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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第二章 成体
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第五十七話 十二月2


「私はBランクの冒険者だ。

 あとゲファールもBランクだな。

 残りの者はCランクになる」


 オプファーが冒険者のランクを説明していた。


「学園出身の者はこの中にはいないな。

 学園を卒業して冒険者になる者は少ないからな。

 学園出身者は卒業時の成績で冒険者ランクが大体決まるらしい。

 一応ギルドでも試験はあるのだが、学園のクラスがそのままランクになる事が多い。

 シャルさんはどのクラスなんだ?」

「私は一応Aクラスになるのかしら?

 三年は今……一クラスしかないから」

「済まない、悪い事を思い出させた」


 シャルが少し暗い顔をしていた。

 そしてオプファーはそれに気付いたようだった。

 今起きている戦争の始まりの事を。


「へぇ、あの開戦時の生き残りか?

 一割も生き残らなかったって聞いてるが運が良かったな」


 ムカつく良いようなのはゲファールだ。


「お前みたいなガキが良く生き残れたな。

 ああ、そんななりでも女だからな。

 ……体を使って見逃して貰った、とかか?」


 殺すか。


「ゲファール、止めろ!

 それ以上は同じ冒険者と言えど許さんからな」


 オプファーがそれを諌めた。


「はいはい、冗談だってーの」

「済まない、非礼は私が詫びよう」

「いえ、お気になさらずに」


 シャルは何事も無かったかのようにそれを流した。

 俺にはそんな真似は出来ない。


『止めなさい、殺す価値も無いわ。

 相手をするだけ時間の無駄よ』


 俺の考えはバレバレだった。

 相手をするなと言われたのでは仕方ない。


 そして実家までの道中、二度ほど野営をする事があった。

 そのたびにシャルの手料理が皆に振る舞われた。

 ……ゲファール以外にな。

 外で作る物よりは、やはりきちんとした道具で作られた物の方が美味しい。

 その出来立ての物をマジックボックスにいつも入れてあった。


 人数分を毎回とは渡せなかったので、材料だけを提供してもらい、その場で作る事もあった。

 調理器具一式もマジックボックスで持ち歩いているので、それ程難しい事では無かった。

 保存の効く食材ばかりなので、それ程凝った物は作れないようだったが。


「そりゃねぇよ……」

 

 ゲファールの悲しげな声を聞けて、俺は少しだけ溜飲が下がった。

 大人しくしてたら帰りの時にはご馳走して貰えるかもな!




◇◇◇




「それでは私達は屋敷の周りを警備する。

 外出する際は声を掛けて欲くれ」


 シャルの実家に付いた。

 学園から東に五日。

 まさに田舎と言って良い場所だった。

 屋敷……ぎりぎり屋敷って感じか?

