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Scarlet Film

日本語訳。『緋色のフィルム』


 八月二十九日。古川宗次と佐倉フミは朝のニュース番組を観ている。

『逮捕されたのは、佐倉フミさん。五十五歳。佐倉容疑者は昨日社長令嬢を誘拐しようとしたところを警察官に見つかり、現行犯逮捕されました。尚佐倉容疑者は一年前F県で発生したひき逃げ事件にも関与しているとみて警察は裏付け捜査を進めています』


 そのニュースは現実だった。現代の佐倉フミが犯罪者になったという事実は本当だった。

 古川宗次はテレビのスイッチを切ろうとリモコンに手を伸ばすと、彼のスマートフォンに電話がかかってきた。その相手は鈴木風次郎だった。

『宗次。ニュースは見たよな。驚いたよな。フミちゃんの同姓同名の人が逮捕されたって』

「そんなことを伝えるために電話したのか」

『そうだな』

 古川宗次は無言で電話を切る。それから数秒後彼のスマートフォンに再び電話がかかってきた。

「もしもし」

『園山冬実です。お話があります。正午ごろ佐倉フミと一緒にホテルスカーレットフィルムに来てください。昼食を奢ります』

 園山冬実からの電話は要件だけを伝えると、すぐに切れる。


 約束の時間二人はホテルスカーレットフィルムにやってくる。二人がホテルのフロントを見渡していると、黒いスーツを着た男が二人に話しかけた。

「古川宗次様と佐倉フミ様ですね。私は園山冬実様の秘書を務めております涼宮と申します。それでは園山様のところまでご案内します」

 二人は涼宮に連れられて客室にやってくる。そのドアの前で涼宮がドアをノックすると、園山冬実が二人を出迎えた。

「お二人さん。入ってください。涼宮さんは席を外してください」

「かしこまりました」

 涼宮は園山冬実の元から去る。

 二人が客室の中に入ると、ソファーに瀬戸笛美が座っていた。園山冬実は瀬戸の隣に座り、古川宗次と佐倉フミは園山と瀬戸と対面するように置かれたソファーに座る。

 瀬戸笛美は早速本題を口にする。

「お二人をお呼びしたのは、真実を知っていただきたいから。その真実を知ったうえでこの世界を救ってほしい」

「その真実というのは何だ」

 古川宗次が聞き返すと園山冬実が補足する。

「八月三十一日。この世界は前代未聞のテロ事件によって崩壊する。これから起こるテロ事件の全容。前代未聞のテロ事件の犯人は佐倉フミ」


 古川宗次は園山が言っていることに意味が分からなかった。

「佐倉フミがテロリスト。意味が分からない」

「前にも言ったけれど、これから起こるテロ事件は爆弾や化学兵器という物騒な物を使わない。一年前古川さくらさんを殺害。その翌年佐倉フミが三十九年後の世界にタイムスリップしてくる。そして八月三十一日佐倉フミは元の時代に戻る。この一連の流れがテロ行為に繋がるということです。佐倉フミは元の時代に戻ることができないという前提の上では」


 園山冬実の話を黙って聞いていた佐倉フミは衝撃の事実を知り驚く。

「どういうこと。元の時代に戻れないって」

「説明する前に聞いていいかしら。あの日交通事故に巻き込まれる直前何をしていたのか」

「友達とプールに行っていたよ。その帰りに交通事故に巻き込まれたの」

「これで証明されました。この世界の佐倉フミは塾帰りに交通事故に巻き込まれてタイムスリップした。つまりあなたはパラレルワールドの人間ということです」

 瀬戸は園山の説明を補足する。

「タイムスリップはアミダくじのような物。この世界にはパラレルワールドが存在している。パラレルワールドは時系列という一本の縦線によって串刺しにされており、平行線には未来の世界がある。通常Aの世界はAの未来に移行するけれど、何らかの事故や様々な条件が重なったことによりAの世界とBの世界の中間点にAの世界の人間が放り投げられる。中間点から横線が伸び、アミダくじの容量で辿り着いたのがBの未来の世界。アミダくじは一歩通行だから元のAの世界には戻ることができない。あなたが戻ることができるのはCの世界。そしてタイムスリップを行う様々な条件が整うのが八月三十一日」


「さてBの世界に送り込まれた佐倉フミは前提を覆しAの世界に戻ろうとしました。前提を覆すためには膨大な自然エネルギーが必要です。その結果Bの世界の自然エネルギーは消滅。通称時空テロに巻き込まれた人類及び動植物は大半が絶滅。ただ一人汐宮笛美を除いて。Aの世界に戻った佐倉フミは近所に住んでいて親しかった女子大生の汐宮笛美と共にAの世界の住人として生きていく。この一連の流れが永遠に続く。メビウスの輪のように」


「私はBの世界を救うためにこのことを園山さんに話したの。彼女は疑っていたけれど、一年前古川さくらさんがひき逃げ事件で亡くなって、衝撃の事実を信じるようになった。それから私たちはBの世界を救うために作戦を開始した。私は当時佐倉フミに誕生日プレゼントとして欲しがっていたピンク色のチャイナルックをあなたに売った。この出来事は一連の流れには含まれていないから、未来を変える布石になると思って」


「因みに佐倉フミが古川さくらを殺害した動機は、古川宗次と一緒にいたいから。現代の佐倉フミは三十九年前の佐倉フミに私と同じ経験を味わわせたかった。そのためには古川さくらが邪魔だった。だから彼女はあなたの妹を殺した。古川さくらの殺害こそが三十九年前の自分をタイムスリップさせる布石となったから」

「以上が真相。佐倉フミ。あなたには三つの選択肢があります。一番。前提を覆し元のAの世界に戻る。二番。このBの世界に居座る。

三番。未知のCの世界へ行く。答えは八月三十一日までに考えてください。ただし過去に戻る場合はBの世界に関する記憶が抹消されます。現代に居座る場合、二度と過去に戻ることができません。夕暮れ時あの海岸で待っています」


 園山冬実と瀬戸笛美の話が終わり、佐倉フミが手を挙げる。

「園山さんは誰なの」

「Bの世界を生きていた佐倉フミの友達。分からないということは、Aの世界では出会わなかったということかしら」

 二人はホテルから去る。その帰路佐倉フミは考えていた。何が答えなのか。 決断の時まで残り二日。



次回『Sensation Final』


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