第五十四話 十一月
「遠征の疲れは取れたでしょうか?
取れてなくても授業は休めません。
気持ちを切り替えてしっかり受けるように!」
遠征の後は至って普通だった。
だがまだ皆はお祭りの後のように何か浮かれた気持ちが抜けきっていないように感じた。
それでもレーレン先生の、学園の授業は受けなければならない。
「今日は少し大きな魔道具についてです。
見た事のある人もいるかもしれませんが、これは魔力砲です」
先生は車輪の着いた大砲のような物を説明していた。
なんだろう元の世界ではカノン砲とか呼ばれていた物に近いだろうか。
「魔法剣と同じく魔石によって魔力を供給し使用します。
直接魔力自体を飛ばす物もありますが、今は魔力と共に火炎石等を飛ばす物が主流ですね。
当然使用用途は建築物の破壊等の兵器となります」
魔術師が居るのにそんな物が必要なのかとも考えた。
だが魔石さえあれば無尽蔵に使えるのだから使い勝手が良いのかもしれない。
魔術師以外にも使えるしな。
「ただ飛ばすだけの簡単な物なのでマジックブレイドほど魔力は消費しません。
ですがそれでも魔力の消費量は多いと言わざるを得ませんね。
そして近年、改良や発展を重ねて出来たのが……銃です。
原理は同じですがその大きさと使用用途は違いますね。
最新のマジックアイテムなので本来なら見せる事は出来ないのですが、幸運な事にトート君が持っています」
そう言って先生はトートに目くばせをする。
トートはそれに気付き銃を取り出し、皆がそれに注目する。
銃では無く……別の所に。
トートは銃をスカートの中から取り出した。
トートは男だがこの間の一件よりずっと女装したままだ。
中性的なその外見はもう女の子にしか見えなかった。
そしてその太ももあたりから取り出された銃よりもその場所へと目が行くのは仕方のない事だった。
「くっ、やはり中は見えないか!
……この忌まわしい呪いの制服が邪魔だ!」
トイフェルが何か馬鹿な事を言っていた。
「呪いってなんだよ?」
「この制服はマジックアイテムだ。
耐久性に優れているんだが……それだけで無くスカートの中が絶対に見えないんだ。
これを呪いと言わずなんと言えようか!」
「馬鹿が……」
「おいおい、ファーストらしくも無い台詞じゃねーか」
まったく俺を何だと思って居るのだろうか。
「……スカートの中は見えない方が良いんだよ。
中は心の目で見るんだ! それこそが真理!
実際に見えてしまったら、何の価値も無いんだよ!」
「はっ!?
そうだな!
俺は考え違いをしていたようだ。
さすがファーストだ!
人間に分からない事を簡単に解き明かしてしまう!」
そうだろうそうだろう。
「馬鹿が二人いるわ……」
シャルが呆れていたがそれは俺達だけでは無かった。
皆、トートのそれがそのどうなっているのか気になるのだろう。
男性も女性もそこへ注目していた。
「……銃の説明ですよね?」
トートは顔を赤らめ恥ずかしがっていた。
だが気を取り直して説明する。
「これはマジックキャノンをそのまま小さくしたような物です。
僕の使っているのは汎用性の高い物です。
魔力だけを飛ばす事も、同時に弾の様な物を飛ばす事も出来ます。
ただ弾は有限であり魔石を使った場合しか飛ばせません。
魔力は魔石を使用する事も、自らの魔力を使用する事も出来ます。
前者の場合はこの手で握る部分に魔石が入っており、これを取り換える事で直ぐに魔力の補充が出来ます。
従来の魔力の補充に掛かる時間を大幅に短縮する事が出来ます。
また後者の場合は僕専用に作られており僕の魔力でしか使えません」
自分用にカスタマイズさえすれば使い勝手が良さそうだった。
「今後の改善策としてはいかに威力を上げるかという事でしょうか」
確かに迷宮で使用するのを見たがあまり威力は無いように思えた。
魔石を使い弾を飛ばせばもっと威力が上がるのかもしれないが。
そしてトートの説明に先生が付け加える。
「マジックキャノンを屋内で使う訳にはいきません。
ですが銃なら周囲にあまり被害を与える事は無いでしょう。
またアンチマジックフィールドや魔力妨害装置の影響を受けにくい事も特徴です。
マジックジャマーに対抗する為にマジックキャノンが出来たくらいですからね」
マジックジャマーか。
迷宮のボスなどを倒す時に、学園から貸し出される事があるらしい。
魔法の影響というより魔力自体を妨害する物なのだろう。
魔力を打ち消し物理で攻撃するという事だろうか。
迷宮二十階のボスに使えば回復速度が遅くなったりするのだろうか?
もしかしてアンチマジックフィールドを使えば回復しなかったのか?
