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Several Fish

日本語訳。『数個の魚』


 八月二十七日。午後五時。佐倉フミは古川宗次に尋ねる。

「今日のご飯は何」

 その質問は古川宗次にとって聞き飽きた物だった。佐倉フミは毎日のように古川宗次に聞く。

 

 古川家の家事は当番制となっている。そして半年以上は両親の仕事の関係で一人暮らしを強いられる。つまり古川宗次は料理を作ることに慣れている。

 普通の男子高校生よりは料理が上手ではないかと古川宗次は思う。佐倉フミと同居することとなったため家事が楽になると思いきや、そんなことはなかったと古川宗次は思った。

 佐倉フミは一切家事をやろうとしない。その横暴な態度に古川宗次の堪忍袋の緒が切れる。

「フミ。少しは家事を手伝ったらどうだ」

「分かった」

 佐倉フミは古川宗次の怒りを察したのかソファーから立ち上がる。

「それなら一緒に買い出しに行くか。まだ夕飯のメニューは決めていない」

 こうして二人は近所のスーパーマーケットに行く。


 この時間帯スーパーマーケットでは特売が始まっている。二人が店内に入るとスピーカーから声が聞こえてきた。

『卵一パック。百円。一家族三パックまで。お買い得だよ』

 その声を聞き古川宗次は咄嗟に卵を三パック買い物カゴの中に入れる。そのスピードは速かったと佐倉フミは思った。

「卵を買ったのはいいけど、今日は何にするの」

「まだ決めていないが、魚料理にしようと思う」

「魚料理か。それなら鮭のホイル焼きが食べたいな」

「鮭のホイル焼きか。家にはアルミホイルとタマネギ。それからマヨネーズがあったから、鮭を買えばいい。それに味噌汁でいいな」

「いいよ」

 二人は夕飯のメニューを決めると、必要な物を迅速に買い物カゴの中に入れる。

 レジで食品を購入すると二人は自宅に帰る。


 二人がマンションの階段を昇り切ると、古川宗次の暮らすマンションの一室のドアの前で鈴木風次郎が立っていた。

「宗次。遅かったな。五分前にインターフォンを押したら留守だったんだな」

「それは悪かった。いつもはフミが留守番をしていたんだが。こんな時間に何の用だ」

「伯母さんの写真が見たいと言っていたな。その写真を持ってきたんだな」

「立ち話も何だから来い」

 古川宗次は鈴木風次郎を部屋に招き入れる。

 鈴木風次郎がリビングの床に座ると、ズボンのポケットから一枚の写真を古川宗次に渡す。

 その写真には、あの日フリーマーケットでピンク色のチャイナルックを売った女が映っていた。その背景には見覚えがある浜辺が映っている。

 その写真を佐倉フミが覗き込む。

「やっぱり。鈴木さん。この女性の名前を教えて」

「瀬戸笛美伯母さん。旧姓は汐宮笛美さんだったかな」


 その名前を聞いた瞬間、佐倉フミは汐宮笛美の顔を思い出すことができた。

 だが謎はまだ多い。なぜ汐宮笛美に関する記憶が封印されていたのか。


 鈴木風次郎は写真を渡すと帰る。その後二人は一緒に夕食を作る。

 


次回『Somewhere Fact』


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