第五十五話 十一月2
「もう自重しないわ!」
シャルはやる気だった。
「武器はどうする?」
まだエルフから代わりの剣は貰っていなかった。
「訓練用のがまだあったでしょう?
それに戦闘は全部ファーストに任せるわ!」
シャルは本気で迷宮を攻略するつもりだった。
「雑魚もボスも財宝も全部……私の物!
どこまででも行ける所まで行ってやろうじゃないの!」
今月は三十階はなるべく早く進み、三十一階、三十二階に。
来月は三十三階、三十四階。
そして復活祭後の十五日間を利用して一気に四十階まで行く予定だ。
余裕があればその更に奥、前人未到の五十階も視野に入れていた。
そしてシャルは本気で儲けるつもりでいた。
◇◇◇
「シャルさんが話しかけてくるとは珍しいな」
「ねぇ、一緒に迷宮へ行かない?」
シャルはタッセに話し掛けていた。
地味な奴らの隊長をしてた者だ。
「俺がか? 俺は十階にも行った事が無いな。
他を当たった方が良いと思うけど?」
「ううん、貴方が良いの。
貴方なら真面目に働いてくれそうだもの。
他の人とは……違うの。
貴方でないと駄目なの!」
なんだか甘い言葉を掛けているみたいだ。
そしてタッセは誘いに乗った。
「仕方ないなー、俺で良ければ行ってやるよ」
◇◇◇
「で、なんでお前らがここにいるんだよ?」
「「「こっちの台詞だ!」」」
迷宮前にはタッセ、テラー、イーリス、ネルケ、ダフネ、地味中隊の面々が揃っていた。
シャルは全員をバラバラに一人ずつ誘っていた。
……やり方が酷い。
ちょっと可哀想になってくる。
「貴方達には防御を担当して貰うね?」
「シャルさんを守れば良いのか?」
「いえ、手に入れた財宝を守って欲しいの」
「……それは荷物持ち(ポーター)って言うんじゃ」
「五人を一人と一匹で守のは難しいでしょう?
きっと貴方達に頼る事になる!
その時まではポーターみたいになっちゃうかもだけどね」
「そりゃそうだけど……」
ポーターをやる奴は居ないからな。
ポーターは消える。
みんな何でこんなに信じてるんだろうな?
「それに行きの荷物くらいならファーストが持つわよ」
「了解」
俺は全員の荷物をマジックボックスに入れた。
迷宮での財宝も全て入れる事が出来るがこれ以上の力を見せるのは避けようという事だろう。
自重しないとは言っていたが、態々見せる事も無い。
こうして大人数で荷物を運べば悟られる事は無いだろう。
「流石に財宝も全部となると無理だけどね。
戦闘もドラゴンがいるし、そんなに苦労は掛けないわよ?」
「これなら楽勝だな。
ちょっと予想と違ったけど頑張らせてもらうよ」
「貴方達が持つのはこれだけね」
それはフォーゲル商会のキューケンから借りて来た荷車のような物だった。
普通はこんな物もって迷宮へ入ったらモンスターに壊されるに決まっていた。
だが俺達は多分モンスターとは遭遇しない。
ボスにだけ気を付ければ良かった。
そしてこれ以上不安や文句をいう奴は居なかった。
この時点ではだが。
◇◇◇
「シャルさん、一体どこまで行くんですか?」
タッセが皆を代表して聞いてくる。
あまり迷宮慣れしてないのは本当のようだった。
目標の階すら聞いてないとはな。
……教えなかったのは内緒だ。
「んー、もうちょっとよ。
三十階は速効で飛ばして、三十一階に行くつもりよ」
「「「三十階!?」」」
なんて可愛そうな奴らだ。
どうしてシャルがお前らを選んだか知ってるか?
死んでも特別には心が痛まないからだ。
だからと言って見捨てたりしないから安心しろよ。
本気で割り切っていたらお前ら番号つけられてるから。
何も言わないのが優しさだから。
……俺が悲しい目で見られたくないからとかじゃ無いからな!
「あっという間に二十九階だよ……」
ここまでは完全に道も覚えていたし、モンスターにも遭遇しなかった。
「ここから先、三十階は私も行った事が無いわ。
特にボスには注意してね?」
「もう何を注意して良いのかも分からない……」
こいつらまじで死にそうだな。
だが緊張感だけは持っているようだからなんとかなるのか?
