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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第三章 現身
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第八十四話 正義


 俺とシャルが迷宮の入口へと戻った時には十日間が過ぎていた。

 一応ずっと迷宮に居たのだから、戻ったというのも少しおかしいか。

 感覚的には一日とて迷宮に入っていたとは思えなかった。

 そして卒業課題を諦めて一日石か一時間石を作ろうとした矢先、シャルに国からの呼び出しがかかった。


「シャル・フルスさんですね。

 軍からの命令でお迎えに上がりました。

 騎士団長の所へご案内します」


 何時もより多い護衛。

 向かう先は東の地、アフュンフ国だった。

 内容は戦闘に参加する物では無く、ただ見学するだけの様だった。

 卒業後の進路を見ておけと言う事だろう。

 シャルにその気はないというのに。




◇◇◇




「よく来てくれたね。

 私はまだ早いと思うのだが、国から本当の戦争と言う物を見せろと言われてね」

「エレクト様、お久しぶりです。

 ……分かっています。

 邪魔にならないよう気を付けて拝見させて貰います」


 エレクトとは直ぐに会う事が出来た。

 そこには何万と言う数の兵士が待機していた。

 本格的にアフュンフ国を攻めるのだろうか。


「では今回の作戦を説明しようか。

 今見ている兵士達は国境を守る為の物だ。

 実際の所、アフュンフ国には攻め込まない。

 攻め込むのは……私だけだ」


 とんでもない作戦だった。

 たった一人で国を攻めるというのか。


「此方の動きを察して敵も国境付近に兵を固めてきている。

 その敵兵が攻めてきた時に対応する為に此方の兵は待機している。

 此方から兵が攻め込む事はまずないよ。

 そして私が実際に攻撃するのは敵の後方支援の方だ」


 兵站? を攻撃するという事か。

 補給を取れない敵兵は何も出来ずに帰るしかないからな。


「では早速だが作戦を開始しようか。

 使い魔君は本来の姿になってシャル君と共についてきなさい」


 本来の姿を見せても良いのか。

 俺の力を周囲に知らしめ、シャルを他の道へ進ませないようにするのが目的なのだろうか。

 理由はどうあれ拒否する事も出来なかった。


「では行こうか」


 エレクトの従魔のワイバーンが空から舞い降りてきた。

 俺とシャルの様に念話(テレパシー)が使える訳では無いはずなのに、それは完璧なタイミングだった。

 それに続くように俺は本来の姿、成体へと変態する。

 そして俺達は空へと舞い上がった。

 ……何となく、嫌な視線を感じながら。




◇◇◇




「敵兵士は無視する。このままついてきなさい」


 空を飛ぶ物を誰も阻止する事は出来ない。

 眼下には小さな点の様な兵士達が見えるが、今回の攻撃対象では無い。

 俺達は敵国の更に奥へと進んでいく。


「ここが今回の攻撃目標だよ」


 そこは町だった。

 何の変哲もない、普通の町。

 ……とても戦える者がいるとは思えなかった。


「敵国にはここを攻撃する事は伝えてある。

 ……優しいだろう?」


 優しい?

 確かに人の姿は見えない。

 だがこれは戦闘行為と言えるのだろうか。


「この攻撃が最も効果的なんだよ。

 敵の軍と言う物は全く機能せず、ただ守られるべき民が傷つく。

 物理的にも精神的にも国の力を削ぐ事が出来るからね」

「こんなやり方……」


 シャルは何か思う所があるようだった。

 だがそれはエレクトには届かない。


「確かに酷い行いに見えるかもしれない。

 だが兵士を何万人も殺すよりはよほどマシだと思うけどね」


 人が死なない方が良いに決まっているが……。


「……攻撃を開始する。

 何なら君達も魔術で攻撃しても良いよ。

 用意した爆発石を使っても良い。

 どうせ誰もいない楽な仕事だからね」


 ただ破壊するだけ。

 そしてエレクトは何の抵抗も無く町の破壊を始めた。

 ……俺達はその楽な仕事を何一つする事は出来なかった。

 元々見学なのだから咎められる物でも無い。

 だが俺達は酷く傷ついていた。


「粗方終わったかな。次の目的地へ向かうよ」


 そしてこれで終わりでは無かった。

 まだまだ蹂躙は続くという事だ。


 次の目的地は穀倉地帯だった。


「次は敵の食糧を叩く。これで終わりだ。

 国境付近の敵兵は引くしかなくなるだろう。

 ……もう守る物もないのだから」


 エレクトの手によって作物が焼き払われていく。

 ここでも何の抵抗も無かった。

 もし敵兵がいたとしてもそのまま作物と一緒に焼かれるだけだからだ。

 抵抗など何も無い。

 空には攻撃など届かないのだから。




◇◇◇




「これで終わりだね。簡単な仕事だったろう?

