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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第二章 成体
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第五十八話 十二月3


 シャルの実家に着いてからはずっとその屋敷の中で過ごした。

 復活祭でにぎわう町の方へと行ってみたかったが警護の関係上控えて欲しいようだった。

 いくら田舎とは言え、人が多すぎて守り切れないとの事だった。


 来る時に見た町並みはそれ程良い物とは言えなかった。

 崩れかけた家も何軒かあったしな。

 だがそこに暮らす人々に暗い雰囲気は感じなかった。

 どんな環境でも必死に生きていく。

 そこには活気が感じられた。

 きっと領主フェアラート・フルスがまともな領地経営をしている証拠なのだろう。


 そのシャルの父は悪い人では無かった。

 むしろ良い人だろう。

 だがその考えは決して変わる事無く、ずっとシャルを説得し続けていた。

 家から出る事も出来ずこんな事をずっと続けられたら、俺なら気が狂ってしまうか説得に応じるだろう。

 シャルの母もまた父と同じ考えだ。

 幼いクラハには何も出来ない。

 兄達がいるらしいが今この場には居ない。


「シャル、もう学園に帰ろうか?

 なんなら俺が空を飛んで、すぐにでも帰る事だって出来るよ?」

「そうね……。

 復活祭が終われば落ち着くだろうし、帰る事が出来ると思うわ……」


 シャルは目に見えて疲れていた。

 もううんざりなのだろう。

 それに何時もなら目立つから飛んじゃ駄目とか注意が入るはずなのだ。

 その余裕すらないのだろうか。


 そしてシャルとシャルの両親は最後まで意見は一致せず、平行線のままだった。

 だが少しだけ、ほんの少しだけだがその距離は縮まったと思う。




◇◇◇




「また来年も帰って来い」

「……それは分かりません」


 シャルは父の言葉には上手く答えられなかった。


「そんな事言わずに、護衛の人も此方で用意するからまた帰っていらっしゃい」

「私もまたお姉さまに会いたいです……」

「……なるべく善処します」


 家族の言葉にもまた色よい返事はしなかった。


「ファーストさんもまた来てくださいね!」


 クラハが俺を抱き上げる。

 顔を舐めるとクラハはキャッキャッと喜んでいた。


「さぁ行きましょう」


 シャルが護衛に促した。


「無理はするな! いつでも帰って来い!」


 最後にシャル父が叫んでいたが……シャルにそのつもりは無いだろう。

 今回の帰郷はシャルに会いたいが故か、説得の為か。

 多分両方だったのだろうが目的は半分しか果たせなかったかもしれない。

 ……シャルも家族もだ。




◇◇◇




「これ程急いで学園に戻らなくても良いのでは無いかな?

 もう少しご実家でゆっくりしても良かったろうに」


 オプファーがシャルに聞いて来た。


「これくらいで丁度良いのです。

 あまり長居すると戻れなくなりますから」


 それはどちらにどういった方向になのだろうか。


「そういうものかもしれんな」


 オプファーにはその意味は分からないだろう。


「俺はもっとゆっくりしたかったぜ。

 折角口説いた女と良い感じだったのによー」

「お前は護衛の最中に何をしていたんだ」

「仕事はきっちりやってるよ。

 こんな護衛なんて余裕なんでね」

「……油断だけはするなよ」


 ゲファールとかいう奴は本当にぶれないな。

 真面目に護衛しているのか不安になるわ。

 そしてその不安は的中した。


 出発して一日目の夜。

 野営の際の事だ。

 復活祭の影響で浮かれていたのか、護衛の者達は酒を飲んでいた。


「あんなに飲んで護衛は大丈夫なのかしら」

「いやすまない。あまり飲むなとは言っておいたのだが……」


 まず酒を持ってくるなよと言いたいがそれはもう遅いか。

 またそれを羨ましそうにシャルが見ていた。

 頼むからこんな場所では飲まないでくれ!


