Shower Focus
日本語訳。『雨の焦点』
八月七日。この日の天気は雨だった。佐倉フミはリビングのテレビで、レンタルビデオ店で借りた補給男健二を鑑賞している。その頃古川宗次は自分の部屋に籠り夏休みの宿題と格闘していた。
突然自称昭和五十年からタイムスリップした少女と同居することとなってから、遊びすぎたと古川は反省する。
古川は本棚に並べられた参考書を手にする。すると本のページの隙間に挟まっていた一枚の写真が床に落ちた。
その落ちた写真を拾いながら古川は頬を緩ませる。
丁度その時、佐倉フミが古川宗次の部屋をノックして現れた。
「古川さん。何を見ているの」
「妹の写真だよ。一年前にひき逃げ事件で亡くなった」
「そういえば亡くなった妹さんと私の顔は似ているって言っていたよね」
「顔だけではなく、声は身長までそっくり」
古川は佐倉に写真を渡す。そこに写っているのは、佐倉フミと瓜二つの少女だった。
「本当にそっくりだね。そのひき逃げ事件の犯人は捕まっていないの」
「ひき逃げ犯は逮捕されていない。早く捕まってほしいと願っている」
古川宗次が思い出した当時の出来事。話は一年前に遡る。
平成二十五年七月二十七日その日空から雨が降っている。
漆黒の髪を腰まで伸ばした中学三年生古川さくらは駅の改札口を出て、傘を指す。兄である古川宗次に電話した。
「お兄ちゃん。今着いたよ。今度の写真コンクールに応募する写真も持ってきたから、評価して。タイトルは雨の焦点」
『分かったから、気を付けて来い』
「うん。分かった」
当時古川さくらはアメリカの親戚の家でホームステイをしていた。そのホームステイ先で通っている中学校の夏休みが始まったということで彼女はふるさとに帰国したのだった。
その時古川宗次は知らなかった。あの言葉が古川さくらの最期の言葉になるとは。
それから一時間後、古川家に一本の電話がかかってくる。その電話は警察から。内容は古川さくらがひき逃げ事件に遭って亡くなったというもの。
警察に誘導され、古川宗次とその両親はさくらの遺体が安置された病院に赴き、遺体と対面する。
彼らは絶望した。それからひき逃げ事件の犯人が捕まったという連絡は受けていない。
それから古川宗次は写真コンクールに応募するはずだった写真「雨の焦点」を警察から受け取った。
その写真を見るたび、古川宗次は当時のことを思い出す。
次回『Strange Friday』