 ……そしてこれから君達がするかもしれない事だ」


 エレクトは最後に真剣な表情で俺達に伝えて来た。


「君達にこんな事が出来るだろうか?

 今はまだ出来ないかもしれない。

 でも大切な者を失ってからでは遅いという事を覚えておいて欲しい」


 エレクトは大切な者を失ったのかもしれない。

 それがこのある意味非情な事を平然とやってのける理由なのかもしれない。


「私は……私達はこの様な事を望みません」


 それは一方的な蹂躙で交渉の余地など無かったはずだ。


「では私を、国を止めるかい?

 何もしないという事はそれを認めているのと同じ事だよ。

 そして君達がやらなかったらより多くの人がもっと酷い事をしなければならない」


 それは国境で見た敵兵と味方の兵が戦うという事だろうか。


「君達には力がある。

 出来る者がやらないのは罪だと私は考えるよ」


 そんな事は無いと俺は思う。

 だが他に何か良い方法があるかと聞かれても答えられない。


「それでも私達はやりません!」

「それでは困るのだよ。

 どうあってもして貰わなければならない。

 ……国に力を貸して欲しい」


 もう自由に行動できる猶予は無いという事か。


「お断りします!」


 それでもシャルの考えは変わらなかった。


「では……力尽くと言う事になるね」


 エレクトがシャルに剣を向けていた。

 俺は咄嗟にその間に入る。

 ただ向けられただけなのにその威圧感から体が動いてしまった。


「……エレクト様らしくありません」

「これも仕事でね。好き嫌いは言ってられないんだ。

 そして国の……民の為にもなる」


 エレクトは本気の様だった。


「それに君達とは一度戦ってみたかった。

 アインツ王国で一番は私だとの評判だけど、最近は陰りが見えて来てね。

 ……君達のせいで。

 それは色々と困った事でもあったんだよ」


 国の関与しない所に最大の戦力があると噂されれば確かに困るかもしれない。


「悪いが返答の有無にかかわらず戦って貰うよ!」


 エレクトはシャルに斬りかかろうとした。

 俺はシャルを背中に無理矢理乗せ、エレクトと距離を取る。


「……空中戦は久しぶりだな」


 エレクトも従魔のワイバーンに跨り、俺達を追って来た。


「シャル、このまま逃げるぞ!」

「ええ、お願い!」


 俺はシャルを乗せ、エレクトから逃げようとする。

 だがそれは叶わなかった。

 飛行速度はエレクトの方が速かったからだ。

 俺がワイバーンより遅い訳では無い。

 搭乗者の限界が違っていた。

 エレクトはどれだけ速度を上げようともびくともしない。

 だがシャルはもう限界だった。


「ん……、ごめん、なさい」

「謝る事じゃない。

 ……戦うしかないのか」


 俺は速度を緩めた。

 目標(・・)の場所にもここなら近いからな。


「追いかけっこはもう終わりかい?」


 俺はエレクトを睨んでいた。

 そのどこまでも陽気な、遊んでいるような感じが余計に俺を苛立たせた。


「使い魔君は忠義者だね。

 そうだ!

 君だけでも国に尽くしてくれたら、シャル君は自由にしても良いよ」


 ここに来てその提案はシャルを人質に取っているのと変わらなかった。


「駄目! 私は知っている。

 ファーストがこんな事を望んでいない事を!

 でも避けられない事もある。

 ……それなら一緒に戦った方がまだ良いでしょう?」

「ああ、そうだな!」

「交渉は決裂か。

 まぁ当初の予定通り、戦って決めれば良い事か」


 そしてエレクトは本気で攻撃してきた。

 魔術で作られた光の矢が俺達を襲う。


「シャル! 少し揺れるが我慢してくれ」


 俺は身を翻しながらそれを回避する。

 だが魔術は回避した方向へと進路を変更する。


「避けきれない!」


 俺は魔術が当たる瞬間にアンチマジックフィールドで防御した。

 常時、アンチマジックフィールドを使っていないのには理由があった。


「アイスアロー!!!」


 シャルが攻撃を出来ないからだ。

 俺がブレスで攻撃しても良いが空中での高速戦闘では当てる自信が無かった。

 それよりもシャルが放つ無数の氷の矢の方がまだ当てやすかったからだ。


「その程度ではやられないよ!」


 だがエレクトに攻撃が当たる前にアンチマジックフィールドで簡単に防御されてしまう。

 一進一退の攻防が続くがそれは長くは続かなかった。


「はぁ、はぁ」


 無尽蔵の体力を誇るシャルですら、この空中での戦闘は消耗が激しすぎるようだった。

 対するエレクトには余裕があった。

 二人でエレクトと戦うのはもう限界だった。




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