「俺が見張りをするから安心してくれ」


 オプファー以外は酔いつぶれて寝てしまったようだ。

 ムカつくあいつは実は真面目なのか飲んでいるようには見えなかった。

 だが一緒に横になっているので真面目のはずは無かったか。


『ファースト、いつも以上に警戒してね』

『了解』


 まぁ道中はずっと俺が警戒しているから何の問題もないのだがな。

 だがそこで少し考えられない事が起こった。


『シャル! 起きてくれ』

『ん、んんー、ふぁぁ。……何?』


 寝付いた所を起こされてちょっとシャルは不機嫌だった。

 だがそんな事も言って居られない。


『何かおかしい。此方の周囲を囲むように動いている者達がいる』

『夜盗かしら? 

 でもこんな場所に居るような奴は対した事ないでしょう。

 何人いるの?』


 この辺はあまり豊かでは無い。

 商人達の隊商でもない限り、襲ったとしてもそれ程儲からないのだ。

 徒党を組んだとしても、護衛が五人もいる所を襲うだけの数は集まらないと思えた。

 集まったとしてもまずは商人達を襲うだろう。

 こんな儲かりそうもない者達を襲って、周囲に警戒されるのは馬鹿馬鹿しいと思うだが。


『二十人だ!

 魔術師も四人混じっている。

 夜盗にしてはこんな場所にいる事自体がおかしい。

 魔術師がいる事も変だ。

 ……しかも隙間が見当たらない。

 逃げるにしてもどこかで戦闘になり必ず囲まれる!』


 だがその人数が集まっていた。

 そして何か訓練を受けたかのような統率された動きだった。


『狙いは……私か、ファーストか。

 とりあえず護衛を起こすわよ。

 囲まれる前に一点突破で逃げれるかもしれないわ!』


 確かに突破できるかもしれない。

 だがそれは難しい事態になってしまった。


「オプファー! 夜盗に囲まれているわ!

 護衛を起こしてすぐに逃げるわよ!」

「なっ! それは本当なのか?

 ……言われた今でも私には何も感じられないが」

「良いから護衛を起こして!」

「分かった!」

 

 だが護衛が起きなかったのだ。

 完全に酔いつぶれたのか?

 それにしてもこれだけ揺さぶって起きないの普通では無かった。


「駄目だ! 酔いつぶれてしまっている。

 ……本当に夜盗が居たとして、これではシャルさんを守り切れない」

「……投降は無しよ。全員口封じに殺されるに決まっているわ」


 シャル以外は……だろうがな。

 いやシャル自身も殺される可能性はあるか。

 ……俺もだが。


「それでも私は投降を提案する」

「殺されるだけよ?」

「いや殺されない方法もある。

 夜盗が見えた時点でその使い魔だけを逃がすんだ。

 使い魔だけなら空も飛べるし体も小さい。

 きっと逃げ切れるはずだ。

 この場に夜盗が居るという事が周囲に伝われば口封じに私達を殺す理由がなくなる。

 金品を奪って逃げるだろう。

 拘束されてしばらくは動け無くなるかもしれないが、それで何とかなるはずだ」


 一理あった。

 それは金品が狙いの時だ。

 だが狙いがシャルならそれは意味をなさない。


「……私がどうして護衛されているか知っているの?

 ただの道中の安全の為だけならこんな人数を雇わないわよ」

「知ってはいる。だが私も命は惜しいのだ。

 この状況では戦っても守りきれない、死ぬだけなんだ。

 なら僅かな可能性でも助かる道を選びたい。

 ……本当にすまないとは思っている」


 話はここまでだった。


『シャル! もう駄目だ。

 完全に囲まれた。

 ……来るぞ!』


 夜盗はいきなり襲ってくる事は無く、周囲を囲みながらゆっくりと姿を現した。

 その手に武器を構えながら。

 そしてオプファーが話す。


「……こんな所で会うなんて珍しいな。

 人数も多いようだし、商人か何かなのか?」

「分かっているだろう?

