四 弁明
ホテル従業員に先導された警察官がプール入口に到着したのと、茂が葛城とともに到着したのは、ほぼ同時だった。
山添がプールサイドからこちらを見て、手を振る。
プールサイドで座り込んでいる水木は、先に到着したらしい従業員二人の手を借りて立ち上がろうとし、頭を押さえてふらついて再び座り込んだ。
山添の傍では、高原が地面に片膝をついて、傍の別の従業員からタオルを受け取り頭や体の水滴を拭いていた。
葛城が駆け寄る。
高原は目の前まで来た葛城を見上げ、心配そうな顔をした。
「怜、もう歩いても大丈夫なのか?」
「大丈夫か、は、俺のセリフだよ・・・。その首・・・」
くっきりとチェーンの跡がついた高原の首筋を見ながら、葛城の顔は蒼白になっている。
山添が、やはり青い顔をしながら、言った。
「相変わらず晶生はスリングロープを使わせたら世界一だけど・・・・・あの犯人、途中でやめたよね。」
「ああ。」
「晶生を、殺すのを。」
真夜中の高速道路を走る軽自動車の中で、板見は後部座席の酒井が遠慮もなしに笑い転げているのを、はらはらしながら聞き流していた。
助手席の、金茶の長髪からまだ水滴を滴り落としているエージェントは、黙って何も言わない。
「あっはっはっは、祐耶、お前、ばればれやからな。」
「・・・・・」
「ご遺族から・・・お客さまから、確かに、中止命令は入った。けど、それ、お前がやめた七分後やからな。」
「・・・・・」
「しかもお前は、中止命令が入る四分も前に、恭子さんに中断許可まで求めた。悪いけど、証拠はそろいすぎや。」
深山はついにバックミラー越しに背後の同僚の顔を見て、口を開いた。
「凌介、勘違いしてるんじゃない?僕は、自分がやめたことを、ごまかす気なんかさらさらないよ。」
「ほう」
「吉田さんのご許可も下りた上でのことだ。誰はばかることでもないから。」
「なんかお前、この仕事に入る前に、俺にえらそうなこと言ってへんかったっけ?」
「お前はちょっとずるいんじゃないか?凌介。・・・お前は、高原警護員のことはあまり印象にないと言った。あれは、嘘だ。」
「なんのことか分からんな。」
「ふざけるな。お前が苦手なのは河合とかいう警護員じゃなく、高原だ。」
「まあ、そうかもしれんな。祐耶おまえ、完全に高原の裏をかいたのに、なんで殺さへんかったん?」
「高原とは、改めて・・・・・やりたい。笑うなら笑え。」
酒井は興味深そうに、バックミラーに映る深山の異国的な顔を改めて見る。
「・・・あの警備会社のボディガードさんたち、ほんま、変人みたいな人たちやからな。」
「・・・・・お前の言っている意味、少しわかった。」
窓の外へ目をやり、深山はため息をついた。
「ほんとに、頭おかしいよ。」
後ろで酒井がシートの背にもたれるのがわかった。
「高原とは、改めて、今度は・・・フェアに、やりたい。」
警察の聴取を終え、茂たち警護員が現地ですべての業務を終了したときは、翌日の月曜の昼過ぎになっていた。
電話で波多野へ概要の報告は終わっていたが、全員一度事務所へ戻ることとし、現地の関係者への挨拶を終えてホテルを離れた。
事務所の乗用車には高原と葛城が乗り、茂は事務所のオートバイ、山添は私物のオートバイに乗った。
乗用車の運転席で、運転用サングラスをして前を向いたまま、葛城が助手席の高原に声をかける。
「晶生、本当に大丈夫・・・?気分が悪くなったらすぐに言ってくれよ。」
「大丈夫大丈夫。ホテルの医務室で見てもらったけど、頭も打ってないしたいした怪我もないし、ちょっとの間息ができなかっただけだからさ。お前こそ大丈夫なのか?」
「ああ、茂さんと崇がすぐに東海林を取り押さえてくれたから。」
高原は窓の外の景色に目をやった。昨日の晴天から打って変わり、どんよりとした雲が厚く空を覆っている。
