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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第二章 成体
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第五十六話 十二月

「俺もうシャルさんの奴隷で良いわ」


 タッセが馬鹿な事を言い出した。


「そうだな」


 テラーが同意する。


「いや流石にそこは使用人くらいにしとこうよ」


 イーリスが訂正した。


「使用人って、俺達は一応護衛だろうに」


 ネルケが更に訂正した。


「護衛と言うより荷物持ち(ポーター)だけどな」


 ダフネが核心を突いた。


 三度目の探索はもう慣れたものだった。

 鼻歌交じりの余裕で三十三階を瞬く間に探索してしまった。

 そしてまた莫大な利益を得る。

 武器の値下がりが激しく前回ほど儲ける事は出来なかったが。


「次も頼むわよ、と言いたい所だけど次は未定よ。

 復活祭前にもう一度行きたかったけど、別の予定が入っちゃったの。

 復活祭の後も多分無理ね。

 次誘うのは何時になるか分からないけど、その時は宜しくね?」


 目標金額の一億ギルはもう揃ったも同然だった。

 急ぐ事は無いだろう。


「「「了解です」」」


 タッセ達もこれが何時までも続くとは思って居なかったのだろう。

 それに長期休業や復活祭を楽しみたかったのかも知れない。

 お金もあるしな!




◇◇◇




「それで予定ってなんだ?」


 俺はシャルと四六時中一緒に居る訳では無い。

 感覚共有(シンパシー)も必要が無ければしないしな。

 これでも結構気を使うんだぞ?

 ……本当だぞ?


「実家に帰るわ。

 いつも理由をつけて断っていたのだけど今回は無理ね。

 道中は護衛を雇ってまで警護するから、必ず帰るように言われたわ……」

「そりゃ断れないな。

 ブリッツの……エレクトの所はどうするんだ?」

「一応、学園に戻る前に顔を出すとは伝えてあるわ。

 数日くらいなら泊まれるかな?」


 これまでシャルは実家を避けて来た。

 もしかしたらもう帰るつもりは無かったのかもしれない。

 帰る気はあってもきちんと借金を返してからという覚悟があったのかもしれない。

 どちらにしろ一度帰る事は決定していた。




◇◇◇




「長期休業前で浮かれる気持ちは分かりますが、授業は真面目に受けるように」


 休業前の最後の授業だった。


「今日は魔力妨害装置(マジックジャマー)についてです。

 この装置が無かったら防衛拠点と言う物は成り立ちません。

 強力な魔術を防ぐには無くてはならない物です」


 確かに魔術で簡単に破壊出来るだろう。

 ずっと魔術師の手によって守り続けると言うのは難しいからな。


「その効果範囲は物によって千差万別ですが、拠点に設置するような大型の物はやはり強力です。

 持ち運び出来る物は完全に魔力を防ぐ事は難しいでしょう。

 詳しくは教える事が出来ませんが、この学園にもいくつか大型の物が設置されています」


 なら前に襲撃を受けた時に使えよと思わずにはいられなかった。


「使用には大量の魔石を使うので常時使用する訳にはいきません。

 それに敵味方問わずに妨害してしまうので使用には特に注意が必要です。

 これはアンチマジックフィールドの魔法にも言える事ですね」


 内部に侵入されてから使うのは難しいって事か?

 こりゃ設置場所は学園の外周だな。

 まぁどうでも良いか。


「今回はマジックジャマーを使用された時の感覚を覚えて下さい。

 アンチマジックフィールドとはまた違った感覚になるはずです。

 この授業中はずっと発動するので各自魔術を使いその感覚を確認してくださいね」


 そう言ってレーレン先生はマジックジャマーを使用した。

 なんだか嫌な感じだな。

 空気が重いと言うかそんな感じだった。


「んー、僕には本当に発動しているのか分からないな」

「私はなんとなく分かるんだよー」

「私は……駄目かも……」

「僕も分かりませんね」


 キルシュ達でも分かる者と分からない者がいる様だった。


「僕が実際に魔法を使ってみようか。

 ……ファイア!」


 キルシュが魔法を使ってみるが何も起こらなかった。


「私が魔術を使うんだよー。

 ……ファイアアロー!」


 ショコラが魔術を使うがやはり何も起こらない。


「後はそうですね……魔道具(マジックアイテム)を使ってみましょうか。

 今回は魔石を使用し、弾も飛ばしてみますね」


 トートがスカートの中から素早く銃を取り出す。

 見えない!

