Shelter Front
日本語訳。『防空壕最前線』
八月十五日。終戦の日。リビングで寛いでいる古川宗次に佐倉フミが話しかける。
「古川さん。今日は終戦の日だから、毎年聞かされた話を話していいかな」
「まさかこの前の原爆から少し脱線した戦争体験談の続編か」
古川宗次は九日前のことを思い出す。あの時佐倉フミは原爆の怖さを独自の視点で語った。その話は佐倉フミの祖母の話だった。
だが佐倉フミは首を横に振る。
「違うよ」
昭和二十年八月十五日。午前十一時五十分。日本のどこかにある村。疎開先となった田舎町。そこに一人の女教師が歩いていた。その女の年齢は二十代後半。都会から疎開してきた子供たちに慕われていたという。
その女教師が歩いていると、多くの子供たちが彼女の回りに歩み寄ってきた。
「先生。メンコで遊ぼう」
その男の子の無邪気な声を聞き女教師は微笑む。
「ごめんなさい。少し急いでいて」
女教師は手紙を握っている。これから郵便局へ向かうのは明らかだろう。
その時村のサイレンが鳴り響く。空からは爆撃機の音が聞こえる。その音を聞き女教師は叫ぶ。
「空襲。逃げて」
その叫び声を聞き村民と子供たちは防空壕がある方向に逃げる。
女教師は全員が防空壕に避難したことを確認する。その後で防空壕に向かおうとした。
だが彼女は石に躓き転んでしまい、手にしていた手紙を落としてしまった。
彼女が手紙を慌てて拾おうとすると、一人の軍服姿の男が女教師の手を握った。その背後からは爆音が聞こえる。
「自分の命の方が大切だろうが」
軍服を着た男は女教師の手を握り、防空壕まで走り去る。地面に手紙を残して。
そして軍服を着た男は女教師を村民たちがいる防空壕に送ると、防空壕から離れていく。
その頃空から多くの爆弾が投下され、村は炎に包まれた。女教師が拾い忘れた手紙が焦げるほどに。
軍服姿の男が、炎に包まれた村に戻ってくると、正午のサイレンが鳴り響く。
その音が合図だったかのように、爆撃機は村から遠ざかっていく。
謎の空襲が終わりを迎え、村民の一人がラジオのスイッチを入れる。そこで村民たちは衝撃の事実を知る。日本軍が降伏し、第二次世界大戦が終戦を迎えた。
長い戦争が終わり、女教師は手紙を落とした場所に走る。だがそこにあったのは黒焦げになった手紙だった。
そんな彼女に軍服姿の男が歩み寄る。
「ごめんなさい。その手紙は大切だったのだろう」
「大丈夫です。手紙はまた書けばいいから。それにあの時爆弾による脅威が迫っていたでしょう。あの時手紙を拾っていた多、爆発に巻き込まれて死んでいたかもしれません。助けてくれてありがとうございます」
その女教師が微笑み、軍服姿の男が顔を赤くする。
「八月十五日は終戦の日であると共に、私のお母さんとお父さんが出会った日なんだよ」
「やっぱり脱線した。終戦の体験談かと思ったら馴れ初め話かよ。ところでフミのお母さんが落とした手紙の内容が気になる」
「あの手紙は婚約者さんのラブレターの返事だったの。その婚約者さんは戦死したから、手紙を書きなおすことなく、お父さんと幸せに交際生活を送りましたとさ。めでたし。めでたし」
次回『Saturday Forecast』