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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第一章 幼生
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第八話 授業3

「なんでアンタが私より早く問題が解けるのよ……」


 俺は魔術で器用に羽ペンを操りながら、シャルより早く紙に答えを書いていた。

 この羽ペンは魔道具だ。

 魔力を使う事でインクが付ける事無く使う事ができる。

 特殊な媒体で出来ており、その媒体の効果が無くなるまでずっと使える。

 まぁボールペンよりは長持ちする程度だが。


 それは置いといて、シャルがぼやいている事についてだ。

 所詮授業内容は十歳程度である。

 しかも授業のほとんどを魔術と武術に当てて居る為、その内容は驚くほど簡単だ。

 せいぜいが四則演算程度だった。

 また計算にはコツがあり暗算で余裕だった。

 数字を分解して考える方法なのだが説明は割合しておこう。

 文字についてはすべての物が習う前から解っていた(・・・・・)。

 魔術については覚える事が多すぎて授業では基本的な事しかやらないのですぐに覚えてしまった。

 魔術は実践の方が重要視されているようだ。

 総合的に見て、貴族の礼儀作法以外ならシャルよりも俺の方が賢いと思う。

 ずっと一緒に授業を受けてきたしな。


 そういえばケーゼがシャルに会いに来ていた。


「なぜ俺の部屋に来なかった!?」


 シャルが支持に従わなかった事をかなり怒っているようだ。

 怒っているのはこっちだというのに。


「おっと……失礼」


 俺は羽ペンのインクをわざとらしくケーゼに飛ばしていた。

 ケーゼの顔に物の見事に当たった。


「貴様……魔物(モンスター)の分際で人の言葉を話すだけで無く、俺の邪魔をするとは!」


 ケーゼは怒り狂い俺を払いのけるように裏拳を当ててきた。

 だが俺は微動だにしない。

 ドラゴンの皮膚は堅くまた俺は敢えて仰け反らないように構えていた。

 その結果、鉄の塊を叩いたような感じのようになっただろう。

 ケーゼは苦悶の表情をしながら手の甲を抑えていた。


「使い魔が失礼したわね。

 でもこれでお相子でしょう?」


 全然お相子では無いけれどシャルが仲裁した。


「あと貴方の言う事を聞く義務はないわ。

 約束通り卒業後にして頂戴!」


 シャルはぴしゃりと言いきり、ケーゼは周りの目も気にしてかそのまま去っていった。

 小さく覚えていろと呟いていたような気がするが忘れてしまおう。


「不敵なドラゴン……」


 俺はとても整った顔立ちの女の子に抱きかかえられた。

 確かマルメラといっただろうか。

 耳の形が少し変わっている……エルフという種族だろう。


「貴方と似ているわね、マルメラ」

「そう……かしら……」


 シャルが俺とマルメラが似ているという。

 だが似ているのはシャルだろう。

 周りを気にせず、我が道を行く。

 シャルと違うのは寡黙な所だろうか。

 あまり話して居る所を見たことが無い。

 まぁちょっとした変わり者ってやつだろうか。




◇◇◇




「アンタは後ろに隠れてなさい」


 武術の授業では準備運動もそこそこに模擬戦が始まる。

 多少の怪我は魔術で治してしまうので結構激しい戦いになる事もある。

 自分で治せない者も学園専属の魔術師に直して貰えるので安心だ。

 

 そして俺はそれに参加するようになった。

 主人と使い魔はともに行動する事になるので一緒にやってはどうかという事らしい。

 俺は戦闘力の無い為、シャルの邪魔にならないよう相手からも攻撃を受けないよう逃げるだけだが。

 完全な足手まといだが、最近のシャルは強すぎるので丁度良いハンデになっている。


 遠距離の攻撃魔術の使用だけが禁止され、基本的に接近戦だ。

 一対多で戦う事を想定されており、防御に主軸が置かれている。

 訓練だから戦うが、実践では近接戦闘になったらすぐに逃げろと教わった。

 魔術師は遠距離から攻撃した方が良いに決まっているからだ。

 だがこの授業は人気がある。

 過去に勇者が近接戦闘において活躍する伝説があるからだ。

 魔術の才もあった勇者がなぜ近接戦闘を行ったのかは謎である。


「シャルさん、手合わせお願いできるかな?」


 シャルに男の子が話しかけてきた。

 こいつは要注意人物だ。

 最近事あるごとに何度もシャルに話しかけてくる油断ならない奴だ。

 名前はキルシュ、シャルと同じ普通の人……まぁ普人族って奴だ。

 魔術はそれなりだが……使い魔と契約してる。

 俺達と同じという事だ。

 

「いいけど、一対一?

 それだと両方とも防御ばかりになってしまわない?」

「いや……僕は攻めるよ。

 そして僕をシャルさんに認めて貰う」

「ああん!?

 シャルに手を出そうっていうのか?」


 俺はとっさに割り込んでしまった。


「あんたは黙ってなさい。

 ……認めるってどういう事かしら?」

「僕が勝ったら一緒に町を見て回らないかな?

 あまり出歩けないようだけど、生徒同士一緒にならきっと大丈夫だよ」


 シャルの現状を察して力になろうという事だろうか。

 まぁただのデートのお誘いだろうが。


「そうね、私は守るだけね?

