第七十五話 冒険2
「んー、迷宮関係の依頼ばっかだな」
俺達は改めてギルドで依頼を探していた。
だがそこには元の町に帰る依頼は無く、この町にある迷宮での依頼がそのほとんどを占めていた。
「また荷物運びでもしますか?
でも迷宮内での荷物持ち(ポーター)ですが……」
「何でも良いんだよー」
「別にポーター自体は問題ないと思う。
階層も浅いしな」
俺達はまた荷物運びをする事にしようとしていた。
だが何でも良いと言っていたゲファールから反対の声が上がった。
「それはやめとけ。
嬢ちゃん達がする仕事じゃねーよ」
「力には自信があるんだよー」
「僕も魔術になら多少自信があります」
「俺は迷宮慣れしているつもりだぞ?」
「馬鹿が、迷宮で危険なのはモンスターだけじゃねぇ。
一緒に行く冒険者達が時には敵になる。
あんな誰もいないような場所へ行ったら、聖人だって嬢ちゃん達を襲いたくなるってもんだろ」
いやお前の考えと聖人君子みたいな人の考えを一緒にしちゃ駄目だろ。
だがそれは正しい事だと思う。
そう言う経験を実際にしていたからだ。
ゲファールは適当で言う事も失礼極まりない。
しかし最低限の正義というかルールと言う物を守っている。
それは信用に値する物だった。
「まー、俺が良い仕事を決めて来てやるぜ。
ちょっとランクは高くて普通なら受けれないが、俺の交渉次第で楽勝よ!」
それは一般的なルールとは少しだけ逸脱していたが。
◇◇◇
「おら、依頼を取って来たぜ。
Aランクで商人達の護衛だ。
しかも少し遠回りにはなるが学園のある街へと帰れる。
完璧だろ?」
確かに希望通りの依頼だと思えた。
そのランクさえ違っていたら。
「Aランクですか? 僕は構いませんが……」
「きっとAランクでも大丈夫なんだよー」
「お前Cランクのくせに、しかも学生とだぞ。
そんなの受けて大丈夫なのかよ?」
トートとショコラは乗り気だったが、俺は反対だった。
それは俺が知らないランクの護衛だったという事もある。
「ドラゴンのくせに臆病だな。
お前も前に似たようなのを受けたはずだぞ?
今回も同じで積荷は魔石だ。
ただ移動距離が長いのとちょっとばかし危険な所を通るだけだ」
前は酷い目に遭った気がするぞ。
しかも危険な所を通るって……。
「最近盗賊団が出没している場所があってな、そこを通る。
本来なら国が盗賊団を討伐するのを待つんだが、ここ最近その先にある町へ魔石が供給されてねぇ。
もう日々の生活に困るくらいになっているはずだな」
魔石は生活に欠かせない物になっている。
だがそれは一定以上の生活をしている者だけだ。
平民、特に農村部などでは魔石をほとんど使わないからな。
そしてこの国のほとんどの人々がそれに当てはまっていた。
「まー、困っているのは貴族だろうがな。
その分、今のうちに魔石を売りに行けば確実に儲かる。
商人からの依頼料も高くなるって事さ」
危険な分の対価は貰えるって事か。
「Aランクなら卒業課題を一気に終わらせる事も出来るかもしれません」
「私達なら楽勝なんだよー」
「危なくなったらさっさと逃げようぜ。
責任はゲファールが取るしな」
「おい、逃げんなよ!
俺は責任も取らねーよ!」
こいつ大人として最低だな。
ギルドマスターから面倒見ろって言われたの忘れてるんじゃねーのか?
危険な場所を通るが最終的には学園のある街へと帰る事が出来る。
俺達はこの依頼を受ける事にした。
◇◇◇
今回の護衛は俺達のほかにも二十人以上の冒険者達がいた。
もう人数は十分だった所にゲファールがごり押しでねじ込んだらしい。
どうやったのか不明だがな。
そして初めから俺達が居なくても守り切れるという事なら安心もできた。
「楽勝、楽勝。
盗賊団といってもどうせ食い扶持に困った農民上がりだろ?