「崇に聞いたけど。」
「・・・・」
「お前、東海林に、抵抗しなかったのか?」
「・・・・・」
車内に、かなりの長い時間沈黙が続いた。
高原が、窓の外を見たまま、再び言葉をつづけた。
「波多野さんには黙っててやる。崇にも言ってある。」
「・・・・・」
「だが、二度と、やるな。約束してくれ。」
「・・・・わかった。」
高原が前を見たまま両目を閉じたのが、葛城に分かった。
葛城は唇を噛み、そして、詫びた。
「ごめん。本当に・・・・。ごめんよ、晶生。」
高原は答えなかった。
そして葛城の横顔に一瞬目をやり、高原は別の話をした。
「酒井とも、板見とも、違うタイプだな。」
「ああ。」
「・・・・ターゲットを殺すことだけを、純粋に最も効率的に実行する奴だと思う。」
「そうだね。」
「気負いも感情も打算もない。庭師が雑草を選び引き抜くように殺人を進める。そして測った相手の特徴と実力を踏まえ、裏をかく。」
「今回、なぜ我々が無事に済んだか、いくら考えても分からないからね。」
「ほぼ、気まぐれだろうな。相手の。」
高原は自虐的に笑った。
「こわいね。」
「ああ。水に沈んだとき初めて真正面から顔を見た。目が澄み切ってた。そして俺を殺さずに、悔しそうな表情をしていた。酒井とは全然ちがう。酒井は、必要なことは仕方なくやるというスタンスで、無用な血は嫌うタイプだろう。板見は命令の遂行を全身でやるだけだろう。しかし奴は、「自分の好みにどこまでも沿うこと」をしたい、それだけに見えた。」
「また、会うことになるんだろうね。」
「そうだな。」
葛城はバックミラーから、ちらりと、追走してくる茂のオートバイに目をやった。
「危ない目に遭わせたくないね・・・茂さんは。」
「そうだな。」
街の中心にある高層ビルの、個人の書斎のような簡素な社長室で、阪元探偵社の社長は仕事を終えて戻ってきたエージェントを労っていた。
「お疲れ様。楽しかった?」
「兄さん、いきなりそういう言い方するの、変わってないけど不愉快だよ。」
「兄さんじゃなく、社長と呼びなさい。」
阪元は、入口近くに立ったままあさってのほうを向いている深山を、楽しそうに見つめた。部屋の中央にある質素な丸テーブルに向かって座り、深山にも座るよう促す。
「いいです、まだこの後、始末書書きがありますから。」
「始末書じゃなくて、レビューだよ。恭子さんによく指導を受けなさい。」
「了解しました、社長。」
深山とよく似た、異国的な顔に、笑顔を湛えたまま、阪元は席を立って窓のほうへ行き、外を眺めた。
「うちの会社の良いところは、どういうところだと思う?」
「・・・・実行現場で、極力、”なにもしない”こと。そうでしょう?」
「そのとおりだよ。」
「それはよく分かっています。兄さんの時代になってから、その点が特に洗練されてきたのも、事実でしょう。」
「そのためには、水面下の努力・・・・事前の準備がどれだけ徹底される必要があるかも、わかるね?」
「はい。」
「今回もそうだ。ターゲットの経歴、人間関係、業界事情、利害関係者、全て調べ上げた。こうした膨大な情報があってこそ、あとは指一本動かすだけで、目的が達成できる。」
「そうですね。」
「水木学と東海林陸也の関係。そして彼らが関わった暴力団。全てを踏まえた、計画だったわけだから。」
「はい。」
「しかも今回は別のチームだったけど、もしも恭子さんだったら、さらにプランBまで用意する。」
「はい。」
阪元は、窓の外から目をはずして、弟のほうを見た。
深山が一度うつむいて、もう一度兄を、まっすぐに見返す。
