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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第三章 現身
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第六十一話 商談

「投資しましょう!」


 なんてことはない、普通の言葉だ。

 だが今までやって来た事を一瞬で無にしてしまいそうな、そんな力がその言葉にはあった。


 話を持ってきたのはキューケンに紹介された人物、オイルだ。


「同じフォーゲル商会の者で兄のオイルです。

 なんでも良い儲け話があるという事なので、シャル様にご紹介させて頂きました」


 駄目だ、絶対駄目だ。

 話を聞かなくても分かる。

 絶対騙されてお金を失う。

 そんな怪しさがオイルから感じられた。


「ご紹介に預かったオイルです。

 今回は必ず儲かる商談を持ってまいりました!

 まずは話だけでも聞いてもらえませんでしょうか?」

「本当なの? 話だけでも聞いてみようかしら」


 シャルは少しそわそわしながら、話を聞くだけならと承諾した。

 ……悪い予感しかしない。


「シャル様はなんでも迷宮でかなりの額を稼いでおられるそうで?

 失礼かと思いましたが、シャル様の事は噂程度はしっております。

 ……借金があるそうですが、その返済は卒業後、つまり約二年後だと」

「……ええ、そうよ」

「そこでですね、もし今私共にお金を預けて頂けたら、二年後までに必ず増やして見せます」

「つまり?」

「投資しましょう!」


 という事なのだが、いったい何に投資するというのだろうか。

 まさかこのオイル自身に投資して、あとはすべて任せるとも行かないだろう。


「投資頂いた資金でこの後に必ず値上がりする物を買います。

 今安く買って置いて値上がりしたら売る。

 これだけの事ですが、それには莫大な資金が必要です。

 資金が少なければ儲けはあまりありません」

「何を買うのかしら?」

「これは他言無用でお願いします。

 そうは言っても少し頭が回る者なら分かり切っている事でもありますがね。

 それは……魔石です」


 妥当と言えば妥当な物だった。


「まだ正式には発表されていませんが、ライフィー共和国とは停戦協定が結ばれます。

 その後は魔石の値がどんどん下がるでしょう。

 ですがその更にあとには、必ずアフュンフ国と戦争になります。

 そこで魔石の値は一気に跳ね上がるでしょう!」


 言っている事は正しく聞こえた。


「儲けは幾らになるのかしら!?」


 シャルはもう既に乗り気だった。

 目の色が変わって……いやもう金貨になってるもん。


「最低でも投資頂いた額の三割は増えるでしょう。

 うまくすれば五割ほど増える事になるかもしれません」


 確かに戦争開始のタイミングさえ間違えなければそれくらいは行くかもしれない。

 迷宮で手に入れた武器はそれ以上に値下がりと値上がりをしていたしな。


「……貯金全部を投資しましょうか」

「ちょっ! シャル駄目だから!」


 あまりに早計過ぎる。

 まだほかにも確認しなければならない事がたくさんあった。


「それではこれが契約書になります」


 俺の言葉は無視され話がどんどん進んでいく。


「ここに名前を書けば良いのね?」

「だから駄目だって!

 内容も読まずに記入するとか、豪快を通り越して馬鹿だから!」


 そこでやっとシャルは手を止めた。

 書類の内容くらいは確認しようと思ったようだ。

 お金のせいで気が荒くなっているのか、貴族はみんなこんなものなのか。

 それとも商人をそれ程信用しているのだろうか?

 そう言えばシャルは兄を慕っているようだった。

 同じ兄という事で警戒が緩んだのだろうか。


 そんな事を考えていたらシャルが何かに気づいたようだ。


「この収支を計算して払い戻す? みたいな表記は何かしら。

 支払いがあるという事なの?」

「それは一時的に魔石を買う事になるので支払いがあるという事です、はい」


 もっと直接的に聞けば良いのに。


「特に問題なさそうね!」

「いやあるから……」

「何よ? じゃあファーストが確認してよね」


 やっと俺の出番が回って来た。


「もし戦争が起こらず膠着状態のままだったら、魔石は値上がりしないよな?」

「……戦争は必ず起きるでしょう」

「万が一だが魔石が値下がりし、投資した金額を取り戻せなかったとしよう。

 そしたらこの契約内容だとその負債はシャルが支払うって事になるよな?」

「……そうなりますが、値上がりするのだから問題ありません!」


 実際の所これは良い取引だと思う。

 魔石は多分値上がりする。

 だが万が一が怖かった。

 なぜならシャルには責任は無いが、借金をしているからだ。

 取り戻せなかったでは済まない。


「ならここに投資金額を取り戻せなかったら、それはフォーゲル商会で補完するって書いてくれないか?

 ……必ず値上がりするなら問題ないだろ」


 こんな事は普通は通らない。

 だが通らなくて良いのだ。

 投資なんてしなくてもお金はもう十分だと俺には思えた。


「いや、それは、しかし……」


 オイルは困ってしまったようだった。

 当たり前だが。

 そして意外な所から助け舟が出された。


「ファーストそれは駄目よ。

 私は一応貴族なの。

 民の生活を支えるお金と言う物を保証する義務と責任がある。

 もし負債が出たのなら私が払うのが筋なのよ。

 そうしなければ他の民がきっと困ってしまうでしょう?」


 いやまぁ誰かが損をすれば誰かがその分儲かっているはずだ。

 その儲けが得られないとなれば問題になる。

 だがシャルがそこまでしなければいけないのだろうか?


