Sunshine Field
日本語訳。『太陽光の野原』
八月二十日。古川宗次は京都市内の旅館で目を覚ました。昨日古川宗次と佐倉フミは金閣寺や清水寺を観光した。そして夕食はこの旅館で京料理を食べた。
その後は和室の畳に布団を敷き、佐倉フミと同じ部屋で寝た。布団は二人分用意されていたため、同じ布団で寝ることはない。
古川宗次が目を覚ました頃佐倉フミは洗面所で歯磨きを行っていた。
古川宗次は洗面所まで歩いてきて、佐倉フミに挨拶する。
「フミ。おはよう」
「おはようございます。今日は大阪市内を自由に観光するんだよね。だったら太陽の塔が見たいな」
「分かった。大阪万博公園に行ってみよう」
二日目の大阪自由行動の行き先は大阪万博公園に決まった。二人は朝食を済ませ、バスに乗り込む。
三十名のツアー参加者が全員バスに乗り込むと、バスは新大阪駅に向かい走り出す。
数時間後、バスが新大阪駅に到着し、ツアー参加者たちが降りる。その後でツアー参加者は自由行動を開始した。
他のツアー参加者が遊園地や大阪城に向かう中で佐倉フミと古川宗次は、大阪万博公園へ向かう。
いくつもの駅を通過する電車を乗り換えながら、二人は大阪万博公園へ辿り着く。
佐倉フミの目の前に見える巨大なオブジェ。それが太陽の塔である。太陽の塔の回りには野原が広がっている。
「本当に何も変わっていないね。三十九年前と」
「まさか大阪万博に行ったことがあるのか」
「うん。五年前にね」
佐倉フミは一瞬何かを思い出し、訂正する。
「三十九年前の世界からタイムスリップしてきたから、正確には四十四年前か。四十四年前はその周辺にある野原に各国のパビリオンが建設されていたけど、今は取り壊されているみたい」
「ところでフミは誰と大阪万博を訪れたのかが気になるが」
「春休みに家族旅行で行ったんだよ。その時は法隆寺にも行ったな。そういえばそれが最後の家族旅行だった。その翌年におばあちゃんが病死したから」
「ああ。広島の原爆の被害者たちの治療に挫折した負けず嫌いのおばあちゃんが病死したのか」
「その時にはおばあちゃんとも一緒に旅行したんだよ」
その発言の後、佐倉フミの瞳から涙が零れる。
「本当に最後の家族旅行になるのかな。このままこの時代にいれば、二度と私のお父さんやお母さんとも旅行ができない。断言はできないけど、この時代には私のお父さんとお母さんはいない」
「フミは元の時代に戻りたいのか」
「分からない。だけど私は古川さんに出会えてよかったと思う。深い意味はないけど」
佐倉フミはハンカチを取り出して、涙を拭きとろうとする。だが涙は溢れていく。
古川宗次はそっと佐倉フミの右肩に触れる。この時古川宗次は初めて彼女の涙を見た。そして古川宗次は誓う。佐倉フミの決断を否定しないと。
次回『Scene Familiar』