「だからね。私が、ことさらに殺人を避けようとして選択肢を減らしているとは、思わないでほしいんだ・・・・。殺人以外の選択肢が増えている、そういうことだと理解してほしいんだよ。しかも今回も、あれだけの情報があったから、全てを考えた上でお客様には最後まで判断の幅を提供することができた。ターゲットが、東海林から独立するときに、警察に暴力団の情報を提供するつもりであること、とかもね。」
「わかっているつもりです。ただ・・・」
「・・・・」
「・・・ただ、できないのと、やれるのにやらないのとは、雲泥の差です。」
「それは、そうだね。」
「そしてもう一つ、厳然たる事実があるでしょう、兄さん。」
今度は、深山が、窓の外のどんよりとした雲へと目をやった。
阪元が頷いて、答えた。
「・・・あの警備会社のために、エージェントたちは命の危険が増した。実力は十分なのに、増した。それは、事実だ。」
部下たちから口頭で報告を聞き終え、彼らを帰宅させた後、波多野営業部長は大森パトロール社の事務室に一人のこり、事務所の電話の短縮ダイヤルから電話をかけていた。
「波多野です。」
電話の向こうから、低めの女性の声が漏れ聞こえてくる。
「・・・はい、寿命がだいたい百年縮みました。」
しばらく相手が話すのを、波多野は聞いていたが、ふっと顔がほころんだ。
「頭からっぽ?確かにそうですねえ。あいつら今回の仕事ではまさに・・・。はあ、まあそういうのも確かにたまには・・・・」
女性の静かな笑い声が短い間聞こえた。
波多野は、目を伏せ、微笑んだ。
「・・・女の人っていうのは、強いですな。」
木曜の夜、三村英一が大森パトロール社の事務所に立ち寄ると、山添がカウンターに出迎えた。
「三村さん、こんばんは。高原ですよね?」
「あ、はい・・・。山添さん、ですね。いつも河合がお世話になっています。」
「私の名前も憶えてくださりうれしいです。これからもよろしくお願いします。」
奥へ下がった山添と入れ違いに、高原がこちらへ歩いてくるのが見えた。
英一に劣らぬすらりとした長身の、そして正統派の美青年ではないが、知的なメガネの良く似合う怜悧さと、不思議な愛嬌とを兼ね備えたそつのないこのプロのボディガードを、英一は相当尊敬している。しかし、英一が彼に会うときはおおむね何かがあったときで、高原がむしろ一番弱っているときが多いが、今回はこれまでの中でも一二を争う憔悴ぶりに見えた。
高原は疲れた顔で笑顔を見せ、黒髪の長身の美青年の漆黒の両目を見て言った。
「わざわざすみません、私からご連絡するときは、いつもなんだか情けないお話で恐縮です。」
「どうなさったんですか」
「はい・・・・」
奥からこちらへ、英一が尊敬しているもう一人の警護員が歩いてきた。
葛城は、英一へ疲れた笑顔を向けた。
「・・・どうなさったんですか」
葛城が、その美しい両目で、自分より十センチほど背が高い英一を見上げながら言った。
「茂さんが、口をきいてくれないんです。あれから、ずっと。そうだよね?晶生。」
ちょうど帰るところだという高原と一緒に事務所を出た英一は、歩きながらひとしきり高原の話を聞いた。
「なるほど。河合が言うことを聞かないんで、気絶させたんですか。」
「・・・・」
「それは確かに、怒りますね。」
「・・・・」
「まあ、大丈夫じゃないですか。・・・自分のためにしてくれたと思えば思うほど、気持ちのやり場がなくなっているだけな訳ですから。」
「・・・・・。」
「まあでも、しばらくは和解は無理でしょうね。かかる日数は、・・・俺より、医者がよく見積もれるでしょう。」
「え?」
英一は、高原の首筋を指差した。
「その、締められた跡。それを見るたびに、河合は気持ちが締め付けられるはずです。そのアザは、どのくらいで消えるか、主治医に訊いて、その間は我慢するしかないでしょう。」
別れ際、英一は、高原の生気のない顔を見て、優しく笑った。
「明日、俺からあいつに、話してみましょう。」
「・・・すみません。」
