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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第三章 現身
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第六十五話 思慮

 今日は三話分更新予定です。

 その三話目です。



「先生、相談したい事が……」

「ファースト君一人とは珍しいね。

 ……何か思い悩んでいるようだが話してみると良い」


 俺にはもう頼れるのはレーレン先生しかいないと思えた。

 ここ最近の俺とシャルの事を相談し、どうすれば良いのか聞く事にしたのだ。


「……大体事情は分かったよ。

 そう深く思い悩む事では無いよ。

 君以外にも沢山の生徒が同じ事を思っているんだ」

「俺以外にも?」

「ああ、私は沢山の生徒達に教えて来たからね。

 君はそれに少しだけ早く行き着いてしまっただけだよ。

 どれだけ仲の良い生徒達でも皆、卒業後は離ればなれになってしまうからね。

 勿論例外もあるが、ずっと一緒にというのは少数だね」


 確かに卒業後は生徒達は皆、違う道を進むことになる。

 それは仕方のない事に思えた。


「だが離ればなれになったとしても、またいつか会う事は出来る。

 そのままずっと会えない訳では無いよ」

「でもシャルはどこか遠くへ行ってしまいそうで」

「シャル君は……そうだろうね。

 力だけでなく意思も強く、そして行動力もある。

 どこにでも行ける事だろう。

 だが君はもっと遠くへも行ける!

 彼女よりもずっと遠くへだ。

 彼女がどこへ行こうとも会いに行けば良いんだよ」


 そう、その通りだった。

 俺の方からシャルを追いかけるのは簡単だった。

 ……シャルが逃げ切れないくらいに。


「……君には追いかける意思、勇気が無いようだね」


 俺の態度から先生にはそれが伝わったようだった。


「君は彼女に嫌われてしまったのでは無いかと心配しているのだろう。

 そんな事は無いと私は思うよ。

 直接聞いてみるのが早いのですが……それが出来るならここには来ませんよね」


 そうなのだ、直接聞けば早い話なのだ。

 だが俺にはそれが出来なかった。


「ドラゴンともあろう者が何を恐れるのか分かりません。

 モンスターなら力ずくでどうとでも出来そうですが……。

 いえ、その力が強すぎるから恐ろしいのでしょうか?

 君は本当に人間のような感じ方をしていますね」


 その言葉は嬉しく、俺を少しだけ勇気づけた。


「私にドラゴンの考え方や感じ方は分かりません。

 ですが人の事なら少しだけですが分かります。

 ……勇気を出して彼女に話なさい。

 今の君の気持ちを話せばきっと分かってくれますよ。

 もし万が一、分かって貰えなかったらまた私の所に来ると良いですよ」

「……はい!」


 きっとシャルなら分かってくれる。

 そんな根拠のない事を信じる。

 いや人の心など分からないのだから、無くて当たり前だったのだ。


 俺はシャルと話す決心をした。




◇◇◇




「何、話って?

 わざわざ二人きりにならなくても念話(テレパシー)でも良いのに」

「テレパシーでは無く、きちんと二人で話したかったんだ」


 俺は覚悟を決めて話をする。


「最近、俺を避けてないか?」

「……そうね」

「理由を教えて欲しい。

 俺に何かいたらない所があったのなら直すようにするから」


 シャルは戸惑いの表情を見せる。

 話したくないのだろうか?

 いやだが話して貰わないと俺にはどうして良いか分からない。


「ファーストに至らない事なんて無いわよ」

「じゃあどうして!?」

「アンタの力はもう必要ない。

 ……そう言う事よ」


 シャルはもう借金を返済出来る分のお金を集めてしまっていた。

 だがその事は考えていた。

 答える言葉も当然考えていた。


「力の問題じゃない。

 ……俺がシャルの傍に居たいんだ!」

「それはアンタが私しか知らないからよ!

 他の誰かの事を知ったらきっと気が変わるわ!」

「そんな事無い!」

「そんな事あるわよ!

 ……だって前にマルメラが気になるって言ってたじゃない!」

「ーっ!?」


 そんなずっと昔に男同士、冗談で話して居た事を持ち出してくるとは。


「そんな事言ったらシャルだって、キルシュに好きだって言われた時満更でも無い感じだったじゃないか!」

「何よそれ! そんな事覚えてないわよ!」


 うん、酔っぱらっていたかもしれない。

 そこからは聞くに堪えない罵倒の言い合いだった。


「……なんでこんな事してるだったかしら」

「シャルが俺と別れたいっていう話だよ」

「分かれるも何も初めから付き合っていないじゃない。

 ただの主人と使い魔よ」

「それを離れられない関係っていうのでは……」

「それは義務だけど、信頼と力という対価を払ってこそよ。

 私はもう十分力を貸して貰ったわ。

 信頼もしている。

 だから次は私の番よ」


 それは今まで俺が一方的に働いているという事だろうか?