不安とは裏腹に三十階は何事も無く通過し、三十一階に降りて来た。
「なんか雰囲気が変わった?
迷宮の作りが変わったと言うか……」
こういう事に気づけるくらいにはタッセ達は余裕があるようだった。
確かに今までとは少し違っていた。
無機質な壁や床に装飾が施されている部分があった。
「なんだか高価な財宝がありそうね!」
シャルだけは喜んでいたが。
「さて、目一杯財宝を持ち帰るわよ!」
財宝集めは順調に進んだ。
◇◇◇
「なんだか拍子抜けだよ」
財宝集めが一段落して今は休憩中だった。
「だねー、それにこんな場所で美味しい食事まで食べれるし」
「そうだな」
「シャルさんの手作りですからね」
「なんだか接待されてるみたいで気が引けるよ」
「俺達の仕事が本当に財宝集めだけだからな」
シャルが作った食事を食べながら和気藹々とした感じだった。
「遠慮しなくても良いわよ!
でもその分きっちり働いてもらうからね?」
「「「了解です!」」」
その後、就寝となったのだが……。
「本当に見張りを使い魔に任せて良いのか?」
「ああ、俺に任せとけ!」
お前らには任せられないんだよ!
モンスターの事もあるがそれ以上に気を付けている事もあった。
シャルは今、布一枚隔てた向こう側で休んでいた。
それはメッサーから貰ったマジックアイテムで周囲の気配を遮断する優れものだ。
だが見た目にはそんな事は分からない。
ただの布一枚だった。
「……シャルさんってさ、迷宮で上級生に襲われたんだよな?」
「そうだな」
「返り討ちだったらしいけどね」
「でも上級生が襲った気持ち……少しだけ分かるかも」
「……だよな」
こんな場所で女性が一人。
周りには男性が五人。
薄暗く、周囲には他に誰もいない。
もし騒いだとしても誰にも気づかれない。
状況が悪すぎるとは思う。
「ま、そんな事をする奴は貴族の風上にも置けないな」
「そうだな」
「あのさ、シャルさんは見張りはいらないって言ってたけど、俺達が交代で見張らないか?」
「そうだな、五人もいるんだし交代で見張れば十分休息は取れるからな」
「だね、初めは俺が見張るよ」
真面目な奴らだ。
こういう奴ばかりなら余計な心配はしなくて済むのにな。
「それに噂だけどあの使い魔、ドラゴンはヤバいらしい」
「なんだそりゃ?」
「なんでも人間に興味がありすぎるらしいよ」
「まぁ人の言葉を話しているしな」
「それだけじゃなくて……人が好きらしいんだ」
「つまり?」
「シャルさんを襲う可能性がある!」
ぶはっ! お前ら何て事考えてやがる!
あながち否定できない所が辛いぜ……。
「そっちの見張りも必要って事か!?」
「ははは、冗談だよ。
でも何にでも警戒しておく事は大切だよ。
迷宮で油断したら死んじゃうんだ。
それだけはみんな習ったろ?」
「そうだったな。やっぱり交代での見張りは必須だな」
こいつらは誰か一人が飛びぬけて優秀という事は無かった。
だがお互いを助け合って話し合ってやってきたようだった。
飛びぬけて優秀な者がいる小隊より、同じ力の者が集まった小隊の方が強いと言う話を聞いた事がある。
それはお互いの意見を尊重し合う事ができるし、同じ行動を取る事で協調性が高いからだろうか。
突出した者が居た場合、その者が優先される事が多いからな。
見下していたがこいつらから学ぶ事もあるのかもしれない。
そして迷宮探索は問題なく終わった。
ポーターであったタッセ達も誰一人として消える事無く探索を終える事が出来た。
◇◇◇
「これはお久しぶりです。
今回は大量の財宝をお持ち帰りになったようですね。
これほどの量を見たのは初めてでございますよ!」
キューケンがその量を見て驚いていた。
「自分達で持って帰って来たのにまだ信じられないね」
「そうだな」
「なんでシャルさんが迷宮に行くのか分かった気がする」
「これだけ手に入るならそりゃ行くわな」
「そしてこの対応も当たり前って事かな?」
タッセ達にもいつもシャルに振る舞われる紅茶やお菓子が出されていた。
「しかも美味しい」
「そうだな」
「落ち着くねー」
「俺あんまり売りに来た事ないけど、こんな事初めてだよ」
「帰って来てからも接待とか俺達本当に働いたのか?」
今回は楽勝だったかも知れないが常に危険は付いてくる。
特に十階、二十階、三十階ではボスと遭遇する事は常に考えておかなければならなかった。
ま、そこだけ気を付けとけば後は楽なんだけどな。
「お待たせしました。
今回の物は今までとは質が違いますな。
武器が合計で百十二本。合計で二千三百五十二万ギルになります」
「「「えええ!?」」」
タッセ達は物の価値が分からないのか、せいぜいで数百万ギルだと予想していた。
それにしても高い!