金曜夕方、終業ベルが鳴ると同時に席を立とうとした茂を、同じ係の斜め向かいに座っていた英一が呼び止めた。
「今日も大森パトロール社には立ち寄らないのか?河合」
「なぜ俺が昨日も行ってないことを知っている」
「俺が昨日行ったからだ。高原さんと葛城さんに会ったよ。」
「・・・ふうん。」
「月ヶ瀬さんの回復は順調なのか?」
「なんだよいきなり。・・・ああ、もうすぐ退院だって。リハビリが終わったら仕事に復帰できるよ。」
月ヶ瀬警護員のことを英一に相談したことがあることから、茂は英一をあまり邪険にできない。
「この間の週末の警護のこと、聞いたよ。業務上の秘密で、悪いけどね。・・・そして俺は、今までの人生で初めて思ったことがある。」
「なんだよ」
「お前のほうが、しっかりしてるんじゃないかって。高原さんや、葛城さんよりも。」
「ええっ!」
茂は、耳を疑いながら、目の前の同期入社の同僚を見た。この、憎らしいほど才色兼備かつ傲慢不遜な男が、茂を仮にも認めるような発言をし、なおかつ大森パトロール社で誰より仲がいい高原をこんなふうに言うのは、人生で初めて聞いたからだった。
「先輩のことは心配しなくていい。後輩は先輩に頼り、成長すればいい。これは確かに真実だけど、でも、それだけじゃないのも確かだ。」
「ああ。」
「お前が警護員として、だんだん本当の意味で大森パトロール社の一員になっていく中で、先輩たちのことも、もっともっとよく知るようになる。」
「そうだね。」
「強いところも弱いところも。長所も弱点も。そうだよな。」
「ああ、そうだよ。」
「で、今までうまくいっていたことが、うまくいかないように見えることがあるはずだ。それは、関係が進展しているからだよ。」
英一は、ゆっくりと席を立ち上がり、自分の鞄を持った。
茂は固まったまま、英一のほうを見上げている。
「・・・・・」
「自分をいつまでも新人扱いしてほしくないとか、甘やかさないでほしいとか、思うのなら、相手がどうして自分を新人扱いするのか、甘やかすのか、その気持ちを考えてみろ。」
「・・・・」
「自分の気持ちを受け止めてほしいなら、相手の気持ちを受け止めてみろ。もうお前はそれができるとこまで、来たってことなんだよ。・・・・たとえば、月ヶ瀬さんのこと、ひとつとっても。」
「・・・・三村、お前さ」
「なんだ」
「お前、こんなに普通に話す奴だっけ?」
「うるさいな、さっさと行け。今日はお二人とも事務所に戻られるそうだから。」
「・・・・わかった。」
大森パトロール社の事務室の明りは、金曜夜はほぼ間違いなく点いている。
茂が事務所に顔を出すと、給湯室から出てきた山添が笑顔で歩み寄ってきた。
「河合さん。今日は来られると思ってました。」
「・・・・はい」
「でも、晶生はちょっと外に出てます。戻ってくるまで待ちますか? 怜は波多野さんと別の単独案件の打ち合わせに出てますが、奴も今日は戻ってくるそうですよ。」
「いえ、特に高原さんにも、葛城さんにも、なにかすごい用があったわけではないので・・・・」
「じゃあ、麦茶でも、飲みましょう。」
山添と一緒に応接室に入り、ソファーに座って、茂は渡された麦茶のグラスを両手で持つ。
「あの、突然ですけど、河合さん」
「なんですか?」
「ちょっと、腹、見せてもらえますか?」
「ええっ?」
山添は、日焼けした童顔で、いたずらっぽく笑った。
「晶生に・・・当て身をされたところ、です。」
「・・・・・」
茂は、シャツをまくり上げて見せた。
山添は、その、まだ痛々しい跡の残る部分を見て、微笑した。
「くっきり、アザになってますね」
「そうですね。・・・」
「晶生は、全体に極めて能力のバランスのとれた警護員です。武術も、・・・武術を強みにしてる俺と同じかそれ以上です。打撃のコントロールも、機械みたいに正確です。」
