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Scene Familiar

日本語訳。『よく知っている景色』


 八月二十一日。二泊三日に及ぶ旅行の最終日。大阪市内にあるホテルのツインルーム内で目覚めた古川宗次と佐倉フミは、朝食を食べ、ツアー参加者が乗るバスに乗り込む。

 最終日は奈良県奈良市にある法隆寺を観光する。

 古川宗次と佐倉フミたちの目の前に広がるのは、木製の巨大な寺。その近くには五重塔が立っている。

 斎藤添乗員は三十名のツアー参加者と一緒に歩きながら法隆寺の解説を行う。

「これから行く法隆寺は平成五年に世界遺産として登録されました。六百七年に建設された日本最古の寺院としても有名です」

 佐倉フミは斎藤添乗員の解説を聞きながら、古川宗次に話しかける。

「世界遺産か。そういえば聞いたことがある。海外にそういうシステムがあるって。それが日本にもあるんだね」

「馴染みが薄くても無理はない。日本で初めて世界遺産登録されたのは、平成五年の十二月ごろの話だから。今では富士山も世界遺産」

 佐倉フミは古川の話を聞きながら、法隆寺の外観を見る。その景色は昔家族と一緒に出かけた時と同じだと佐倉フミは感じた。

 世界遺産だとしても、その景色は変わらない。佐倉フミの瞳には、家族で訪れた法隆寺の景色が見えている。


 それから一時間後ツアー参加者三十名を乗せたバスは帰路を走る。そのバスの車内で古川宗次は二泊三日の旅を回想する。この旅を通して古川宗次と佐倉フミの距離が近づいたのではないかと彼は思った。佐倉フミの笑顔や涙も見ることができた。佐倉フミの過去も知ることができた。

 この二泊三日の旅行は古川宗次と佐倉フミの関係性を深めるうえで大切なものであると彼は思う。

 古川宗次は二泊三日の旅を振り返りながら、佐倉フミが座っている隣の席を見る。

 佐倉フミは二泊三日の旅に疲れたのか、バスの車内で眠っている。その寝顔を見ながら古川宗次は微笑む。

「お姉さま」

 佐倉フミは寝言で呟く。その寝顔は楽しい夢を見ているかのように古川宗次は感じた。


 数時間後バスは空港に辿り着く。これから三十名のツアー参加者は飛行機に乗り、帰路に着く。

 古川宗次は佐倉フミの体を揺すり彼女を起こす。佐倉フミは揺れを感じて目を覚ます。

「フミ。起きろ。飛行機に乗って帰る」

「やっぱり帰りも飛行機に乗るんだね」

「しおりに書いてあっただろう。飛行機の中で眠ってもいいから三十分くらい起きろ」

「分かった。手を握ってもいいかな。怖いから」

「もちろん」

 二人は搭乗手続きを済ませ飛行機に搭乗する。飛行機が離陸するまでの間、佐倉フミは古川宗次の右手を握っている。一昨日との違い。それは佐倉フミが席に座ってから数十秒後に彼女が眠ったこと。

 飛行機が離陸する瞬間、古川宗次は佐倉フミの寝顔を見ながら、手を握り返した。

次回『Sketchbook Flat mete』


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