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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第二章 成体
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第六十話 一月2

「ふぁーすとー! やっとそとであそべるのか?」

「ああ、もう外に出れるぜ!」


 冒険者ギルドへの疑いの為、俺達は今日までエレクトの屋敷から出る事が出来なかった。

 だが疑いはほぼ晴れたので今はもう大丈夫だった。


「ブリッツくーん、あーそーぼー!」

「あ、きょうはともだちとあそぶんだった!

 ふぁーすとー、またなー!」

「えっ!」


 何だろう、ちょっと合わない間にブリッツには友達が沢山出来たようだった。

 俺はほとんど相手をして貰っていない。


「ぷぷぷ、振られちゃったわね」


 何がおかしいのかシャルに笑われてしまった。

 はっ!

 ブリッツの相手をしているつもりが、いつの間にか俺が相手して貰っていたのか?


「ファーストにも友達が出来ると良いのにね。

 ドラゴンってどこに住んでいるのかしら?」

「俺が聞きたいよ!」

「アンタが分からないのが問題よね……」


 そんなどうしようもない事を考えていたらエレクトが話に入ってきた。


「ワイバーンなら北のベンア国にいるんだがね。

 私の従魔はそこに住んでいたんだよ」

「……国を三つほど越えないと行けませんね」

「君達ならすぐにでも行けるんじゃないか?

 ああ、でもそれは控えて欲しいな。

 出来ればずっとアインツ王国に居て欲しいくらいだからね」


 エレクトには、いやアインツ王国には良くして貰っていると思う。

 知り合いも多く出来た。

 今更敵対するつもりは俺にもシャルにも無かった。

 シャルに至っては家族も住んでいるからな。


「それで少し話をしても良いかな?

