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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第三章 現身
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第七十六話 冒険3


 俺達は追撃部隊の援護に向かった。

 しかしそれは悪い意味で援護の必要はなかった。


「……冒険者達を感じられない。

 かわりに盗賊団の五人は感じる事が出来る」


 俺がついて行くべきだったか?

 だがもしショコラやトートの方へ危険がせまっていたら?

 考えても仕方のない事だった。


「まじかよ……。

 こりゃ撤退だな。

 時間が経てば経つほど盗賊団の合流の可能性はあがっちまう。

 これ以上は危険すぎるだろ」


 撤退。

 これが最善の行動だと思う。


「だが戻ってどうする。

 このまま国が盗賊団の討伐に出るまで町で待ち続けるのか?

 今ここで五人だけでも倒すべきだ!」


 だが隊長はそれを受け入れなかった。

 冒険者の数は十と少し。

 それにゲファールと学生二人と一匹。

 数の上では敵の三倍になるかもしれない。


 しかし先ほど、敵の三倍もいた冒険者が倒されてしまったのだ。

 確実に勝てるという保証は無かった。


「無理だな。さっさと町へ戻ろーぜ」


 ゲファールはやはり反対した。

 だがここで今まであまり意見を言わなかったトートが俺に質問してきた。


「……ファーストさん。

 盗賊の五人くらい僕達では倒せないでしょうか?」


 その僕達には俺も入っているのだろう。


「多分だが……倒せる。

 だが冒険者達に被害は出るかもしれない」


 それが俺の見立てだった。


「国が動くのなんて待ってらんないんだよー」


 ショコラは少しでも早く終わらせたいようだった。

 その気持ちは少しわかる。

 きっとキルシュに会いたいのだろう。

 俺もシャルに会いたいからな。

 それに俺は感覚共有(シンパシー)でシャルの事を感じられる。

 それが出来ないショコラはもっと会いたいと思って居るはずだ。

 ……多分だけどな。


「……国はしばらく動きません。

 東の地で軍を動かしているはずです。

 たかが盗賊団の討伐に動くのはずっと先だと思います」


 トートはかなり地位の高い貴族だ。

 こういう事を知っていても不思議では無いのかもしれない。


「安全は保障しない。

 それでも良いなら付き合ってやるよ」


 俺はトートとショコラにそう答える。


「それで構いません。

 盗賊団など殲滅しましょう」

「私の力なら楽勝なんだよー」

「はぁ、俺も付き合ってやるよ。

 だが危なくなったら直ぐに引けよ。

 他の誰を犠牲にしても自分だけは逃げるんだぞ?」


 ゲファールも俺達の説得に折れる事になった。




◇◇◇




 周りは木々が生い茂り、獣道のような場所を俺達は進んでいく。

 盗賊団五人のいる場所は俺の力によってわかっていた。

 冒険者達がその周囲を取り囲む様に進んでいく。


 俺達は後方からの援護という事になった。

 魔術師という事と学生という事で配慮されたのだろう。


 そしてしばらくして悲鳴が聞こえてきた。


「ぎゃー!」


 それは盗賊団では無く、冒険者達だった。


「……罠だ!

 気を付けろ、そこらじゅうに仕掛けてあるぞ!」


 しまった!

 俺は罠、トラップと言う物を失念していた。

 それは木の杭が迫ってくる物だったり、落とし穴だったりと簡単な物ばかりだったが効果は抜群だった。


 それにまさか此方に気付いているとも思わなかった。

 いや気付いていなくても同じか。

 この辺りにはずっと前からトラップが仕掛けてあったのかもしれない。


 冒険者達の悲鳴により奇襲は失敗。

 逆にトラップにより混乱する冒険者達に魔術が襲い掛かる。


「これがさっきと同じ魔術師かよ!

 ファイアアローどころじゃない。

 こんな凄い威力のファイアランス見た事ねぇぞ」


 多分初めの魔術は手を抜いていたのだ。

 冒険者達をトラップへと誘い込む為に。

 冒険者達は周囲を包囲するように動いていた為、その位置は分散していた。

 俺のアンチマジックフィールドで守るのも一苦労だ。

 俺は敵の魔術を全て防ぎ切る事は出来ず、冒険者達が致命傷を受けないようにするので手一杯だった。


「ファイアアロー!」


 そこにショコラから援護が入った。

 五人の中の一人、魔術師だけを狙った正確な攻撃だ。

 だがそれは他の盗賊が防いでしまう。


「あれは……ハンターワン……」


 トートがその隊列(・・)の名前を呟いていた。


「くそ、軍人崩れかよ!

 お前ら引くぞ!

