Secrecy Faulty.
日本語訳。『秘密の欠点』
八月十日。その電話は突然かかってきた。
『宗次。一緒にプールに行ってほしいな』
古川宗次のスマートフォンにかかってきた電話の相手は鈴木風次郎。
「なぜ高校生にもなってプールに行かなければならない」
『お前のところに押しかけている親戚の女の水着姿が見たいな』
「佐倉の水着姿か。でも佐倉は水着なんて持っていない」
『プールで買えばいいんだな』
「もう一度言う。佐倉の水着姿はお前の元カノの水着姿と同じだと思うが」
『お前の親戚の娘の方が、巨乳だと思うな。団栗の背比べな』
「どちらかといえば貧乳だ。初対面の女性のどこを見ている」
『初対面の女性の胸を見るのは普通の話だな』
「分かった。誘ってみる」
鈴木風次郎の誘いを受け、古川宗次は佐倉フミと共にプールにやってくる。
市民プールで合流した鈴木風次郎は佐倉フミの水着姿を見て不満を口にする。
「普通のスクール水着だな」
「何を期待している。これは佐倉の意見を尊重しただけだ。別にスクール水着が安かったからという理由ではない」
この古川宗次の意見を聞き鈴木風次郎は納得する。それから三人は準備運動を済ませ、プールへと足を踏み入れる。
正確にはプールに足を踏み入れたのは古川宗次と鈴木風次郎だけで、佐倉フミはプールの前で立ち止まっていた。
「佐倉。どうした」
「実は私……」
佐倉フミは言葉を続けようとした。だが鈴木風次郎が彼女の手を引っ張り、無理矢理プールの中に入れる。
その次の瞬間、佐倉フミはプール内で溺れた。この時古川宗次は察した。佐倉フミはカナヅチであると。
その後の古川宗次の行動は決まっている。溺れている佐倉フミの体をプールの外に運ぶ。
古川宗次に助けられた佐倉フミは安心した。
「助けてくれてありがとう。私はカナヅチなんだよね」
「だったらどうして一緒にプールに来た」
「鈴木さんと少し話をしたかったから。昨日はゆっくり話ができなかったからね。それと万が一溺れても古川さんが助けてくれると思ったから」
「そうか」
数秒間沈黙が続き、鈴木風次郎がプールから上がってきた。
「スルーしたな」
「何のことだ」
「あの発言はフラグだと思うな。生き別れの双子の妹ならよかったな」
「言っていることが分からないが、いきなり佐倉の手を引っ張るな。彼女は古川さくらではない」
「そういえば、さくらちゃんはカナヅチではなかったな」
鈴木風次郎が元カノのことを思い出していると、佐倉フミが鈴木風次郎に手を差し出す。
「佐倉フミです。昨日は自己紹介ができなくてごめんなさい」
「鈴木風次郎。よろしくな。紛らわしいからフミと呼んでいいかな」
「いいよ。もちろん古川さんも名前で呼んでいいから」
鈴木。三角関係になるかもしれない。
次回『Silver Fate』