 大まかな尋問は終わったよ。

 分かった事を説明したい」


 その内容はとても薄かった。


「オプファーも夜盗も金で雇われただけだ。

 両方ともローブを深くかぶった男に雇われたらしい。

 顔は見ていないそうだ。

 依頼を完遂したらライフィー共和国に行くという事。

 それだけしか分からなかったよ」


 またか。

 ローブの男でいつも行き止まりだ。

 そしてその先にはライフィーがある。


「ただこれは憶測だが……。

 ローブの男はライフィー共和国の者では無いかもしれない」


 それは前回の誘拐時も考えられた事だった。

 まぁ、ローブの男が同一人物だったとしたらだがな。


「私がこうしてここに居られるのと関係しているのだがね。

 ライフィー共和国とは停戦協定が結ばれる。

 今、アインツ王国と揉め事を起こすのは得策ではない。

 それを望むのは……アフュンフ国だろうね」


 アフュンフはライフィーと組んでアインツに攻め込んで来た国だ。

 ライフィーが停戦協定を結ぶとなると都合が悪いのは明らかだった。


「停戦協定を結ぶという事は戦争は終わるのでしょうか?」

「正式な発表は調印をしてからになるだろうね。

 そしてアフュンフ国とは戦争状態のままだ。

 少し前の状態に戻ると言った感じかな。

 ライフィー共和国にはいくつかの州がある。

 今回その州の一つを滅ぼした。

 その州が単独でアフュンフ国と内通し、アインツ王国を攻めたという筋書きだ。

 実際はライフィー共和国全体が関与しているが、この辺が手打ちだろう。

 ライフィー共和国とアフュンフ国の仲もこれで裂けやすい。

 勿論ライフィー共和国からは多額の賠償を払って貰うよ」


 これで少しでも平和になってくれれば良いのだが。

 そう言えば武器の売値が下がって来たのはこの影響もあったのかもしれない。


「今回の件はオプファーが独断で夜盗と組み、護衛対象者を襲い金品を得ようとした。

 ギルドの信用は多少落ちるだろうが、ギルドマスターまで連行したんだ。

 これくらいの大事で無いと別の憶測を生んでしまうからね。

 その他の人間は特に処罰は無いよ。

 ギルドマスターも継続して任せられた様だしね」


 別の憶測、ギルドが敵国と内通なんて話になったら、それこそ世界中が戦争になる可能性すらあったらしい。

 各国に点在する冒険者ギルドの情報網はそれ程の価値と信用があるという事だ。

 今回なるべく事を隠蔽しようとしたギルドマスターの考えも分からないでも無い。


「そしてもう一つ。ここからが本題なのだが……」


 エレクトはいつになく真面目な表情だった。


「シャル君とその使い魔には軍に参加して貰いたい。

 ライフィー共和国とは停戦協定を結ぶがアフュンフ国とは戦争状態のままだ。

 そしてアフュンフ国は君達の同級生を、友人を直接亡き者にした国だ。

 どうだろう? 力を貸してくれないだろうか」


 これまでエレクトからの、アインツ王国からの直接的な軍への参加は求められていなかった。

 だが遠征時、模擬戦闘の件もある。

 遅かれ早かれこの誘いはあったのだろう。


「……それは国からの命令、魔術師に課せられた義務でしょうか?」


 シャルの対応は慎重だった。


「いや違う。

 君はまだ学生の身だからね。

 ただその力は強大だ。

 君さえ良ければすぐにでも力を貸して欲しいと、此方がお願いしているだけだよ」

「力を評価して頂き、その力を使う機会も与えて下さるのは光栄です。

 ですが……私にその気はありません。

 ……申し訳ありません」


 シャルは誘いを断った。

 今はまだ断る事が出来る。

 今は……だが。


「謝る事ではないよ。

 これも仕事でね、君のような子供を戦争に参加させるのは嫌だったんだよ。

 断わってくれて、本当に嬉しい。

 ああ、あともう一つ話す事があるんだった」


 まだあるのか!


「……これを陛下から君に渡すように言われてね。

 遠征時に陛下が何か贈ると言ったそうだね?

 それがこれだよ」


 それは盾だった。

 一本の角が生えた馬のような生き物が描かれていた。

 ユニコーンとかいう生物だったか?

 この世界にならどこかで実際に存在しそうだな。


「これは……アインツ王国の紋章入りの盾、でしょうか?」


 シャルが聞き返していた。

 この国の紋章だったのか、知らなかった。

 そう言えばどこかで見たような気がしないでも無い。


「そうだよ。

 これは多分、陛下からの願いも籠められているのだろうね。

 我が国を守る盾となって欲しいと。

 まぁそう言う事だから勧誘の後に渡す事にしていたんだ。

 先に渡したら断りにくいだろう?」


 笑いながらエレクトはそう言った。

 本当に戦争に参加して欲しくなかったのだな。


「それでその……五つあるのですが……」


 そう、同じ物が五つそこにはあった。

 本物の盾を選べとかだろうか?

 全部同じにしか見えない。


「全部、君に贈られた物だよ。

 いやー……多分、小隊員か分隊員の分もあるんじゃないかな?

 はっはっは! 本当に陛下は軍に入って欲しいみたいだね」


 笑いごとじゃないと思う。

 それを分かっていてなるべく断るように仕向けたのだから。

 ここでふとレーレン先生を思い出した。

 先生は学園よりも生徒を大事にする。

 エレクトは国よりも民を大事にするのかもしれないな。


「一応、この盾はマジックアイテムなんだよ。

 強度が普通の物よりも高く、そして軽い。

 それなりに高価な物なんだ。

 ……間違っても売ったりしないで欲しいな。

 不敬罪か国家反逆の罪で捕えないといけなくなるからね?」


 ちょっとシャルの顔が引きつっていた。

 五つもあるから一つくらい売ろうと思っていたな?


「これは使ってこその物だからね。

 傷を付けるのは全然かまわない。

 むしろどんどん使って欲しい!

 あ、それだと戦争に参加する事になるな……。

 訓練なんかでも使ってくれて構わないよ」

「……紋章入りの道具を周囲に見せろという事でしょうか?」

「察しが良くて助かるよ。

 ギルドの件があるからね。

 君は国の重要人物だと知らしめる必要性が出て来た。

 手を出したらただじゃおかないぞってね」


 魔法的にも物理的にも、それ以外(・・・・)からもシャルを守る盾という事か。


「それじゃあ実際に使ってみようか。

 まったく傷がついていないと使いにくいだろう?

 紋章を傷つけるなど普通は恐れ多い事だからね」


 確かにそうだろうが……エレクトは気にしないのだろうか?

 見た目より実際の効果が重要という事か。


 ライフィーの事だってそうだ。

 本当に今回の事の責任を取らせるなら国自体を滅ぼすしかない。

 だがそんな事をして何の意味がある?

 アインツが、国が弱いと思われては行けない。

 その為の結果は州を一つ滅ぼした事で十分だろう。

 あとは賠償金を手に入れれば国も潤う。


 もし国自体を滅ぼしたらどうなるだろうか?