 嬢ちゃん達、わりーが魔術で撤退を援護してくれ。

 当たらなくても良い、魔術師だけを狙ってな!」


 ゲファールが此方の劣勢を悟り撤退を進言する。


「……撤退するぞ!」


 冒険者達の隊長もそれを指示した。


 そして良くない事は続いた。


「後方から盗賊団と思われる奴が二十。

 ……挟まれた」


 俺は冒険者達の限界を感じていた。


「くそが……」


 ゲファールが悪態をつく。

 だが何かを諦めたようにいや悟ったかの様に話しだした。


「嬢ちゃん達、魔術師への攻撃はもう良い。

 完全に挟まれる前に後方へ引くぞ。

 敵の魔術師は手負いの冒険者達に止めを刺すのを優先するだろう。

 俺達の逃げる時間くらいは大丈夫さ」


 ゲファールは味方を犠牲にして逃げるつもりなのか。

 こいつはいつもいつも、本当にどうしようもない奴だ。


「後方には二十人いるが、魔術でその一角くらいは突破できるさ。

 初めに俺が突っ込むからその隙に逃げな。

 後は振り返るんじゃねーぞ、何も考えずに突っ走れ!」


 それはゲファールもまた他の冒険者達と同じ道を歩むという事だった。


「ゲファール、お前……」


 俺は掛ける言葉が見つからなかった。

 ゲファールがこんな事を言うなんて思っても居なかった。

 ショコラやトートを気にかけてはいるが、最後にはまた見捨てるのだろうと。


「……ドラゴン、借りは返すぜ!」


 またほんの少しだけ助けてやりたいと思ってしまう。


「借りを返すなんてお前らしくねーよ!」

「黙って返されとけよ!」


 俺はゲファールには借りを返させない事にした。


「……トート、森を焼き払っても良いか?」

「……どうしてそれを僕に聞くのでしょうか?」


 トートは陛下の命令で俺を見張っている。

 今回俺が護衛も無しに学園の外に出れるのも、きっとトートがいるからだ。

 その事を俺は知っていた。

 だがどうして俺がそれを知っているのかトートは聞かなかった。

 代わりに何かを諦めたような顔をして俺の質問に答えた。


「駄目です。

 知り合いが投獄されたり拘束されたりする所を見たくありません」


 それはどういう意味なのだろうか。

 そしてトートは代わりの案を上げる。


「ショコラさん、盗賊の二十や三十は問題ありませんよね?」

「楽勝なんだよー」

「ファーストさんは冒険者を守ってあげて下さい」

「了解だ」

「僕が敵の魔術師を倒してきます!」

「そんな無茶は止めろ!

 すぐに逃げるんだ!」

 

 ゲファールがそれを止める。


「ゲファールさんは邪魔なので隠れていてくださいね」

「ひでぇな、おい!」


 ゲファールは文句を言っていたがそれに従った。

 いや俺達を止める事が出来なかっただけだが。

 今まで自分を主張せず、ずっと陰に隠れていたトートが自ら行動する事を選んだ。

 トートらしくなく、それはどこかの王子様のような行動だった。




◇◇◇




 トートが敵魔術師に近づいて行く。

 それは風の魔術を器用に使い、木々を飛び渡って行われた。

 木の上にまでトラップは無い。

 トートの行動を制限する物は何も無かった。


 その不規則な動きは敵の魔術を回避するのにも役立った。

 トートはあっという間に敵魔術師に接近する。

 それを見て敵魔術師が呟く。


「ほう、やるじゃねーか。

 だが……」


 だが敵は魔術師だけでは無い。

 魔術師を守る盗賊四人が剣や槍を手にトートに襲い掛かる。

 しかし瞬きをする間に、盗賊も魔術師も五人全員が倒されてしまう。


 それは銃の攻撃によって行われた。

 そして魔石を使わずトートの魔力だけで十分だった。

 人を殺す最小の力で魔術が発動された。

 その速度は魔法に近しい物だった。


「そん、な……」


 敵の魔術師は何が起こったのか分からないと言った感じだった。

 もしかしたら銃と言う物を知らないのかもしれない。


「……国の為にずっと軍に所属していれば良かったですね」


 魔術師はアンチマジックフィールドをわずかの間だが使って威力を軽減したのかもしれない。

 ……まだ話す事くらいは出来た。


「……あそこはつまらない……からな。

 人を殺せな……い……」


 話す事は出来ない方が良かった。


「正々堂々と戦う事は人を殺す事にならないと?

 一方的に殺す事が目的ですか!?