機会があれば試してみた方が良いかもしれないな。
そして授業は早々と終わってしまった。
みんな心ここにあらずになっていたのは……この後の事があったせいでもある。
◇◇◇
「さて進行役はこの俺、トイフェルがやらせてもらうぜ!」
「「「おー!」」」
今回集まったのは遠征の打ち上げだった。
三年生とその指揮を取ったプフェとルトナー、そしてレーレン先生が参加している。
「今回の費用は五年生で我らが指揮官プフェと副官ルトナー、そして先生の寄付によって全額支払われる。
全員感謝しつつ思いっきり楽しむように!」
「「「おー!」」」
今回の遠征では全戦全勝、そしてエルフの軍勢にも勝つという快挙をやってのけた。
最後のは緘口令で無かった事にされたが、一応の評価だけはされたらしい。
そのかいあってかプフェとルトナーは異例だが軍の高い地位を貰えるらしい。
そのお礼も兼ねているようだった。
「それではみんなグラスは持ったか?
指揮官の指示で始めるぞー!」
「「「おー!」」」
プフェがグラスを持ち上げる。
「我らの勝利に……乾杯!」
「「「かんぱーい」」」
総勢二十三名と二匹(ファースト、トルテ)の宴会が始まった。
「ちなみに酒はブラゼン公爵、ケーゼからの差し入れだ!
普通では飲めない高級品だが全部飲みつくせよ!」
「「「おー!」」」
相変わらず抜け目のない奴だ。
「おいおい、大活躍だったお前がなんでオレンジジュースなんだよ!
酒を飲めよな、酒を!
飲めなくても飲め!
吐いても飲めよ!
あ、ブレスは吐くんじゃねーぞ?
みんなしんじまうからな!」
トイフェルがもう出来上がっていた。
いやいつも通りか。
「さーて、まずは余興の初めはやっぱお前だろう!」
そしてこの無茶振りである。
「余興って何すれば良いんだよ……」
「何でも良いんだよ! 適当にこうドーンってな?」
わかんねぇよ……。
仕方ないか。
「んじゃ、これで良いか?」
ドーン!
俺は成体へと変態していた。
「おうおう、それで良いんだよ!
皆さん、今回の一番の活躍者がその本当の姿をまた見せてくれたぜ!」
「「「おー!」」」
みんなもう酔いが回っているのか変なノリだった。
「いや、そんな改まって注目されると照れるな!」
「お前はもっと堂々としていれば良いんだよ!
さーて、お次は誰にやってもらうかな?」
そう言ってどこかに別の人を探しに行く。
忙しい奴だ。
「ふぁーすとー、なぁにかってに成体になってるのよー」
しまった!
ちょっと目を離したらこれだよ。
「なるのはーいいのよー、私の許可をとりなさーいって事よー」
シャルは既に出来上がっていた。
誰だよ飲ませた奴は。
「いや、すまない。こんなにすぐ酔ってしまうとは……」
プフェ貴様か! って知らないよね、仕方ないよね。
「指揮官の頼みは断われなかっただよー、本当だよー?」
「うん、止めた……止めてないけど止めた……」
お前ら! 確信犯かよ!
「僕はシャルさんには近づいていないからね?
今回は近づく気もないからね?」
キルシュはもうシャルに関わるつもりは無いようだ。
くっ、今回は誰がシャルの被害にあってしまうのか!?
……面白そうだから被害が出るまで止めないでおこうかな?
「お、シャルが何だか面白い事になってるじゃねーか!
次はシャルが何か余興を頼むぜ!」
被害者はトイフェルかこれは仕方ないが諦めて貰おうか!
「そうねー、ゲームをしましょうかー。
遊びよ、あ・そ・び!
……強制全員参加だから」
「お、なんだなんだ? で何をするんだ?」
「王様ゲームよ!!!」
なんでそんなゲーム知ってんだよ!
そして手際良くトートが番号の書かれたカードのような物を持ってくる。
いつの間に指示しやがった。
トートも断われよなって、出来ないか……。
「王様がー番号を決めてーその番号の人がー王様の言う事をー何でも聞くのー」
間延びした声でシャルが説明する。
「そりゃ面白そうだな!
じゃあみんな番号を確認しろよー」
「あ、俺が王様だわ」
王様はダフネだった。
誰だお前? ああ、地味な奴らの中でも一番地味な奴か。
「それじゃあ何か盛り上がる事を頼むぜ!」
「なっ、そんな事言われても。
……好きな人を言うとかか?」
「まぁ初めにしちゃ上出来じゃねーか?
後は何番だ?
番号を言えばそいつが好きな人を言うって事で!」
「んー、十番かな?」
「おらー、十番は誰だー?」
「私ですね。いやー、これは困りましたね」
十番はレーレン先生だった。
先生に好きな人とかいるのか?