 周辺の他の国が危機感を覚えるに違いない。

 次は自分の国が滅ぼされるのではないかと。

 次は二国だけでなくもっと多くの国に攻められる可能性が出て来てしまうだろう。

 実際の所どっちが悪いかなんて誰にも、特に他人には分からないのだから。

 

 ずっと守り続ける事だって出来たのかもしれない。

 その方が周りからは良く見えただろう。

 だが実際は国を脅かされ続けるだけだ。

 何の効果も得られないだろう。


 この選択が本当に難しい。

 今回、国が選んだ道は正解だと信じたい。

 もし間違ってしまったら、今の俺のようになるだろう。


 他国(ブリッツ)侵略される(振られる)って事だ。




◇◇◇




 俺とシャルは早めに学園へ戻ることにした。


「こんなに早く戻らなくて良いだろうに」


 エレクトには引き留められたが。


「いえ、迷宮にも行きたいのでこれで失礼します」


 なるべく早く行っておかないとこれからどんどん武器の値が下がるからな。


「そうか寂しくなるが仕方ないね。

 そう言えば迷宮は今何階まで降りているんだい?」

「三十三階です」

「それは驚いたね!

 学園で三十階以降に行く者はほとんどいないからね。

 だが一つ忠告しておくよ。

 (トラップ)に気を付けなさい。

 ……私は仲間を一人失ってしまった」

「迷宮にトラップですか?」

「ああ、この目で確認した訳では無いが他に理由が思いつかなかった。

 私の仲間は迷宮で忽然と姿を消したんだよ。

 つい今しがたまで会話をしていたのに振り返ったら消えていた」


 これは……どこかで似たような話を聞いたな。


「周囲にモンスターは居なかった。

 トラップとしか考えられなかったよ。

 だがその痕跡も見つけれなかったのだから確証は得られないがね」

「……もしや消えた方は荷物持ち(ポーター)でしたか?」

「ああ、そうだったよ。

 あまり戦闘は得意では無い奴だったな。

 見た目は年上の頼れるおっさんだったのにね。

 だが器用な奴だった。

 地図を作成したり料理を作ったりするのが上手くてね、迷宮の探索には必要な人材だったよ」

「学園にはまことしやかな噂があります。

 ポーターは消える。

 だから誰もポーターをやりたがりません」

「そのような形で今も伝わっているとはね。

 だがそれは間違っている。

 ポーターだから消えたのではない。

 誰しもが消える可能性がある。

 関係あるかどうかわからないが、仲間が消えたのは三十七階だったよ。

 もし行く事があれば注意して欲しい」

「一つだけ質問があります。

 それはどのようなトラップだと思われますか?」

「憶測の域を出ないが、転移のトラップだと思う。

 私の仲間とトラップの痕跡ごと転移してしまったのではないかとね」


 そう言えばエレクトの書斎に転移魔術についての本が沢山あったな。

 ……今でも仲間の事を思っているのだろうか。

 それ以上は何も聞けなかった。


「ご忠告感謝します。

 今以上に注意して探索しようと思います」


 シャルは探索を止める気は無いようだった。


「君達なら転移した先がどんな場所でも生きて帰ってこれるさ!」


 トラップに掛かるのは決定事項かよ!

 まぁ半分冗談だろうと思うけどね。




◇◇◇




 そして俺達は学園に戻った。

 休業期間はあと七日間が残っていた。

 いつもより少し多く探索出来そうだな。


 タッセは居なかったがテラー、イーリス、ネルケ、ダフネはもう学園に戻っていた。

 声を掛けると喜んでついてくると言っていた。

 人数は減ってしまうがそれ程問題は無いだろう。


 今回の目標階数は三十一階と三十二階。

 迷宮は復活祭の年では内部が一新される。

 迷宮にはまた新たな財宝が眠っているはずだった。


 道中はもう慣れた物で雑談交じりに足早に進んでいく。

 先頭は地味な面々でシャルは後方を歩いていた。


「あ、そう言えば面白い話を聞いたの。

 迷宮の事なんだけど私達にも少し関係があったのよ」

「へぇー、どんな話です?」

「ポーターが消えた時、一緒にいた人と話せたのよ。

 ポーターだから消えるんじゃなくて誰でも消える可能性はあるんだって」

「……それのどこが面白いのでしょうか?」

「それでね消えた理由はトラップだったのかもしれないって!

