俺はしがないサラリーマン
俺の名前は……いや、どうでもいいか。
俺はしがないサラリーマンだ。
昼はいつも提示に帰宅する上司に怒鳴られながら仕事をし。
夜は部下と一緒に残業デート。
深夜に家に帰り、安いビールと安いタバコで腹を満たす。
そんな生活が続いていた。
「先輩って、いつも優しいですよね」
いつだったか、部下にそんなことを言われた。
あのときは適当に笑って誤魔化したが、実際どうなのだろうかと首を傾げる時がある。
俺は、優しい人なのだろうか。
扱い易い人、だとは自覚しているが。
「お前はどうして何度も言わなければわからないんだ」
今日も、上司に怒鳴られた。
確かに、部長にお茶を出し忘れたのは俺だが、出すべきはあの禿げの方だろうに。
それに、俺は課の中で一番仕事ができる下っ端だと自負している。社員の誰よりも早く会社に来ていると思うし。
だがまあ。
縁の下の力持ちは、決して日の光を浴びてはならないのだ。
「……………………」
台風が去った後の夜は、秋めいた風が吹いていて、少し寒かった。
俺は身震いして、シャツの上から腕をさする。
市腰先にある歩行者用の信号が赤に変わった。
今日はいつもよりも早く帰れたので、塾帰りの男子高校生が信号が青になるのを待っているのを見かけることが出来た。
「…………っ」
ここは車があまり通らないので、普段は信号が赤だろうが青だろうが気にせずに横断歩道を渡っているのだが、今日だけは何故だか違った。
俺は高校生につられて、信号を待つ。
「……くぁ」
欠伸交じりに高校生が伸びをする。夜に勉強でもするのか、手には缶コーヒーの入った小さなレジ袋がぶら下がっていた。
彼が腕を下げると、コンビニ袋はがさりと音を立てた。
「…………おっさん、疲れてますね」
「……え?」
突然話しかけられ、間抜けな声を出してしまった。
と言うか、彼は俺に気付いていたのか。
「お仕事、お疲れ様っす」
振り返りもせずに、彼はそう言った。
「……俺、将来、二流大学に行って、そこそこの会社に入って、そこでサラリーマンをする未来について考えたことがあるんす」
「…………」
信号が青になるが、男子高校生は歩き出そうとしない。
俺は歩き出せばいいものを動けずにいた。
少年は話を続ける。
「その時は嫌だなー、って思ったんすけど、今こうして信号を待ってるとですね、思うんすよ」
「……なにをだい?」
俺はなるべく柔らかい口調でそう言う。
すると、少年は肩を震わせて笑い、曇り空の中に見える三日月を仰ぎ見た。
「そんなサラリーマンになっても、信号を待っていられるのだろうかー、って」
信号は再び青になる。
少年は失礼します、と言うと、結局こちらに顔も向けずにこの場から去っていった。
「…………はぁ」
信号が点滅し、赤になる。やはり、車は一台も通らない。
いつもの俺なら、左右を少し確認してから渡ってしまうところだが。
「……二流大学での、そこそこの会社のサラリーマン、か」
今は、信号が青になるまで待ってみることにした。
夜中に信号を待ってたら、ふと思いついたのが、「サラリーマン」という単語です。
官僚とか、天下りとか、そう言う類の話題は嫌なものですが、実際それで社会は回されているようなので、本当に嫌だと思いました。
知り合いのお婆さんの言葉なのですが、「年寄りはさっさと死ぬのだから、良い席は全部若者に譲ってしまえばいい」だろうに。
母親は、「イギリスで政治を学んだ政治家は認める」そうです。
海外留学は大切ってことですかね? 母の言う事はまだちょっとよくわからないです・・・。
あと、この男子高校生は塾帰りではなくB○OK○FF帰りです。