 何がかは言えない。

 心の目で感じるんだ!


 そして引き金を引き、何発か弾を飛ばした。


「……通常より威力が落ちている気がしますね。

 狙い通りにも弾が飛びません。

 この状況なら物理攻撃で接近戦をした方が良いのかもしれません」


 本当に妨害なんだな。

 アンチマジックフィールドは中和して消す感じだった。


「ファースト……なんで普通に飛んでるの?」


 シャルが不思議そうに聞いて来た。


「ん? 違和感はあるけど別に妨害の影響とか何も無いよ?」

「アンタは本当に規格外ね……」


 本当に自分でもそう思うよ!




◇◇◇




「はぁ、気が進まないわ。

 でも護衛の人が待ってるし、行かないとね……」

「正直、俺が飛んでシャルを運べばすぐ着いちゃうよ?」


 長期休業期間になった。

 シャルは本当に帰るのが嫌なようだった。


「早く帰りたくないっていうのもあるけど緘口令が敷かれたのを忘れたの。

 あれは私達を周囲の目から守る意味もあるけど、安易に力を見せるなよっていう国からの命令でもあるのよ?」


 あれはあの時起こった事だけで無く、ドラゴンの力その物を口外してはいけないという事だったのか。

 街中を飛んだりしたら一発でばれちゃうな。


「貴方がシャルさんだな?

 ドラゴンの使い魔を連れていたのですぐに分かった」


 一人の男が話しかけて来た。


「ええ、そうよ。

 貴方が今回の道中を護衛してくれる方かしら?」

「そうだ。冒険者ギルドが依頼を受け、私達が派遣された。

 私はオプファーだ。

 道中は私達に任せてくれて」


 オプファーと名乗る者と他に四人、計五名の男がシャルの護衛をするようだった。

 女性を警護に入れるという配慮は無いようだな。


「こんな人数を雇うお金をどこから持ってきたのかしら……」


 シャルの実家はあまり裕福では無いのだったな。

 ま、金額とか分からないし何とも言えないな。


「それでもう出発しても良いのだろうか?

 見た所、荷物が何も無いようだが……」


 オプファーが不思議そうな顔をしていると横やりが入った。


「おいおい、俺達は警護の依頼で来てるんだ。

 荷物を部屋まで取りに行かせるとかは勘弁だぜ?」

「ゲファール、止めないか。

 ……あまり多くは持てないがどうしたら良い?」


 ゲファールと呼ばれた者に言われなくともそんなつもりは無かった。


「私の使い魔はアイテムボックスが使えるのよ。

 だから気にしなくて良いわ。

 すぐに出発して構わないわ。

 だけど、少し寄り道をして貰いたいわ」

「優秀な使い魔なのだな。

 少しなら寄り道しても構わんよ。

 道中は五日程だが、あまり掛かるようなら野営の回数が増えるかもしれない」

「道中の安全を祈りに教会へ行きたいの。

 すぐに済むと思うわ」

「分かった。教会なら安全だ、何の問題も無い。

 皆もそれで良いだろう?」


 特に反対も無くシャルの提案は了承された。

 でも教会で祈るとかシャルはそんなに信心深かったかな?