 ……貴方は死んだ方が良いでしょう」


 トートが銃を撃つ。

 しかしそれは誰も傷つけなかった。


「ファーストさん……」

「もう良い。盗賊を無力化すればそれで良いんだ」


 俺はアンチマジックフィールドでそれを防いだ。

 トートは納得していなかったが、俺の言う事を聞いてくれた。


 そして同時にもう片方の戦闘も終わっていた。




◇◇◇




 俺は敵の魔術を防いでいた。

 だがトートが前進する事により敵の魔術は此方へ放たれる事は無くなった。

 そして冒険者達は徐々に後退する事に成功するが、その先には別の盗賊達が待ち受ける。


「こっちは私に任せるんだよー」


 ショコラが二十人の盗賊と対峙する。

 そこで俺が見た物は魔術師とそうでない者の決定的な差だった。


「手加減しないんだよー」


 ショコラは魔術を使用する。

 ショコラの周りには炎の球体が十ほど浮かび上がっていた。


「これじゃあ足りないんだよー?」


 更に十、合計で二十の炎の球体が浮かび上がっていた。


「行くんだよー……

 ファイアボール!」


 二十の炎の球体がそれぞれ盗賊達に襲い掛かる。

 それを何とか回避する者、叩き落とす者、耐える者、そして倒される者。

 様々な結果が出たがその全てに言える事は防御に専念するしかないという事だ。

 盗賊達は攻撃する暇が無かった。


「次は倍だよー!」


 ショコラの周りには四十もの炎の球体が浮かび上がっていた。

 そして盗賊達は倒された者を除いた数でそれに対応しなくてはならなかった。

 一人当たり倍以上の数が盗賊達を襲っていた。

 ……もう立っている者は居なかった。


「さぁー、もっとだよー」

 

 六十の炎の球体がショコラの手によって作られる。

 ……盗賊達は命乞いを始めた。


「お前ら強すぎだろ……」


 ゲファールの呆れた声も聞こえていた。




◇◇◇




 盗賊団の討伐は完了した。

 重傷者は多かったが死亡者は無く、盗賊団は全員捕えられた。

 冒険者達にも死亡者は居なかった。

 ……始めに追撃に向かった十五人を除いてはだが。


 俺達がいればそれは防げただろうか?

 だがショコラやトートがトラップに掛からなかったとは言い切れない。

 もっと凶悪なトラップやもしくは伏兵がいたかもしれない。

 言い出したらきりが無い。

 今回は俺達が無事だったという事で納得するしかなかった。


 その後は元の依頼へと俺達は戻った。

 だがもう既に盗賊団は無く、護衛の依頼はただ町から町へ移動するだけで終了した。

 そして学園のある街へと俺達は帰って来た。

 後は冒険者ギルドに報告するだけだった。


「おい、聞いて驚け!

 あの盗賊団の魔術師は賞金首だったらしいぜ!

 報酬がたんまり貰えるからな!」


 ゲファールは素直に喜んでいた。

 ……お前は何もしてねぇだろうが。


「ゲファール、話がある」


 それはギルドマスターだった。


「今回の事では良くやってくれた。

 報酬もきっちり出そう」

「当然だな、色を付けてくれても良いんだぜ?」


 ゲファールは誇らしげに語っていた。


「だが、そんな危険な事に学生を巻き込むとはどういう事だ?」

「……へ?」

「盗賊団の情報はギルドから開示されていたはずだ。

 それになぜCランクのお前がAランクの依頼を受けていたんだ?」

「えーっと、それは……」


 雲行きが怪しくなっていた。

 ゲファールの判断は正しいが事前の準備はお粗末な物だった。

 ……ギルドの規則も守っていなかったようだ。


「他の冒険者からの協力依頼、仕事内容は荷物持ちと本来の依頼内容を誤魔化しおって……。

 お前のせいでギルドの規則に修正変更が必要になるだろうな……」

「いやー、どうだったかなー?」


 今回はゲファールも誤魔化せないようだった。


「お前はまたランクが下がるだろうな。

 投獄や拘束されないだけまだマシと思え!」

「そりゃねーよ、マスターなんとかしてくれよ!」


 だがゲファールの訴えは届かなかった。


「ゲファールさん、今回は有難う御座いました」

「ゲファール、また今度宜しくなんだよー」

「ゲファール、次会う時はランク上がってると良いな!」


 俺達の感謝の声が届かない程、ゲファールは落ち込んでいたようだが……。


「過ぎた事は仕方ねぇ。

 ……この金で嫁に慰めて貰うか!」


 結構簡単に吹っ切れそうだった。




◇◇◇




 ショコラとトートの卒業課題はあっさりと終わってしまった。

 Aランクの依頼に、盗賊団、賞金首の討伐。

 十分すぎる実績だった。


「これで学園に帰れるんだよー」

「終わって見ればすぐでしたね」

「あっさり終わって良かったよ」


 そしてこのまま帰るという事にはならなかった。


「報酬で何かお土産を買うんだよー」

「それが良いかもしれませんね」

「え? 俺、貰ってないよ?」


 ゲファールの野郎、モンスターには報酬なんて無くて良いとか思ってやがるな。


「きっちり四等分なんだよー?」

「ゲファールさんはそう言ってましたね」

「騙された!」


 ゲファールは授業料とでも言うのか、報酬の半分も持って行った事になる。

 最後の最後で俺はあいつを信用してしまったのだろうか?

 そんな事は無い……と言い切れないのが少し悔しかった。




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