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Somewhere Fact

日本語訳。『どこかの事実』


 八月二十八日。午前十一時。古川宗次が暮らすマンションの一室にインターフォンの音が鳴り響く。

 古川宗次が玄関のドアを開けると、そこには見覚えがない二人の男女が立っていた。

「F県警捜査一課の榊純玲です」

黒色の短髪に黒いスーツを着こんだ女が身分を明かす。

涼風の隣にいる黒色スーツを着た丸刈りの男も警察手帳を見せる。

「同じくF県警捜査一課の藤井降人です」

 突然現れた警察官に古川は戸惑う。

「刑事さんが何のようだ」

「古川さくらさんのことで少しお話しがあります。立ち話も何ですから、部屋に入れていただけませんか」

 藤井の申し出を古川宗次は受け入れる。

「分かったけど、おかしくないか。捜査一課は殺人事件とかを捜査する部署だろう。俺の妹はひき逃げ事件で亡くなったから、交通部の仕事だと思うが」

「その件についても説明します」

 榊純玲の言葉を聞き古川宗次は二人の刑事をリビングまで通す。


 榊純玲は椅子に腰かけると本題を口にする。

「一年前の七月二十七日。当時中学三年生の古川さくらさんがひき逃げ事件に巻き込まれ亡くなりました。そして昨日我々捜査一課が逮捕した誘拐犯が、一年前中学生くらいの女の子をひき殺したとも供述しました」

 藤井降人は須藤の話に続ける。

「その供述を頼りに裏付け捜査をしていたら、昨日逮捕した被疑者が古川さくらさんを殺したということが分かったということです。本来ならこのお話はご指摘通り交通部の仕事なのですが、ただのひき逃げ事件ではなく、殺人事件の可能性もあるため、我々捜査一課が話を伺うことにしました」

「誰がさくらを殺した」

 古川宗次は怒りが込上げてきて、思わず怒鳴る。その怒りを榊純玲が宥める。

「落ち着いてください。被疑者の名前は佐倉フミさん。五十五歳。今日の夕方ごろマスコミに公表する予定です。佐倉フミさんをご存じですか」

「知らない。当時さくらはアメリカに移住している親戚の家でホームステイとしていたから、妹の人間関係を全て把握しているわけではないけど」


 藤井が手を挙げる。

「そのホームステイ先の住所は分かりますか」

「ちょっと待ってください」

 古川宗次は当時古川さくらから送られてきたエアメールを藤井に渡す。

「この手紙を預かってもいいですか。できればこの家に保管されている全てのエアメールを預かりたいのですが」

「それは止めてくれ。プライベートのことも書いてあるから」

「分かりました」

 二人の刑事はエアメールを預かると古川宗次の元から去る。

 

 それから五分後二人の刑事と入れ替わる形で佐倉フミがリビングに顔を出す。その顔はどこか悲しいようだった。

「本当なの。私が古川さんの妹を殺したって」

「どうしてそれを知っている」

「刑事さんの声が聞こえてきたの。怖くなってトイレに隠れたけれど」

 佐倉フミは涙を流す。その涙を止めるために古川宗次は慌てる。

「フミは殺していない。殺したのは現代の佐倉フミだろう。フミは三十九年前からタイムスリップしただけだから、何も悪くない」

「そうだけど、私は三十八年後に古川さんの妹を殺すかもしれない。それが怖い」

「未来は変えることができる。フミがさくらを殺さない未来を作ればいい」

「そうだよね」

 佐倉フミは涙を流しながら微笑む。

 

 その頃園山冬実は選挙事務所に設置された自分の椅子に座り、瀬戸笛美に電話した。

「お姉さま。佐倉フミが逮捕されましたよ。現代の佐倉フミがね」

『それは本当かね。なぜこのタイミングで逮捕されたんだろうね』

「おそらく計画を実行するための布石でしょう。刑務所に隔離されてしまえば、現代の佐倉フミと彼女は出会えない。それが狙いです」

『警察は掴んでいるのかな。あのことを』

「まだですよ。警察があのことを掴もうとしたら、私が隠蔽します。兎に角あの二人に賭けましょう」

 園山冬実は電話を切り、テレビのスイッチを付ける。ニュース番組では佐倉フミ逮捕というニュースは報道されていなかった。


次回『Scarlet Film』


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