そんなのにいったい何が出来るっていうんだ」
……そんなのに襲われるせいで魔石が届いていないんだがな。
ゲファールのこの余裕はどこから来るのが全然分からん。
「それに護衛はこの人数だ。
俺達の出る幕はねーよ」
そうあってくれたならどれ程良かった事だろうか。
「ゲファール、盗賊団って何人くらいなんだ?」
「良く分かってねーが大体十人前後って聞いてるぜ?」
「……二十人くらいが側面に伏せてるぞ」
此方より多少人数は少ないが進行方向の先で盗賊団と思われる伏兵がいる事を俺は察した。
「まじかよ。方向はどっちだ?
場所が分かっているなら迂回する必要もねぇ。
一気に叩いちまうだろうぜ」
「この先、曲道を進んですぐの所に道を挟んで左右に十人ずつだ」
「分かった、護衛の隊長に相談してくるぜ!」
今回の護衛は俺達が後から無理矢理はいった。
隊長は既に別の者がする事になっていた。
しばらくするとゲファールが俺達の元へと帰って来た。
「こっちの作戦が決まったぜ。
盗賊団はいつも有無を言わさず先制攻撃、奇襲を仕掛けてくる。
それをさせずにこっちから奇襲をかける事になった」
「俺達はどうするんだ?」
「何もしねーよ、積荷を守っとけばそれで良い。
他の奴らが全て倒しちまうだろうよ」
「了解なんだよー」
「了解しました」
ゲファールは本当に働く気が無い様だった。
いや危険な事を避けているだけか。
そして俺達は気付かない振りをしてそのまま道を進む。
いるとさえ分かっていれば、たとえ伏せていても、その存在を冒険者達は気付く事が出来た。
「……行くぞ!」
隊長の一言で伏せていた盗賊団に護衛の冒険者達が攻撃を仕掛ける。
盗賊団は虚を突かれ動揺していた。
だが十人を更に二つに分け、まとまった行動で冒険者達に対抗していた。
そして盗賊団は手傷を負いながらも徐々に下がり、逃げ出していった。
盗賊団を一人も倒せなかったが、此方の負傷者、死亡者ともに無しだった。
「左右の敵はそれぞれ別方向に逃げたようだが……。
どうする、追撃を掛けるか?」
冒険者達が今後の相談してる。
そして護衛の隊長がそれを決定した。
「護衛を二つに分ける。
十五人で左の盗賊団達を追撃しろ。
残りの者で積荷を守る。
此方には優秀な警戒能力を持つドラゴンがいるからな。
まったく嬉しい誤算だよ」
確かに俺が居れば奇襲を受ける事は無いだろう。
十分守り切れるという事だろうか。
「やめとけ、追撃を掛けた先に伏兵がいたらどうする?