 武器を捨てて投降すれば殺しはしない。

 有り金を全部おいて行って貰おうか」


 此方を襲う意思は確認できた。

 だがその言葉が本当かどうかは分からない。


「……分かった、投降する」 


 オプファーは武器を捨て両手を上げた。


 すまんが俺は逃げさせてもらう事にした。

 それが護衛の者達の為でもある。

 助かる可能性があるという事だ。


『シャル、行くよ?』

『ええ、頼むわ!』


 そして俺はその場から上空へと飛び立った。

 シャルを持ち上げながら。


「なっ!? 人を抱えてだと!」


 夜盗が驚きの声を上げる。

 だが包囲を抜けただけですぐに着地した。

 そしてシャルは後ろを振り返る事もせず、一目散にその場を逃げ出した。

 いくら包囲されたとはいえ空までは包囲出来ない。

 後は暗闇に紛れて逃げるだけだった。


 夜盗は意表を突かれたのだろう。

 追ってはすぐには掛からず、俺達を完全に見失ったはずだ。


 そして意表を突かれたのは夜盗だけでは無かったようだ。

 ……オプファーが舌打ちをし、夜盗達に指示を出し始めた。


「チッ、使い魔の力を甘く見過ぎた。

 ……おい、数人を残して追っ手を掛けろ。

 あれは空を飛ぶというよりも飛び上がっただけだ。

 そんなに距離は離れていない。

 必ず見つけ出して……殺せ」

「ああ、分かったよ」


 夜盗は十五人を追っ手に回してきた。


「……薬で眠らせたこいつらはどうする?」

「残りの者で武器と金品を奪って拘束しろ。

 俺を縛るのも忘れるなよ?

 このまま夜盗に放置された事にする。

 獲物を殺し、対した物は持っていなかったようだが金品も奪っておけよ。

 その後は分散して国を出ろ。

 ……ライフィーでまた会おう」

「分かった。手間がかかった分は報酬を上乗せしろよ」 

「ちっ、それはまた後で交渉してやるよ」

「護衛の拘束が終わったらお前達も獲物を追え!」


 はぁ、グルだったのね。

 他の護衛は酒に一服盛って眠らせたのか。

 やけにあっさり投降を選んだし、おかしいとは思って居たんだ。


『で、どうする?』


 俺は敵の目から逃れた後、成体に変態し、シャルを乗せ空へと飛び上がっていた。

 そして今は元の場所の上空に待機し、その話を全て聞いていた。


『夜盗が離れたら、オプファーを倒せるわね。

 でも他の護衛を連れて逃げ切れるとは限らないわ。

 可哀想だけどこのまま放置しましょう。

 お酒なんて飲んだ罰よ!

 そしてそれだけでは済まさないから。

 特にオプファーには……ね』


 そんなに酒が飲みたかったのか!

 いや……違うと信じよう。


『さぁ急いで戻りましょう』

『学園へ? それとも実家へ?』

『エレクト様の所よ。

 伺うと約束もしていたし、ライフィーって言葉が気になるからね』


 ライフィー共和国。

 今現在、アインツ王国と戦争をしている国だ。

 そして過去誘拐され、そこへ連れて行かれそうになった事もあった。


『んじゃ、久しぶりに本気で飛んでみるか!』

『えっ、駄目! 駄目だってばー!』


 聞こえない振りをして結構本気で飛んだ。

 今回は時間(・・)との勝負になりそうだからな。


『んっ、んんんっー!』


 シャルがギリギリ耐えれる速さ。


 あ、もしかして時空魔法で風圧を軽減するような空間を作れるんじゃ……。

 いやまて、ここでそれをしてしまったら今までなぜ使わなかったと……。

 今の俺ならどんな空間だって作り出せる気がするが……。

 ……やめよう、むやみやたらに力を使うのは駄目だと言われているからな!

 そう勝手な解釈をして納得した。


 自分の身が一番大事なのは仕方ないよな!




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