 そんな事はない。

 俺は信頼と言う対価を十分貰っている。

 魔法や物理的な力では無く、もっと別の力も貸して貰っていると思っていた。


「卒業までになるべく多くの物をアンタに用意して上げたい。

 それは居場所やお金、進むべき選択肢もよ。

 ……私以外を選んでも良いの。

 勿論、誰も選ばなくても良い。

 故郷に帰るならならその方法も考えてあげる」

「俺はただ一緒に……」

「それだと私が助けて貰うばかりで何も返せない。

 私は十分強くなった。

 でもアンタはそれ以上に力があるの。

 それじゃあ私は一体何の為にいるの?」


 シャルもまた自分の道を探していたのかもしれない。


「それに別れるといっても、同じ部屋で暮らしていて何を言っているのかしら?

 母親の顔が見えなくなって怯えている子供と一緒じゃない!」

「うっ……」


 それは散々周りの者から言われてきた事だった。


「今のアンタはそういう所を鍛えないといけないようね。

 これで本当にドラゴンなのかしら?

 他のドラゴンが見たら、情けなくて死んじゃうんじゃないの?」

「俺は寂しいと死んじゃうんだよ」

「アンタはウサギか!」


 殴られた。酷い。


 何のことはない、ただ俺が寂しがっていただけだ。

 シャルは自分を鍛えていただけ。

 ドラゴンの力など無くても良い程に。

 いやドラゴンを助ける位の力をつける為に。


 そして同じように俺も鍛えて欲しかったのかもしれない。

 俺の場合はその心が問題だったようだ。

 それにシャル以外の事も確かに余り知らない。


 一分の一ではシャルを選ぶに決まっているからだろうか。

 だがそれが百分の一だろうがなんだろうが変わらないとも思う。

 それでもより多くの中から選んで貰った方が良いのかもしれない。


 ちょっと変な言い方になるかもしれないが一分の一で当たってもそこに感じる物は何も無い。

 だがより多くの中から選んで当たったのなら、それはとても感動するのではないだろうか。


 少しだけ距離を置こう。

 いや俺はより多くの者を知るようにしよう。

 その為に少しだけシャルと離れるのだ。

 別れるなんて考えるからいけなかったのかもしれない。


 だがやっぱり俺の中ではもう選ぶ選択肢は決まっていた。




◇◇◇




「ファースト、てめーのせいで補習だったじゃねーか!」

「自業自得だろうに……」


 トイフェルは目出度く補習を受けたようだった。


「ファーストのいう事なんて信じるんじゃなかったわ……」

「……何かあったの?」


 アネモネは項垂れていた。


「信じられる?

 あの後、下級生を口説きに言っていたのよ!

 しかも補習の場にまで連れて来て、製作を手伝わせてるのよ?

 私の前で見せつける為によ!

 もう本当に信じらんない!」


 補習といっても不足分を製作させただけで先生も居なかったようだな。


「それは酷いな……」

「俺は自由だからな。何者にも縛られない」

「自由すぎるでしょうが!

 私が縛ってあげるわよ!」


 アネモネはどこからか取り出したマジックアイテムと思われる縄でトイフェルを縛り上げてしまった。

 それは縄自体が自動で動いていたように見えた。


「おま、こんな物どこで手に入れた!?」

「トイフェルの部屋にあったわよ」

「何かってに人の部屋に入ってんだよ!

 その前にどうやって入った!?」


 これは怖い。

 勝手に部屋に入られるとか。

 トイフェルの言い様では、アネモネは鍵なんかも持ってなさそうだし。


「ふふふ、今日はもう逃がさない」

「ちょ、目が怖いから」

「何か言ったかしら?」


 アネモネがトイフェルを蹴り上げていた。


「いたっ! ごめんって。

 変な事言わないから放してくれよ!」


 そのままトイフェルはアネモネに連れられてどこかへ行ってしまった。

 そう言えばトイフェルが留年した理由に犯罪行為がいくつか上がっていたな。

 その全てに証拠が無かったらしいが。

 今の状況がその犯罪行為に酷似していた。


 確かそのもっとも危ない疑いに殺人があったような……。


「トイフェル……死ぬなよ……」


 何かフラグを立てた気がしないでもない。


 ここでふと思ったことがあった。

 俺はトイフェルのような事はしない。


 だがシャルはどうだろうか?

 ……危ない気がする。

 特に酒を飲んだ時の行動を考えるに……。

 可能性はありそうだった。


 俺はアネモネのような事はしない。

 しない……したくないが……。

 おれはまだまだ考える事が沢山あるようだった。。




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