「でもそれなら商人であるフォーゲル商会にも責任はあるはずだ」

「そうよ。責任は別の形で取って貰うわよ?」


 ん、どういう事だ?

 オイルも、そしてキューケンも分からないといったような顔をしていた。


「当然、死を持って償って貰うわ。

 私のお金を使うんだからそれくらいの覚悟はあるはずよ」


 オイルもキューケンも首を横に振っていた。

 そんな覚悟はある訳無かった。


「ご、ご冗談をその様な話聞いた事もありません」

「不名誉な事だからね。

 普通は言いふらさないでしょう。

 でも罪は償わなければならない。

 責任は果たされ、結果は闇から闇に葬られるのよ……多分」


 誰でも同じ事をしているとシャルは言いたいのだろうか?

 そんな事は無いとシャル自身が分かっているようだがな。

 そしていつの間にか責任が罪になっているよ。

 シャルさんのお金を減らすという事は大罪ですね、分かります。


「そ、そんな無慈悲な事をお優しいシャル様がなされるはずがありませんよね?」


 キューケンが機嫌を取るような事を言っているが……。


「ええ、私は優しすぎるのかも知れないわね。

 ……闇に葬ったのは、まだ片手の指で足りる数よ」


 そう言えば迷宮でそんな事があったかもしれない。


「いやそうだけど今回ので両手に掛かっちゃうね」


 便乗で煽っておこう。


「さ、名前を書くわね!」


 そこで書類をオイルが取り上げてしまった。


「何? そっちが持ってきた話でしょう?」


 もう良いだろう可哀想になってきた。


「シャル、それでも俺はやっぱり反対だよ。

 ……借金の返済分以外を投資するって言うのでどうだろうか?

 それだと金額が少なくはなってしまうけどね」

「んー……分かったわよ。

 フォーゲル商会もそれで良いかしら?」

「は、はい!」


 そして今回シャルは借金の一億を除いた返済分以外(・・・・・)のほとんどを投資した。

 ……オイルとキューケン、フォーゲル商会は死に物狂いで稼いでくれる事だろう。

 冗談では無く、命が掛かっているのだから。


「あ、そうだ。

 ファースト、アレを鑑定して貰いましょう。

 売る気は無いけど価値を知っておいても良いでしょう?」

「了解」


 俺は先日シャルに下賜された盾を取り出した。

 駄目押しと言う奴だろうか。


「おお、見事な盾ですね。

 アインツ王国の紋章に似せて描かれた模様が素晴らしい」


 キューケンが盾を褒めていたがこいつはあんまり物を見る目が無い。


「……それは本物の紋章だ。

 一体どこでこれを?

 誰かからの頂き物でしょうか?」


 オイルはまだまともに鑑定出来るみたいだな。


「陛下よ」

「「えっ!?」」


 うん、そりゃ驚くよね、普通。


「こ、これに値を付ける事など出来ません!

 どうか大切にお使いくださいませ!」


 これだけ脅しておけば十分だろう。

 騙したり裏切ったりはこれでもう考える事すらしないはずだ。




◇◇◇




「はぁ、全部投資したら一体幾らになったのかしら……」


 まだ諦めきれないのかシャルがぼやいていた。


「無くなっちゃう可能性もあるんだよ?」

「リスクの無い投資なんて無いわ」


 一応分かってはいるようだな。

 だがそれ以前の問題もあった。


「これ以上稼いでどうするんだ?」

「卒業した後の事を考えたら、もう少し稼いでおきたかったのよ」

「確かにお金はいくらあっても困らないか」


 先を見据えての事だったか。

 だがその先が選べなくなってしまっては元も子もないのだが。


「もう借金を返してしまっても良いんじゃないのか?」

「一応学園は卒業しておこうと思っているの。

 だから今返してもすぐにどこかへ行ける訳じゃない。

 返したら返したでまた両親が確実に何か言ってくるもの。

 このまま現状を維持しておいた方が楽だわ……」

「確かにそうだな」


 あの両親の執拗さは異常とも思えたからな。

 納得の対応だった。


「んー、また迷宮に行こうかしら?」

「でも武器は値下がりが激しいからなー」


 それにあまり深い階層へ行くと、(トラップ)がある可能性を捨てきれない。


「そうなのよねー。

 やっぱり今は魔石を集めておくのが良いのかしら」

「そうなるね。

 ……ボスでも狩りに行くか?」

「毎回遭遇出来るとも限らないし、効率がねー……」


 討伐自体は俺が力を使えば楽勝だろうしな。

 この日は結局結論は出なかった。


「盾も売れなかったし、何か考えておかないとね」


 売る気は無いって言ってたのに、本当はこっそり売るつもりだったのか。

 まだ諦めていなかったとは思わなかった。

 貴族の責任とやらは、こういった事には無いのだろうか?


 シャルにはそんな事よりも大切な理由があった。

 その理由が分かるのはまだまだ先の事だった。




 三章で一度区切れたらなと思っています。


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