 それなら受けて挙げても良いわよ」

「有難う……それじゃあさっそくだけど行かせて貰うね!」


 シャルとキルシュは剣を構え立ち会う。

 剣は訓練用の木刀だがまともに当たれば死にはしないが大怪我をするだろう。

 まぁ魔術で治すから大事には至らないが。


 キルシュが走り込み斬りかかる。

 上段下段、突きに払い。

 それをシャルは難なく剣で受け止め、払いのける。

 だがシャルの体制が崩れてしまう。

 そこへキルシュが上段からの渾身の一撃を入れようとする。


「はっぁああ!」

「てい!」


 だが可愛らしい声と共にキルシュは攻撃をしようと力を入れた隙に、

 腹の辺りを切り払われてしまった。


「守だけだからといって攻撃しないとは言ってないわよ」

「くっ……それはそうだね」


 腹に手を当てながらキルシェは悔しそうにそう言った。


「だがまだだ。

 次は……使い魔を交えて本気で相手したい!」


 今のは手を抜いていたという訳では無いのだろう。

 自分のすべての力を出し切りたいのかもしれない。


「……それ私にはハンデにしかならないのだけれど。

 まぁ良いわ……使い魔が倒されても私が倒されなければ認めないわよ?」

「それで十分だよ……僕はどうしても勝ちたいんだ」


 キルシュは使い魔を連れて来た。

 そして使い魔に騎乗する。

 キルシュの使い魔は騎竜。

 爬虫類になった馬みたいな感じだ……二本足だが。

 手は小さく申し訳程度についてるだけ、背には羽があるがそれも大きくは無い。

 飛ぶ事は出来ないのだろうが魔力があればまた違うかもしれない。

 そして俺は思わず叫んでいた。


「すげー、ドラゴンだ!」

「アンタもドラゴンでしょうが……」


 シャルは呆れていたが。


「それでは行かせて貰らうよ!」

「ええ、何時でも良いわよ」


 改めて手合わせが行われる。

 キルシュと騎竜が猛烈なスピードで突進してくる。

 あんなものを人の手で止められる訳が無い。


「こっちも使い魔と力を合わせましょうか」

「ん?」


 俺は何の事か分からず思わず聞き返してしまう。


「竜の突進(ドラゴンアタック)!」


 俺はシャルに鷲掴みにされキルシュに向かって投げられた。


「な!?」


 意表を突かれたキルシュは避ける事が出来なかった。

 またその移動速度と俺の堅さも相まってぶつかった拍子に……キルシュは騎竜から落ちてしまった。


「ぐはっ!」

「ふー、また私の勝ちね。

 ただ闇雲に突っ込むだけが戦いじゃないと私は思ってるの。

 今のこの世界では一般的じゃないかもしれないけどね」


 今回キルシュはシャルに負けたのかもしれない。

 だが今の所……学園の評価はキルシュの方がシャルよりも上だ。

 威力や破壊力がある方が強いという事らしい。

 こういった所もキルシュがシャルに戦いを挑んで来た理由なのかもしれない。


「……そうかもしれないな。

 だが俺は諦めないまた今度手合わせをお願いするよ」

「はいはい、あまり無茶をしない程度なら相手して上げるわ」


 なんか負けたのにキルシュの評価が上がってないか?

 頑張った? 俺には何の声も掛けてくれないのに!

 やはりキルシュは……要チェックや!




◇◇◇




「アンタはそれを何とかしないさい……」


 魔術の授業はとにかく威力を上げる事がすべてだ。

 より強く、より遠くにだ。

 まだ魔力を変化させるだけで飛ばす事が出来ない者がほとんどだ。

 飛ばせたとしても小さな石ころのような大きさだ。


 教師が見本を見せる。

 人の大きさほども有りそうな炎の塊が放物線を描きながら百メートル以上先に飛ばされる。

 周囲は感嘆の声を漏らしていた。

 俺とシャルを除いてだが。


 シャルは炎と氷の差はあるかもしれないが同じ事ができる。

 今は石ころ程度の大きさだが、数百メートル先まで飛ばしている。

 目立ちすぎてすぐにも卒業だ……なんてことにならないようにだ。

 それが寸分違わぬ場所に飛ばされている。

 そしてよく見れば分かるがその形状がドラゴンの頭を模している。

 それが同じ場所に次々と飛んでいき木端微塵に砕ける。

 あまり深く考えるのは止そう……。


 そして俺は女の子に魔術を教えて貰っている。

 名前はショコラ。

 炎の魔術が得意なこの子に俺はコツを聞いていた。


「炎はねー、熱いんだよー!」


 うん、知ってる。


「だからグッ! ってやってバーン! だよ!」


 なるほど、わからん。


「獣同士、分かり合えるかと思ったけど駄目みたいね」

「獣人を獣扱いするのは許せないんだよ!」


 ショコラは獣人だ。

 ネコミミにシッポがあってモフモフだ。


「いいえ……頭が少し足りてないから獣扱いしたのよ」

「それなら別に良いんだよ!」


 やっぱり頭が少し足りてないのかもしれない。

 俺は足りてるぞ!




◇◇◇




 シャルは初めクラスから浮いた存在だったと思う。

 そして俺が来てからは更にだ。

 だがそれはシャルが強くなるにつれ少しずつ変わって来ていた。

 いや、強さでは無く彼女の頑張りに皆が気付いたのかもしれない。

 そしてそんなシャルをクラスメイトは認めて行ったのだと思う。

 だがそれに自分があまり関われていない気がする事だけが少しだけ残念だった。

 いや関わっていたかもしれない……盛大なお荷物を抱えても頑張っているという事。

 俺は何の為にここにいるのだろうと最近考えるようになっていた。




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