「はい。」
「そのくらいの跡が残る強さは、一撃で絶対に、気絶させようとした、強度です。痛かったでしょう・・・?」
「・・・・・」
茂は、ホテルの部屋での、高原との会話を思い出していた。
高原に、一緒に現場に連れて行ってほしいと懇願した茂に、高原は最後は理屈抜きに・・・客観的には恐らく波多野や茂の意志である業務継続のほうが正しいにも関わらず、連れていくことを拒絶した。
いつか、山添が、高原と葛城が大ゲンカしたときに言っていた言葉も、蘇ってきた。・・・暗くて深い河。心配をかけたくない人間と、甘えてほしい人間の、深い溝。
理屈抜きの、気持ちの、すれ違い。
それは、なぜかと問うならば・・・・。
おもむろに、茂はソファーから立ち上がった。
「山添さん・・・。なんかもう、色々、絶望的です。」
「・・・まあ、そうでしょうね。」
「でも俺、あきらめません。俺だって、仲間です。だから、悩みも、おんなじなんです。そういうことなんですから。俺も、高原さんに、言わせてみせる。甘やかさないでくれって、言わせてみせる。」
「・・・そうですね。」
「先輩たちの・・・苦しみを、千分の一でも軽くする。何かを、与える。頼ってもらう。そういうことを、やります。だって、そうじゃないと、どこへ持っていけばいいんですか、俺が今までもらったものを。もう、持ちきれないんですから。」
「そうですね。」
茂は両手で顔を覆い、うつむいたまま立っていた。
ずいぶん長く、立っていた。
そして、向かいのソファーから、山添が立ち上がる気配がした。肩に手が置かれるのを感じ、茂は手を顔から離し、目も鼻も真っ赤になった顔で、山添の顔を見た。
山添が、微笑して、応接室の入口を見た。
茂が同じ方に目をやると、入口ドアを大きく開けたまま、高原が立ってこちらを見ていた。
「ごめんな、河合。」
高原が、妙に低い声で、言った。
「高原さん・・・・」
「俺は、どうしようもないんだ。お前に、どうしても、やっぱり、危ないことをしてほしくないんだ。それがどんなに、お前にとって心外なことだったとしても。」
「・・・・」
「だから・・・・」
茂は高原のほうへ歩いた。
「高原さん、もう、おっしゃらないでください。」
「・・・・・」
「悪いですが、俺も、これからも・・・というかこれから・・・・どんどん、高原さんの嫌がることをやります。高原さんを、俺が、守るようになります。嫌がられようと、拒まれようと。」
「・・・・」
「高原さんを、俺が、守ります。」
「・・・そうか。」
「はい。」
「それは、無理だぞ、ぜったい」
「でも、やります。」
茂の顔が、ほとんどくしゃくしゃになり、目が真っ赤に充血していた。
高原は、天上を見上げた後、大きく両手を左右に開いた。
「じゃあ、まあ、とにかくとりあえずだ」
「・・・・」
「ここに、ハグ!」
「はい!」
茂は、ほとんど体当たりするように、高原の胸に飛び込んだ。
余りの勢いによろめきながら、高原は茂を受け止め、背中と頭を叩いた。
茂は、顔をうずめて、子供のように声を上げ、泣いていた。
二人の横をすり抜け、応接室から出た山添は、外で立っていた葛城のほうへ歩みよった。
「怜、お帰り」
「ああ。」
「・・・河合さん、ぜったい、思ってるよね。」
「・・・・?」
「ほんとに・・・・しょうがない先輩たちだなあ・・・って。」
「そうだね。」
窓の外では、雲にその姿を隠した新月のような半月が、誰にも知られずに上りつつあった。
第十一話、いかがでしたでしょうか。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
ご感想や、今後のエピソードについてご意見ご希望など、もしもいただけましたらありがたく存じます。