Sketchbook Flat mete
日本語訳。『スケッチブックルームメイト』
八月二十二日。二泊三日の旅が終わった翌日。古川宗次はリビングの机の上にスケッチブックを置く。机の上には二泊三日の旅行で撮影した風景写真が置かれている。
すると佐倉フミがリビングにやってきた。
「古川さん。何をしているの」
「夏休みの宿題で風景画を描いている。ところでフミは夏休みの宿題がないのか」
「七月中に終わらせたよ。八月は一杯遊ぼうと思って」
「おかしくないか。フミはプール帰りに交通事故に遭ってタイムスリップしてきたんだよな。なぜカナヅチのフミはプールに行ったのか。そこが気になる」
「カナヅチを克服させようという友達の思惑で無理矢理連れていかれたの。その時は帰りにタイムスリップするとは思わなかったけれどね」
「羨ましい。タイムスリップすれば夏休みの宿題から逃避することもできから。タイムスリップしたときに夏休みの宿題を所持していなければ、宿題をする術がないだろう。宿題をやろうにも、問題集が手に入らない」
「八月三十一日に元の時代に戻って、大変な思いをするパターンだね。それにこの時代でも画用紙や模造紙は手に入るでしょう。だから問題集さえ七月中にクリアしておけば、自由研究や風景画の宿題は十分可能だよね。それも終わらせた私には関係ない話だけど」
「自慢にしか聞こえない」
古川宗次は旅行で撮影した京都の街並みの風景写真を凝視する。鉛筆を握り、京都の街並みを鉛筆で下書きする。
その風景画はお世辞にも上手いとは言えないと佐倉フミは思った。古川の描いた風景画の下書きを見ながら佐倉フミがクスクスと笑う。それは遠回しに古川宗次の絵が下手であると言っているようだった。
「フミはいいよな。見ているだけだから」
「笑ったことは謝る。それよりもう一枚画用紙はないの」
「何に使う。まさか書き直しを要求するのか」
「違う。暇だから私も風景画を描いてみたくなっただけ。題材は古川さんの書いている京都の街並みでいいから」
下書きが終わった古川宗次は絵の具を準備する。その間佐倉フミは風景写真を参考に画用紙にデッサンを描いていく。
パレットに絵の具を出し、絵筆を握った古川宗次は思い出す。絵筆は複数あるが、パレットはこれ一つしかないと。
「フミ。パレットが一つしかないけどどうする」
「いいよ。二人で共用に使っても」
それから三十分後、佐倉フミの風景画の下書きが終わる。その頃には古川宗次の風景画の五割ほどが色を塗られた。
古川宗次は佐倉フミにパレットを渡し、休憩に入る。佐倉フミは先が細い絵筆を持ち下書きに色を塗る。
古川宗次が三十分間漫画を読んでいると、佐倉フミの風景画が完成する。
彼女はその風景画を古川宗次に見せる。その風景画は細部までしっかりと描かれており、古川の書きかけの風景画よりも上手であった。
「凄い」
「そうでしょう。こう見えて私は絵画が得意なんだよね。気になっていたけど、古川さんは私が描き終わるのを待っていたのかな。私が集中できるように」
「サボりだから、そういう意味ではない」
「だったら私が指導するよ」
古川宗次は佐倉フミの指導の下、風景画を完成させていく。完成した絵は佐倉フミのアドバイスの甲斐があってか、いつもより上手であった。
次回『Secondhand Free market』