◇◇◇




「ここが教会よ。この国で一番大きな教会ね」


 パッと見は普通の建物にしか見えなかったが、中は開けた広い空間が広がっていた。


「この場所は一般向けに公開されている場所ね。

 奥には洗礼を行う特別な場所もあるらしいわ。

 この国で洗礼が行える場所はここだけね」

「洗礼?」

「神と契約して加護を受ける事よ」


 なんとも胡散臭いことだった。


「誰でも洗礼は受けれるけど、加護を受けれるのは選ばれた者、聖人だけだと言われているわ」


 うん、やっぱり胡散臭い。


「じゃあこの辺に居る人達がみんな加護を受けている訳じゃ無いの?」

「そうね、加護だけじゃなくて洗礼もほとんど受けていないわよ?」

「洗礼って神を信じていたら誰でも受けれるんじゃないの?」

「みんな信じているけど洗礼にはお金が掛かるのよ。

 それも莫大な金額が……ね」

「一発で信じたくなくなったよ!」

「神は存在するわよ? 私はあった事ないけどね」


 本当に神とかいるのかよ。

 まぁこんな世界だ居ても不思議じゃないのか?


「洗礼の時に会えるらしいわ。

 そしてその証拠に加護と言う物がある。

 魔法とは少し違った特殊な力を使えるようになるのよ」

「たとえば?」

「んー、契約の内容や加護はあまり人に話すものじゃ無いからね。

 でも多分だけど……エルフのローゼを覚えている?

 あの人は洗礼を受けた聖人なんだと思う。

 他者の魔法の発動が分かるなんて普通あり得ない。

 きっと何らかの加護の影響じゃないかな?」


 そゆことか。

 種族の差かとも思ったが、同じエルフでもマルメラは魔法の発動とか分からなかったっぽいしな。


「契約って言葉の通りに何か約束をするのか?」

「そうよ、加護の代わりに対価を払うの。

 でもそれほど難しい事じゃないわよ?

 強い祈り、意思の力が対価になるって言われているわ」

「人を助けますとか国の為に働きますとか?」

「多分、そんな感じ。

 そして加護と言う願い事を叶える力を貸してくれるって事ね。

 本当に望んでいる願いをね!」

「そして神の力と言いながら……金の力で!」


 殴られた。酷い。


「お金が必要なのは神との契約の場に立つ為よ。

 それには魔石が必要なの。

 魔石を用意する為にお金が必要なのよ。

 契約の場に立てたとしても、契約出来るとは限らないけどね」

「でもそれで教会は儲けてるんだろ?」

「教会は完全に寄付だけで成り立っているわ。

 一番上の教皇も枢機卿も聖人もみんな質素倹約、慎ましやかな生活を送っているわ。

 たとえそれが貴族でもね。

 みんな財産を寄付しちゃってそれを全部恵まれない信者達に還元してるの。

 ……どうして未だに教会が潰れないのか分からないわ」


 寄付を全部恵まれない信者に還元って。

 普通そんな事したら教会の運営なんて成り立たないと思う。

 つまり一定以上の寄付がずっと続いているという事だろうか。


 そして俺は……神の奇跡を目の当たりにした。


「シャル!? その手の銅貨はまさか寄付するのか!?」

「なによ、私が寄付したら悪いって言うの?」


 悪くない、悪くないんだがシャルはこういう事しないと思い込んでいた。


「はい、これファーストの分。

 あの箱に入れるのよ? それくらい分かるわよね」

「えええ!?」


 しかも俺の分までもだと……銅貨だけど。

 だがシャルは何か勘違いしたのか別の弁明をしてきた。


「銅貨じゃ安いって言うの?

 私の銅貨には誰よりも思いが籠っているから良いのよ!

 ファーストも思いを籠めなさい!」


 確かにこういうのは金額じゃないとは思うけど。

 俺達はそれぞれ一ギルを寄付した。

 その思いはきっと神にも届くだろう。




   +69,862,089  前回残高

..     -15,433  十日分の食糧(二人分)

   +19,152,000  財宝の売上(武器が百十四本)

...   -2,500,000  探索の報酬(五十万ギルが五人分)

....       -2  教会への寄付(二人分)

――――――――――――――――――――

   +86,498,654  八千六百四十九万八千六百五十四ギル


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