情報より人数も多かったようだし、更に人数が居る可能性があるからな」
隊長の采配に否と唱えたのはゲファールだった。
その判断は正しいように俺には感じられた。
「私達からもお願いします。
積荷を最優先に守っていただきたいですね」
そして依頼主の商人達の言葉で隊長は考えを改めた。
「……依頼主がそう言うのなら従おう」
隊長は不満そうだった。
盗賊団を突き出せば更に報酬が国から貰えたかもしれないからだろうか。
「まったく、戦いは避けるもんだっつーの」
安全に関してだけはゲファールは信用に値するかもしれない。
……働きたくないだけかもしれないが。
◇◇◇
その後、もうすぐ目的地の町という所で二度目の襲撃を俺は察知した。
「また伏兵だ。次は五人。
進行方向の右、道からかなり離れた所に伏せているな。
さっきの襲撃の失敗を知らず、様子見だけかもしれない。
だが一人……魔術師が混じってやがる」
「なんで魔術師がこんな所で盗賊やってんだよ!」
「しらねーよ」
「はぁ、いやになってくるな。
仕方ねぇ、また隊長に相談だ」
ゲファールは本当にめんどくさそうに隊長の元へと行っていた。
「またか。だが今度は距離があるな。
様子見だけなら無視して構わんだろう。
此方から攻撃しようにも盗賊団に簡単に気付かれてしまうからな。
それにその距離なら盗賊団も攻撃は難しいだろう。
……本当に盗賊かどうかもわからんからな」
此方も様子見という事で落ち着いた。
ただ常に警戒をするという事で。
そしてその警戒が功を奏した。
……盗賊団が攻撃を仕掛けて来たのだ。
「ファイアアローだ! 全員、気を付けろ!」
隊長が叫ぶ。
だがその炎の矢はお世辞にも脅威とは言えなかった。
まったくもって威力の無い、もしかしたらただの矢の方がまだ脅威と思えたかもしれない。
「魔術師と言ってもこの程度か。
……反撃するぞ!」
隊長は先ほど却下された護衛を二手に分ける作戦を取った。
十五人が盗賊団に向かって進んでいく。
「残りの者は積荷を守りつつ、町へ急げ。
追撃は敵の足止めにもなる。
これなら依頼主にも文句はあるまい?」
「え、ええ。すぐにでも逃げ出させて貰います」
確かにもう町までの道沿いに伏兵は感じられなかった。
だが盗賊団の方は分からない。
道沿い以外は当然傾斜もある、障害物もある、木が生い茂り森のような場所もある。
幾ら俺でもその全てを感じる事は不可能だった。
いやきっとドラゴンなら感じられるのだろう。
だが元人間の俺ではその全てを理解する事が出来ないのかもしれない。
「俺達もさっさと逃げるぞ。
商人や積荷を守りながらじゃ、何も出来ねーよ」
ゲファールも逃げる事には賛成なようだった。
「了解なんだよー」
「了解です」
「さっさと逃げようぜ!」
それに反対する者もいなかった。
◇◇◇
「なんとか町まで無事にたどり着けました。
報酬は上乗せしてきちんとギルドにお支払致します。
暫くはこの町に滞在する事になりますので、私共の事は気にせず早くお仲間の救援に!」
俺達は無事に町までたどり着いた。
町の中なら安全だ。
自警団や護衛の者達が大勢いるからな。
だが町の防衛で手一杯なようだった。
そして俺達はここで待機という訳には行かない。
「これで商人達と積荷の安全は確保されたな。
だが追撃に向かった冒険者達を迎えに行かねばな。
追加の報酬の為にもな」
隊長が残りの冒険者達を率いて援護に向かう。
「嬢ちゃん達は残りな。
これ以上付き合う必要はねぇよ。
五人だけの方の盗賊団はもう倒されてるだろうが、残りの二十人程がまだ残ってる。
そっちは倒すつもりはねぇが、もしかしたら合流しているかもしれねぇ。
そうなったら戦闘になる確率がたけぇからな」
このゲファールの仕事に対する考えはどうだろうか。
ゲファールとは思えない程、理に適っていた。
そして常にショコラとトートの事を考えているように思える。
適当だが最後の一線、危険な事だけは避けていた。
「ま、俺は着いて行ってやるか。
危なくなったら飛んで逃げるけどな」
「お、さすがドラゴン。
話が分かるじゃねーか!
お前が着いて来てくれると楽が出来るぜ」
少しだけゲファールを助けてやりたいと思った。
それだけだ。
「なら私も着いて行くんだよー」
「僕もご一緒します」
「おいおい、あぶねーぜ?
安全は保障出来ねぇよ」
ショコラとトートも着いて来る気満々だった。
少しの時間とはいえ、一緒に仕事をした仲間を見捨てるようで嫌だったのかもしれない。
「ちっ、しゃーねーな。
俺が逃げろって言ったら絶対逃げろよ?」
「了解だよー」
「了解です」
「俺は言われなくても逃げる」
済まない、ゲファール。
お前の優先順位はショコラとトートの下だ。
俺の助けたい気持ちはそれくらいの物だった。




