ロボット長屋2
『ロボット長屋で』
「あんた、大変だよ、大変だよ。」
「なんだよ、お前。朝っぱらから、そんなでかい顔で、近づいてこられたら、こっちだって大変だあね。」
「それがね、大家さんからお触れがでたんだよ。」
「なんって、言っているんだ、大家は。」
「でかい顔してあるくな。っていうんだよ。」
「なんだ、それは。お前にいってんじゃないの。」
「そうでなくて、長屋のみんなにさね。」
「いったい、どんなわけだい。俺たちゃどんな顔して歩けばいいんだ。
とにかく、大家のところに談判にいこうじゃないか。」
『大家宅で』
「大家さん、いったいあのお触れはどういう意味ですかい。わしらは、いつもつつましく、
人に言われた仕事をしていて、人間様にでかい顔したことなどありませんが。」
「ちょうどいいところへきたね。六さん、お米さん。それに長屋のみんなお揃いだね。
お上がりよ。それがな、わしも世間にうとかったのじゃが、最近のロボットは
小顔が流行ているのだそうだ。」
「そりゃ、私らは、第11世代の旧式ですから、顔はでかいですが。」
「そうなんだよ。うちの長屋の者はみな、ごつくて、でかい四角い顔しているもんで、
そんな者が出入りしているだけで、長屋の空き部屋の借り手はみつかりませんよと、
不動産屋にいわれたもんでな。」
「大家さん、あんただってかなりのでかい顔だよ。それによ、
長屋が古臭いからで、俺たちの顔の大きさの問題ではないですぜ。
そっちを先に何とかした方がいいですよ。」
「まあ、まあ、六さんのいうことももっともなんだが、わしの懐が痛むのはもってのほかだ。
そこで、みんなに気をつけてもらうことにしたわけだ。」
「気をつけろって言われても、この大きな箱型頭は隠せねえですよ。」
「そこでな、2丁目の助さんとこが、歯医者やっているから、頼んでおいたよ。
みなの頭は隙間がおおいから、縮めれは今はやりの小顔になりますからね。
ちょうど皆そろったところで、行って診てもらいなさい。」
「歯医者ですよ。助さんは。任せて大丈夫かね。」
「なあに、歯医者にはドリルとペンチがあるから、問題はありませんよ。」
『助デンタルクリニック』
施術が終わり、皆で顔を見合せたが、見合わせるものがない。
「おい、おい、助さん、これは一体どういうわけだい。俺たちの頭と顔が無いぜ。」
「お前さんたちは旧式なので、頭は無駄な空間だらけなんだよ。そこで、小顔にするより、でかい頭の中のほんの小さな脳機能基盤をはずして、ボディに入れちまった方が早い。頭部分をまるまる取っちまってね。
歯を抜くより簡単さ。一足飛びに最新流行な形になったろう。」
最新の流行は、小顔どころか、必要機能のみをまとめたコンパクトロボットで、人型とか動物型といったロボットは時代遅れだった。
「だけどよ、これじゃ、首をまわして周りをみられないじゃないか。
どうしてくれるんだよ。」
「どうせ、油キレで首が回らなかったんだろ。まあ、それでも、ボディに16方向にカメラ入れておいたから、首を回す必要はないよ。これで、みんなも一足飛びに最新コンパクトロボの仲間入りだ。」
「たしかに、首を回さなくても、後ろは見えるね。横着な俺には、結構便利かも。
お米が何か言うたびに、顔をみないで生返事していると、あんたは、いつも上の空だと怒られたが、
これで、首をまわして、わざわざでかい四角い顔をみなくてもすむわけだ。」
「何言ってるんだよ。お前さん。あたしにだって顔がないんだから。
お前さんは、首を回す必要もないんだよ。」
「そりゃそうだ。お前の鋲止めの顔に16個もカメラ目がついた姿を
見なくてすむだけでも結構なことだ。かなり不気味だったろうに。」
「お互い様だよ。」
『帰り道』
皆が通りにでてみると、向こうから、4つ足のロボットが老人の乗る車椅子を引いて来る。
「となりの、ご隠居さんだよ。へんてこなもの連れているじゃねえか。
ご隠居さん、どこにいきなさるね。へんなものを連れて。前の可愛いちわわ風ロボはどうしたね。」
「これがコンパクト型最新介護犬ロボじゃ。」
「犬には見えねえな。ただの4本の足しか見えねえよ。頭はどこだね。」
「なにをいっとる。これが最新式なのじゃ。べつに頭はいらん。
これは、介護だけじゃない。周囲360度見張りながら、危険を回避し、攻撃もできるすぐれものじゃよ。」
そのあとからも、足だけ、口だけ、手だけといったコンパクトロボと次々とすれ違った。
「お米よ。早く帰ろう。おれは、どうも気分が悪くなってきたよ。
コンパクト型というが、なんか俺たちの美意識には合わねえ気がするぜ。」
「あたしもだよ。なんか、最近の人間のやりかたには、ついていけないねえ。
あたしたちが古いのかね。」
「第11世代のロボットだから、確かに古いがね。でも、物には道理っていうものが必要だぜ。
頭ってものがな。あのコンパクト型ってのには、道理てものがわからねえと思うよ。
頭がないからよ。もちろん、気心もな。」
「あんた、これからどうする。あたしたちにも頭がなくなっちまったんだよ。
その割に体がもとのままだから、バランス悪いね。」
「そうさな、中身は空でも、美的バランスが必要だな。張りぼてでも頭を付けるか。」
「そうだね、そんなら、今度は丸くしたらどうだろう。風船かなんかでさ。」