ざっとした流れだけだ。細かく書きこまれてはいないが、状況だけは分かる。
「あの人にその手のラブシーンが書けるのでしょうか…」
「どうだかね。書けなきゃ、あの彼女が被害を受けただけで終わるのかな」
「書かれて被害がひどくなるのと、ここまでで放置されるのと、どちらが悲惨でしょうか」
「どっちもどっちだろ」
「来ないで~、触らないで~、もうヤダ~」
ムーンライト投稿予定のお話は、まだまだ未定です。
いくつかのシーンは書いてありますが、世界設定といくつかのシーンしか決まっておらず、ラストが思いつかないので、もう少し温めてから投稿したいな、と考えています。