Save Fear
日本語訳。『救う不安』
八月六日。午前八時十分。テレビには広島平和記念式典の様子が映っている。
広島平和記念式典は今回で六十九回目。
六十九回目を迎えた広島平和記念式典を見ながら佐倉フミが呟く。
「もう六十九年前の話なんだね。広島に原爆が落とされたのは」
「そうか。昭和五十年からタイムスリップしてきたと言っていたな。三十九年の時を超えたのなら、そう思っても無理がない」
「昭和五十年は三十回目だった。この日に私のおばあちゃんが広島に行っていたんだよ。その話を毎年聞かされたな」
「まさか原子爆弾に巻き込まれて亡くなったという話か」
「少し違う」
佐倉フミは毎年聞かされた話を古川宗次に話す。
昭和二十年八月六日。佐倉フミの祖母は広島県広島市にある病院で負傷した日本兵たちの手当てを無償で行っていた。
当時女性陣は看護師として負傷した兵士たちの手当てを行わせていた。
そして午前八時十五分。悪夢の爆弾が広島県広島市に投下。
幸いにも佐倉フミの祖母は被ばくしなかったが、爆発に巻き込まれた多くの人々が病院に運ばれてきた。
運ばれた人々は人間という面影を失っている。
その爆発に巻き込まれた人々の顔に多くの女性たちが恐怖したことだろう。
それでも佐倉フミの祖母は恐れず病院に運び込まれた人々の手当てを行う。その手当てが無駄だとしても。
佐倉フミの祖母による手当も虚しく、病院に搬送された原子爆弾の被害者たちは全員亡くなった。
その時佐倉フミの祖母は自分の無力さを痛感した。
「という話を毎年聞かされた。本当に怖いよね。原子爆弾は。だって負けず嫌いなおばあちゃんが無力さを痛感したから」
「他にも怖いところがあっただろう」
「私の負けず嫌いはおばあちゃん譲りだからね。その気持ちがよく分かるの」
「だから人間としての面影を失わせた原子爆弾が怖いという話ではなかったのか」
午前八時十五分。サイレンの音と共に原爆の被害者たちを追悼するための黙とうが始まる。二人はテレビの画面越しに黙とうを行う。
次回『Shower focus』