Seaside Forever
日本語訳。『永遠の海岸』
八月十四日。古川宗次と佐倉フミは鈴木風次郎に誘われて、海岸にやってきた。
だが佐倉フミは水着を着ていない。さらに二人は手ぶらで海岸にやってきている。そのことに鈴木風次郎は不満を口にする。
「どうして水着を持ってきていないのかな」
「忘れたのか。佐倉フミはカナヅチだ。そんな彼女が水着を着るはずがない。それにフミの水着姿はプールで見ただろう」
「今度は水着写真を撮影しようと思ってな。プールでは写真撮影が禁止されていたし、海岸の方がロケに適している」
「そういえば風次郎は俺の妹と同じ趣味だったな」
「俺も写真部の部員。お前の妹とは高校が違うから、別の写真部に所属するライバルという関係だったな。フミちゃんの趣味が聞きたかったな。宗次は知っているのかな。フミちゃんの趣味」
「知らない。本人に聞けばいいだろう」
鈴木風次郎は古川宗次に促され、佐倉フミに話しかける。
「フミちゃん。趣味が何か教えてほしいな」
「特になかったけど、最近はアニメ鑑賞が趣味かな」
その佐倉フミの発言を聞き、鈴木風次郎は古川宗次の肩を叩く。
「俺のフミちゃんをオタクにするな」
「勘違いしている。フミが見ているアニメは補給男健二。オタク向けアニメではない。彼女はオタクとしての一線を越えていない。それとフミはいつからお前の物になった。フミをお前の物にしたかったら告白しろ」
「怒っているな」
「怒っていない」
その後佐倉フミと古川宗次はなぜか、海岸を歩く。鈴木風次郎が海岸の浜辺を歩く二人の姿を写真に撮りたいといいだしたからだ。
「フミ。悪い。こんなくだらないことに付き合わせて」
「いいよ。三十九年後の海岸に行きたかったから。この海岸は三十九年前と同じ。何も変わっていない。私がどうしてタイムスリップしたのか。その答えが分からない。だけどこの海岸の変わらない景色を見ていると、三十九年という時間の流れを忘れることができる」
「ところでフミは三十九年前に戻りたいと思うのか」
「まだ分からない」
佐倉フミは古川宗次の手を握る。鈴木風次郎はシャッターチャンスというばかりに、その瞬間を撮影する。
一方古川宗次は一瞬顔が赤くなった。数秒間の沈黙が続き、佐倉フミが微笑む。
その場所は佐倉フミにとって永遠の海岸となるだろう。
海岸から少し離れた位置に立っていた園山冬実はその様子を見ていた。
園山冬実は一枚の写真を握りしめながら呟く。
「あのことを隠蔽しなければこの世界を救うことができない」
園山冬実は佐倉フミたちに気が付かれないように姿を消した。
次回『Shelter Front』