量も多かったが一本当たりの金額が今までより五割増しくらいになっていた。
「申し訳ありません。
安過ぎと思われるかもしれません。
ですがシャル様と時期を同じくして大量の武器が出回るようになったのです
今まではそれでも需要が供給を上回っていたのですが、最近はもう駄目ですね。
……この金額以上は私共には出せません。
勿論荷車の使用料など取りません。
……どうなさいますか?」
これでも安いのかよ!
予想と違っていたが前回までが高かったのだろう。
そして値上がりがあるという事は逆に下がる事もあるという事だ。
これは俺達はある程度予想できた。
「その金額で良いわ。ただ少し待って頂ける?
まだ分配の方を良く決めていなかったの」
「はい、ありがとうございます。
ごゆるりとお決めください」
売って貰える事が分かればキューケンに言う事は無かった。
「……一人五十万ギルで良いかしら?
戦闘があればもう少し弾むつもりだったんだけれど」
シャルはある程度の儲けを計算していた。
最低でも三百万ギル。
これだけは稼げるだろうと。
それを六等分の予定だった。
それ以上の儲けが出た場合は自分で貰う。
もし戦闘があった場合はタッセ達の分配を上乗せしようと。
「十分すぎます」
「そうだな」
「俺、一生のうちでこれだけ稼げる機会はもう無いかも」
「迷宮に入る前は一万も貰えたら良いと思ってた……」
「俺なんて金が貰えるとは思って無かった」
タダ働きとか、それはお人よし過ぎるだろうとは思った。
こいつらは初めから儲ける気など無かった。
ただシャルに誘われて付いて来ただけだった。
……違う気はあったのかもしれないが。
「次回もまた頼むつもりだけど良いかしら?」
「「「勿論!」」」
断る気は無いようだった。
今度は儲けを得る為だけしか頭に無いだろう。
だが危険がある事だけは今度は始めに注意してやるか。
良い奴らっぽいし。
……今回もちゃんと説明してやるべきだったのは忘れよう。
聞かない方が悪い。
だって説明したら来てくれないじゃん!
なんだか悪徳業者っぽい事いってるけど仕方ないよね?
◇◇◇
「今回はかなり儲けれたわ。
でも次回からは武器の値段がもっと下がるわね」
「だなー、誰かが各地で同じように売ってるらしいからなー」
「それに多分、戦争に何か動きがあったのよ。
需要が減ったという事でしょう。
ここ最近は武器を流して居なかったから。
私達が売っている分がどれだけの比重を占めているのか分からないけどね」
確かに一介の学生が売る武器にそれ程の影響力があるとは普通思えない。
まぁ質は良いらしいから何とも言えないが。
「取り敢えず今からは値が下がる一方って事よ!
キューケンのフォーゲル商会は信用出来るわ。
これからはタッセ達を誘って売りまくるわよ!」
「了解!」
そして次もタッセ達と三十二階を探索し、莫大な収益を得る事が出来た。
もうどこぞの武器商人みたいになっていた。
死の商人! とか叫んだら殴られた。酷い。
「私達は安全を売っているのよ?
分かる?
守る為の武器よ!」
そんな事言う奴は悪い奴しかいないって……。
+25,779,731 前回残高(十月下半期)
... ±0 十日分の食糧(二人分、遠征時に購入)
+23,520,000 財宝の売上(武器が百十二本)
... -2,500,000 探索の報酬(五十万ギルが五人分)
――――――――――――――――――――
+46,799,731 四千六百七十九万九千七百三十一ギル
+46,799,731 前回残高(十一月上半期)
.. -15,642 十日分の食糧(二人分)
+25,578,000 財宝の売上(武器が百二十六本)
... -2,500,000 探索の報酬(五十万ギルが五人分)
――――――――――――――――――――
+69,862,089 六千九百八十六万二千八十九ギル




