Secondhand Free market
日本語訳。『中古のフリーマーケット』
八月二十三日。佐倉フミの発言は突然だった。
「チャイナルックが欲しい」
唐突な佐倉フミの発言に古川宗次は驚く。
「だからそれは売っていない。第一サイクロンフレメアデパートにも売っていなかったじゃないか」
「それでも欲しい」
その時テレビからコマーシャルの音が聞こえてきた。
『今年も開催。サイクロンフレメアデパートのフリーマーケット。本日の午前十時から午後四時まで開催中。欲しい物が手に入るチャンス。みんな。屋上に集まれ』
佐倉フミは尋ねる。
「フリーマーケットって何」
「簡単に言えば掘り出し物が見つかるかもしれない場所。そこならチャイナルックも見つかるかもしれない」
古川宗次の説明を聞き佐倉フミが目を輝かせる。
「行きたい」
「でも見つかるとは限らない」
古川の言葉を聞く前に佐倉フミはリビングを出ていく。そして彼女は寝室に籠り余所行きの服装に着替える。
古川宗次と佐倉フミはサイクロンフレメアデパートで開催されているフリーマーケットにやってくる。
フリーマーケットの会場は南国祭りが開催された屋上。南国祭りとは一変。屋上を覆うように複数のテントが立っている。そのテントの内部では、多くの人々が自ら持ち寄った商品を売っている。その商品は衣服や雑貨など様々である。
「ここならフミの欲しいものが手に入るだろう」
古川宗次が呟くと佐倉フミはテントの数を数え始める。
「これだけあったら見つかるかも」
佐倉フミは楽しそうに微笑む。そして二人は一軒一軒テントを覗き込む。
だがどのテントにも佐倉フミが欲しがっている物は売っていない。徐々に佐倉フミの顔は暗くなっていく。
そんな佐倉フミに古川宗次が声をかける。
「三十九年前の服なんて売っているはずがない」
その言葉が佐倉フミに追い打ちをかける。
「そうだよね。この時代にあれが売っているはずがないよ。だって需要がないから」
佐倉フミは笑顔を見せる。だが佐倉フミの頬からは涙が零れている。
「諦めるな。まだ全てのテントを回っていない」
古川宗次は強く叫び、佐倉フミの右腕を強く引っ張る。その店には六十代の白髪交じりの女が座っていた。
「いらっしゃい」
女が挨拶すると、二人は頭を下げる。そして二人は商品を探す。すると佐倉フミの目にピンク色のチャイナルックが映った。
佐倉フミは思わずその衣服を手に取る。
「おや。今頃の娘にしては珍しいね。そのチャイナルックを気に入るとは。それは私の大切な人が着ていた物なんだ。だからもしも買うのなら大切に使ってくれよ。三百円じゃ」
佐倉フミは女の話を聞き三百円を女に渡す。
こうして佐倉フミはチャイナルックを手に入れることができた。
その帰り道佐倉フミはフリーマーケットでチャイナルックを売った女のことを考えていた。その女の声を聞いた時、佐倉フミは懐かしい気持ちになった。だがその理由をフミは思い出すことができない。
その頃佐倉フミにチャイナルックを売った女は携帯電話を取り出し、ある人物に電話を掛ける。
「もしもし。約束通りあれを売ったよ。どうやら佐倉フミは私のことも覚えていないみたいだね」
『三十九年も経過すれば忘れますよ。彼女の記憶は三十九年前で止まっているから。お姉さま』
「その呼び方は止めてくださいよ。恥ずかしい」
『あれの脅威から世界を救うための布石を打ってくださりありがとうございます。この御礼は後日改めてお支払します。老後の生活に困らないほど』
「その話は、あれを止めてからにしましょうよ。あれが止まらないとそんな話も無駄になるから。そうよね。園山冬実さん」
お姉さまと呼ばれる人物の電話の相手園山冬実は告げる。
『それは失礼。あの二人ならあれを止めることができると思ったからね。それでは』
次回『Sandy Furry』