 それほど大きな建物では無く敷地も狭い。

 比べる対象がエレクトの屋敷なのは対象が悪すぎたか。


「はぁ、気乗りしない。

 ……もしファーストに何かしてきたらすぐ私に言うのよ?」

「何かされるのかよ……」


 俺まで気乗りしなくなってきた。

 シャルの育った場所だから少し興味があったんだがな。


「両親の事を考えるからいけないのね。

 兄達が居れば良いんだけど……。

 ああ、でも妹のクラハに会えるのは楽しみね。

 大きくなっているかしら?」


 遂に現実逃避を始めてしまった。

 嫌な事は考えない。


「お帰りなさい、シャル。

 大きくなったわね。

 ……さぁ早くお父さんの所へ行ってあげて。

 今か今かと待っているのよ」


 出迎えたのはシャルの母だろう。

 そしてすぐに父の元へと行けと言う。

 シャルは少しも現実から逃げる事は出来なかった。


「はい、ただいま戻りました。

 父の所へ向かいます」


 シャルの声には覇気が無かった。

 ただ淡々と受け答えをしている。

 見ただけでは分からない何かがあるのだろう。


「やっと戻ったか。

 しばらく見ない間に美人になったな。

 母さんそっくりだ。

 それが噂の使い魔か。

 ……まぁ今は良い。

 長旅で疲れているだろうし、ゆっくり休みなさい。

 夜にでもまた話そう」

「はい、分かりました」


 シャルの浮かない顔を見てか、シャルの父はあまり長く会話をしなかった。

 そしてここでもシャルには何の感情も感じられなかった。

 良い父と母に見えるのだが……。


「お姉さま! お帰りなさい!」


 とても愛くるしい、ブリッツと同じ年くらいの女の子がそこにはいた。


「ただいま、クラハ!」


 シャルはクラハを抱きかかえた。

 先ほどまでとは打って変わって嬉しそうだった。


「相変わらず羽のように軽いわね。

 ちゃんと食べてるの?

 お菓子ばかり食べちゃ駄目なんだからね」

「ちゃんと食べてます!

 お姉さまとは違いますから!」

「もう! 言うようになったわね!」


 本当に仲の良い姉妹だった。


「それで兄達は帰って来ていないの?」

「はい、お兄様達はまだ戦争に行ったきり戻っていません。

 ……でも無事な事だけは確かですから心配いりません!」

「そうよね、無事ならまたいつでも会えるわよね」


 兄達は居ないのか。

 戦争か……。

 こういう時にその言葉が重く感じられるな。


「あの、それが……使い魔なのでしょうか?

 ドラゴンを使い魔にされたのは本当だったのですね」


 お、何か注目されてる。


「その、触っても大丈夫でしょうか?

 噛んだりしません?」


 おいおい、俺をその辺のモンスターと一緒にするなよ!

 噛んだりなんか絶対しない。


「噛んだりしないわよ。

 ファーストは人間の言う事を理解するし、話す事も出来るのよ」

「ご紹介に頂きました、ファーストと申します」


 俺はクラハに近づきお辞儀をする。

 その俺に触ってみようとクラハは恐る恐る手を伸ばしてきた。

 そして俺はその手を……ペロっと舐めた。


「ひゃっぁ!?」


 噛まないとは言ったが舐めないとは言っていない!

 そして殴られた。酷い。


「初対面で何馬鹿な事してるのよ!

 しかも私の大事な妹に!

 ごめんね、クラハ。

 馬鹿だけど気の良い奴だから仲良くしてやってね?」


 だがクラハは完全に俺を恐れていた。

 シャルの陰に隠れて頭だけを覗かせている。


「ドラゴンの求愛? の表現みたいなものだよ!」

「人の妹をいきなり口説いてんじゃないわよ!」


 殴られた。酷い。


「面白い生き物なのですね!」


 クラハも一緒にポカポカ殴ってきた。可愛い。

 俺の扱いが何かきまったっぽい。

 とりあえず殴っとけみたいな?


 そして長旅と言ってもシャルはそれ程疲れていなかった。

 荷物も何も無いのでそのままクラハと一緒に時間を過ごした。

 ……夜までは。




◇◇◇




 夜になるとまたシャルから感情が感じられなくなった。

 両親と向かい合っているからだ。


「それで学園の生活はどうだ?

 派手にやっているらしいじゃないか。

 ここまでその噂が聞こえてくる事があるぞ」


 シャル父が嬉しそうに話していた。

 それは本当に娘の活躍を喜ぶような感じだった。


「だが危険な事は控えて欲しいものだ。

 遠征時の事は運が悪かったとはいえ、迷宮に籠っているそうじゃないか?

 あんな危険な場所には行って欲しくないぞ」


 そんな事まで知っているのか。


「お金を稼ぐ為です」

「まだそんな事を言っているのか!

