イタズラ
ふと考えた。
もしあの星空の中の、どれか一つの光が俺の頭の上に真っ直ぐ落ちてきているとして。
いつか、俺の頭に届いたとして。
俺はその瞬間、何を考えるだろうか。
「詩人か、俺は」
ふっと鼻で笑い、リビングのソファに沈めていた体を起こす。今日は夏休み前恒例の期末テストの初日で、午前中全てを使い切ることなく放課させられた。勉強は深夜にするとして、昼は昼寝をしたとして、ぽっかりと口を開けた空白に時間をどう持て余してやろうか。
「スマホでも……」
うっかり壊してしまうかな、なんて考えて、首を横に振る。壊してしまった後が面倒だ。絶対修理費は俺が持つことになるし、そんな面倒なことは無い。
「暇だ……」
妹は知り合いの男女と一緒にカラオケへ勉強会へ行っているので、しばらく帰ってこない。カラオケで勉強会って、絶対非効率だよな。真面目な奴は勉強会しなくても勉強するなんて行為は出来るわけだし。つまり俺の妹は不真面目ってことか。そんな暴論を認めるわけにはいかないな。
俺の妹は勉強は出来るんだからな! あと暇。
暇ついでに久しぶりに我が妹の部屋に侵入してしまおうか。
それとも、無断で侵入したことがばれると怒られるから、無断で侵入した風に見せかけるか。
さてどうしようか。
「…………」
ぼーっと手元を眺めていると、そう言えば昼を過ぎたのにもかかわらず、昼食に何も食べていなかったことを思い出した。
面倒だ、面倒だと昼食を作るのを遅らせてしまえば、空腹に苦しまされることになるので、俺は一つ溜め息を吐いてからソファから立ち上がる。
「さて、チャーハンでも……っと?」
チャーハンと最中の部屋がどういうわけか、ビビッと繋がった。
「兄さん!」
夕方、カラオケで沢山歌って帰ってきた最中は、俺から渡されたコップ一杯の水を豪快にあおって自室に戻っていったはずなのだが。
「どうした、お帰りは二回も言うものなのか」
「臭い!」
「は? いや、まだこいてないけど」
芋だって食ってないし。いや、三時のおやつにジャガイモ蒸かして食べてましたけどね。
「ちょ、下品なこと言わないでよ!」
「お前だって家族の前なら平気でするくせに……」
顔を真っ赤にして憤る最中に、俺はぼそぼそと、最中に聞こえる程度の声量で抗議をする。すると、最中は顔色を羞恥の色に染め直しながら、叫んだ。
「い、言うなぁ!」
あわあわと目を泳がす最中を見れた俺は、大いに満足し、あらかじめ用意しておいた財布の入ったカバンを引っ掴み、すたこらさっさと家の外へ逃げ出した。
「夕飯前には戻るから」
「あ、ちょ……。えと、わか――」
バタン、と玄関のドアが閉じ、最中の言葉が遮られる。
「おう、なんて罪なドアだ」
そんな呟きも、ドタドタという足音と、ガシャンという施錠の音が覆いかぶさり、誰の耳にも届くことは無かった。
「……しまった」
行くところもないので、コンビニで週間漫画雑誌を立ち読みしていた俺は突如として顔を上げる。薄気味悪い笑みを浮かべた月と目が合った。
くそっ、月の野郎、全て計算済みってわけか。
俺は悔しさに歯噛みすることしかできず、どうしようもなく無力な自分を心の底から呪った。
だが、後悔してももう遅いのだ。失ってしまったものはもう俺の手元には帰ってくることは無く、しかしそのことについて一喜一憂している時間も今の俺には惜しいのだ。
いやもう、ホント嫌になるね。
スマホを家に忘れてくるなんて、最中にコレで好きに遊んでくださいって言っているようなものではないか。
俺は雑誌を元の位置に戻し、あんまんを二つ買うと、颯爽とコンビニから立ち去った。
「こんなことなら、大人しくしてるんだった」
後悔先に立たず。
何度この胸で反芻した言葉か。
自操型のロボに自爆装置が積んであると、胸がときめきます。