我が妹様
不定期更新のつもりです。
きっと不定期更新です。
「最中さん、おはようございます!」
「おはよう、飯塚さん」
「おはよう、最中さん」
「吉田先輩、おはようございます」
俺は眩しい朝日から目を逸らす様に、目を半分閉じながら校門をくぐった。俺の後ろを歩く最中は、同級生や先輩方に笑顔を振りまいている。
(朝から大忙しだな、相変わらず)
俺は頭に響く妹の高めの声に頭痛を覚えながら、玄関へ向かう。
道中、様々な人が我が妹様に朝の挨拶をしていった。
(……頭痛ぇ)
「よっ、にいさん」
妹は一年なので、階段で別れ、俺は自分のHR教室の2のEに入った。入ると、同級生の斎田が笑顔で手を挙げ声をかけてきた。
「俺はお前の兄貴じゃねえよ」
「最中さんの兄貴だろ?」
「名字が同じだけじゃないか?」
「またまた」
斎田は俺の妹の最中のファンだと自称している。実際、最中は学校のアイドルで、ファンクラブもあるらしい。斎田の会員番号は92と自慢していた。
正直微妙な数字な気がする。確かまだ、200人もいない組織のはずだ。
「なあなあ、最中さんの兄貴ともなると、最中さんの下着姿も見放題なわけ?」
「お前は母親の下着姿を見たいか?」
「俺の母親と最中様を一緒にするな!」
朝のSHRが始まるまで時間があるので、斎田が話を続ける。
しかし、どうも話がセクハラ気味なのが残念なところだ。斎田と話していると、俺がシスコンだと疑われてしまうかもしれないので迂闊な事は言えない。
「で、どうなんだよ?」
「見放題に決まってんだろ。風呂上がりとか着替えながら脱衣所から出てくるしな」
「お、やっぱ見てんの?」
「パジャマのズボンを穿かずに、テレビ見てる」
「ふぉぉぉおおおお……!」
他人の視線がどうとかよりも、斎田の奇声の方が気持ち悪いと思った。
「なあなあ、確かにいさんって最中さんの声真似出来たよな?」
「……それ、声が裏返った時じゃないか?」
「いや、にいさんの声が裏返ったのなんて聞いたことないし」
「ああ、じゃああの時か」
斎田と知り合ってすぐに電話番号を交換したので、ちょっとした悪戯をしてやろうと、その夜最中の声を真似しながら斎田に電話をかけてやったのだ。
言葉を失っていた斎田は、電話越しからでもその間抜け顔が容易に想像でき、とてもおもしろかった。
「あれもいっかいやってくれよ」
「あれはイタ電用の隠し芸だ」
「じゃあ、最中さんの似顔絵描いてくれよ!」
「じゃあってなんだよ。なんの脈絡もないな」
メモ帳に20秒で描いた。
「おおおおお! なあ、貰っていいか、なあ!?」
「流石に、適当に描いた絵を人に譲る気はおきないな……」
「これで適当かよ、流石にいさんだぜ!」
最中みたいなことを言ってくれる。
目を輝かせ、メモ帳を色んな角度で見る斎田。きっと周りからは変な目で見られているに違いない。主に斎田が。
突然斎田が俺の机に1,000円札を置いてきた。
何事かと斎田の顔を見ると、唾を飛ばしながら叫び始めた。
「このメモ帳売ってくれないか!?」
「明日もっといいの描いてくるから許してくれ」