 迷宮にトラップは無いのに面白い話よねー?」

「いやそれ消えた人いるんですから、迷宮にトラップがある証明になってませんか?」

「うん、だから先頭が貴方達なの」

「「「なっ!!!」」」


 悪魔か。


「どう面白かった?」

「やだなー、冗談ですかー?

 もー、本気でびびっちゃいましたよー」

「ふふふ、でも何が起こるか分からないからね。

 警戒するのは忘れちゃ駄目よ?」


 嘘は言ってないが……。

 本当の事を言っても何を注意すれば良いのか分からない。

 ポーターは消えると言う事も知っているのだ。

 自分達が消えると言う可能性は考えているはずだった。

 今は警戒を促す事が一番安全を高める事だろう。


 今回は探索期間が長い事もあり、より多くの財宝を得る事が出来た。

 だが地図が無かった事と人数の影響か、何時もよりは多いと言った程度だ。

 一新された迷宮ではやはり新たな財宝が置かれていた。

 しかし値下がりが激しく、今までよりは利益が少なかった。

 ……それでも十分だった。


 一億ギル。


 シャルは遂に目標金額を達成した。




◇◇◇




 打ち上げでもするのかと思ったがそれはしなかった。

 代わりに少しだけ豪華な食事をしただけだ。

 そして今は本当に少しだけのお酒を飲もうとしていた。


「たまにはファーストも飲まない?」

「いや俺は遠慮しとくよ。

 ……シャルを止めないといけないからな」

「意地悪ね。

 でも……本当はどうして飲まないの?

 飲めない訳では無いのでしょう」


 ああ、本当は何だって飲めるし、食べられる。

 肉だって食べられないはずはないんだ。


「酒は心を惑わす。

 ……自分を見失いたくないんだよ」


 それはまた暴れてしまう事を恐れていたからだろうか。

 誰かを傷つけるのは本当に怖い。

 それが親しい人なら特にだ。


「ファーストはもう大丈夫よ。

 感情のままに行動する事は無いでしょう?」

「いや、シャルに止められなかったらそうでは無かったかもしれない」

「それだって私の、周りの言葉だけで簡単に止まった。

 私だってやり過ぎる事はあるわ。

 それを止めてくれるのはファーストでしょう?

 今だってお酒を飲まないのは、その為なのだから……」


 そう……なのだろうか?


「でも我慢しすぎていない?

 私は実家に帰った時、本当に辛かった。

 でもファーストが気を使ってくれたから楽になれたわ」


 そんな対した事をしたつもりは無い。


「ファーストには帰る場所が無い。

 いえ、学園の今この場所がそうなのでしょう?

 帰るべき場所で気を使っていたら休めないわ。

 ……いつか壊れてしまう」


 それは俺の事なのか、シャル自身の経験した事なのか。


「最強の力を持った竜だと言うのにその精神は驚くほど人間に近い。

 違うわね……ファーストはもう人間なのでしょうね」


 この言葉は何より俺の心に響いた。


「……難しい話はここまでよ。

 つまり私の酒は飲めないのかって言ってるのよ!」


 そう言ってシャルは無理矢理に酒を飲ませて来た。


「ごほっ、かはっ。

 無理矢理は止めて!

 飲むから、ちゃんと飲むから!」


 シャルはもう酔っぱらっていたのかそうではないのか分からなかった。

 それは何方でも良かったのかもしれない。

 俺は勧められた酒を飲むだけなのだから。




◇◇◇





 そしていつも通りの日常が訪れる。


 乱れきった部屋とは対照的に、心の整理はきちんとついていた。

 俺もシャルも、もう大丈夫、大丈夫だ。

 お互いに依存しなくても良い。


 もう一人でも大丈夫。

 なんとかやっていける。


「……記憶が無いわ」

「……俺も無い」


 二人でも大丈夫?

 なんとかやっていける……。


 多分!


 恐らく!!


 きっとね!!!




   +86,498,654  前回残高

..     -10,627  十四日分の食糧(二人分、護衛に振る舞った不足分)

   +18,354,000  財宝の売上(武器が百三十八本)

...   -2,800,000  探索の報酬(七十万ギルが四人分)

――――――――――――――――――――

.  +102,042,027  一億二百四万二千二十七ギル


 第二章はあと一話、閑話を挟んで終わりになります。


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