 たとえ金が集まったとしてもその先に幸福な未来など無いよ。

 あまり父を心配させないでくれ」

「自分で決めた事です。心配いりません」

「それでも心配するのが家族なのですよ。

 ああ、魔術なんて使えるからこうなってしまったのかしら」


 シャル母が嘆いていた。


「魔術が使えたからこそ、良い嫁ぎ先もあると言うものだ。

 一概にそうとは言えんよ。

 だが危険な目には会わせたくない。

 シャルさえ良ければ今すぐ学園を止めて、ブラゼン公爵のケーゼ様の所へ行っても良いんだぞ」

「いえ、お金を貯め私は別の道へ行きます。

 何度言われてもそれは変わりません」

「それでもだ。私は家族の幸せだけを願っているのだよ」

「私も同じ気持ちよ。お願いだからお父さんの言う事を聞いて欲しいわ。

 必ず幸せになれる。これ以上はきっと望むべくもないわ」


 シャル父とシャル母が畳みかけるようにシャルを説得する。

 そしてシャルはそれを断っていた。

 クラハはどうして良いか分からずオロオロしている。

 それはずっと続き、終わる気配は無かった。

 いくらなんでも執拗すぎるだろう。


「お義父さん!」


 俺は何とかそれを止めようとした。


「私は魔物(モンスター)の父になった覚えはない。

 ああ、名を名乗っていなかったな?

 シャルから聞いていないのか。

 私はフェアラート・フルス、シャルの父だよ。

 宜しく、使い魔君。

 シャルがいつもお世話になっているね」

「ファーストと申します。シャルさんに名付けて貰いました。

 世話になっているのは俺の方です。

 ……それでいくらなんでも執拗すぎませんか?

 シャルさんが困っているでは無いですか」

「誤った道を進もうとする娘を正しているだけだよ。

 君の心配する事では無い。

 いや、一緒に説得してくれないか?

 ケーゼ様の事は知っているだろう。

 信頼に足る人物だと私は思っているよ。

 その父上もまたしかり」


 あいにく俺はケーゼが嫌いなんだよ。

 それに……。


「誤った道とは限りません。別の道がまた正しい事もある。

 その可能性をシャルさんと一緒に信じてあげる事は出来ませんか?」

「その別の道とは何だ?

 迷宮に籠り危険な事をして金を稼ぐ事か?

 魔術の才を活かし戦争に参加する事か?

 当ても無く世に出て、どうやって幸せになれると言うのだ!」


 シャル父の言う事は正しいのだろう。

 魔術師は国からの命令で戦争に向かう事がある。

 それは義務だ。

 その時、公爵という後ろ盾があれば危険は最小に抑えられるだろう。

 そう言う事も考えているに違いなかった。

 だが俺にはここで言っておくべき事があるんじゃないだろうか。


「お義父さん……娘さんを、シャルさんを俺に下さい!」


 場が静まり返った。

 ……唐突過ぎただろうか?

 だがこれは言っておかなければならない事だ。


「……その台詞をモンスターから聞く事になるとは思わなかったよ。

 シャル、お前は一体使い魔にどのような躾けをしているのだ……」

「私もこれだけはお父様と同意見かもしれません……」


 シャルとシャル父の意見の一致を見た。

 意図した事とかなり違う。


「ファーストさんは私の事が好きなのでは?

 先ほど求愛を受けましたが……」


 クラハが畳みかける。


「私達の娘を二人とも貰おうだなんて、なんて強欲な使い魔さんでしょう。

 ……次は私も求愛を受けるのかしら?」

「母さんにまで魔の手を伸ばしたのか!?

 許さんぞ、この使い魔め!」


 そして場は和やかにはなったと思う。

 シャル父が本気で俺を殴ってきていたがな。

 だが堅い皮膚に防がれ逆に痛かったと思う。

 それをおくびにも出さなかったのは褒めて良いと思う。


「はっはっはっ、この辺にしておこうか。

 使い魔に気を使わせてしまうとは済まなかったな。

 久しぶりに会ったのだ、もっと楽しい話をしようではないか。

 戦いなど私は好かん。

 学園では他にどのような事があったのか父に聞かせてくれないか?」

「はい……」


 全く感情を出さなかったシャルも少しだけ和やかな雰囲気になった。


 それにしても日ごろの行いがその信用を裏付けるという事だろう。

 誰彼かまわず求愛していると思われたのだろうか。

 これからは少しだけ自重しよう。


 ……何時か全く信用されなくなりそうだ。




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