「私は生徒皆さんが好きですからね。
そこに優劣はありませんよ」
「それじゃー盛り上らないだよなー。
シャル、こういう時はどうするんだ?」
「罰を与えるわ! 罰ゲームね!」
一瞬にして静まり返る。
トートなんて今にも泣きだしそうになっていた。
「お酒がいっぱいあるしー、一気飲みで良いんじゃない?」
「お、おう! それくらいが妥当だな」
場に安堵が訪れた。
「仕方ないですねー、私はあまりお酒が強くないのですが」
そう言って先生はシャルが用意した酒を一気に飲み干す。
そして、バタンと言う音と共に倒れこんでしまった。
「んー、このお酒ー強いのねー?」
一気に飲むようなお酒じゃ無かったようだ。
「まぁ良いんじゃね? お前らー、これで歯止めはなくなったぞ!」
本当だ、これで少しくらいならふざけても止める者はいない。
「おらー! 次の王様は誰だー!?」
「私だわ」
アネモネだった。
あんまりこういうのは得意そうには思えなかった。
協調性もまだあまりないしな。
「……何も思いつかないわよ。
ねぇ、どうすれば良い?」
頼るように、甘えるようにトイフェルに聞いていた。
だがトイフェルは優しくない。
「これは王様が決めないと駄目なんだよ」
「もう!
じゃあさっきと同じで好きな人を言うので良いわ。
おんなじ十番ね!」
「それじゃあ盛り上がらないんだって……」
トイフェルが駄目出しをしていたがそうでも無かった。
「……僕が十番だね」
キルシュだった。
そしてその両脇にはショコラとマルメラが座っていた。
そして二人ともキルシュを見つめている。
「これは予想外に面白い事になりやがったぜ!
さぁさぁキルシュ、もうクラスメイト全員が気付いてるぜ?
そろそろはっきりしたらどうなんだ?」
トイフェルが煽る煽る。
キルシュは笑みを絶やさないがそれは引きつっていた。
そして冷や汗までかいていた。
「ぼ、僕は……」
「「「僕はー?」」」
クラスメイト全員で煽る。
「僕は……シ、シャルさんが好きだ!
あの無尽蔵の魔力と強い剣技に惚れたんだ!」
「「「はぁ……」」」
クラスメイト全員が溜息を吐く。
キルシュは逃げやがった。
だが逃げた先も安全とは言えなかった。
「そーう? 嬉しいわー!
じゃあー、お礼? にお酒を注いであげるわねー」
どこにあったのか見た事の無いとんでもない大きさのグラスに酒が注がれる。
それはシャルの魔術で作り出された氷のグラスだった。
「私も注いであげるんだよー」
「残さず……飲んで……」
左右からもショコラとマルメラの手によって、その大きなグラスに酒が注がれた。
「あ、ああ、嬉しいよ……」
そしてキルシュはそれを飲み切った。
だが飲み切ると同時に、床へと倒れてしまった。
まぁこれくらいは仕方ないだろう。
その後は当たり障りのない事ばかりだった。
手をつなぐとか肩を組むとかその程度だ。
「おいおい、みんなもっと攻めて行こうぜ!
……次の王様は誰だー!?」
「わたしー!」
そしてついにその時は来た。
暴君シャルの出番が。
「お! これはきっと攻めてくるに違いないぜ!
全員覚悟を決めろよ!」
「わたしはー、そんなに酷くないわよー?
取り敢えず―、男は全員脱げ!
裸ね! は・だ・か!」
「番号すら……言ってないだと?
さすがに王様でもそれは駄目だろー?」
「もー、しかたないなー。
でもいっぱい番号いっちゃうからねー?」
「全部の番号とかじゃ無ければ良いだろーよ!」
「ちょっと! 女性はどうするのよ!」
「そんな声は聞こえませーん!」
トイフェルが女性陣の声を全てシャットアウトした。
まぁその心配は無い。
『ふぁーすとー、男の番号全部教えなさーい』
『いや分かるけどさ……まぁ良いか』
という訳である。
なんて無駄な能力の使い方だろうか……。
そしてシャルが男性陣の番号を全て言い当てる。
「まじかよ……こんな事出来るなんて反則じゃねーか!
始まった時からもうすでにこれは決まっていたのか!?
嵌められたぜ!
……だが男に二言は無い!
お前らも覚悟を決めな!」
トイフェルが諦めて脱ぎだした。
酔いつぶれている者は既に脱がされ始めていた……シャルの手によって。
「俺はなんて戦場に迷い込んでしまったんだ……」
「プフェ、残念だけど諦めて!
……私が脱がしてあげるわ」
プフェも? ルトナーもなんだかんだで楽しんでいるようだった。
「まー、私もー、鬼じゃないからねー。
パンツ一枚? くらいは許してあげるー!」
シャルさんの温情でパン一で許された。
だがここで一つだけ問題が発生した。
クラスメイトもそれに気付き、そこへと注目していた。
「トート? なにしてるのよー。
はやくぬぎなさーい!」
あ、トートも男だから番号教えちゃったわ。
いや別に本当に男だから良いよね?
見た目は完全にアウトだが問題ない。
「ええっ? シャルさん? いやその駄目ですって!
まだ心の準備が……あっ、あっ、あっ!」
トートもパン一にされてしまった。
そしてなぜか胸を隠している。
お前男だろうが何してんだよ!
堂々としろよ!
そして男性陣はトイフェルを含め、目をそらしていた。
なんでお前らこんな時だけ紳士なんだよ!
逆に女性陣は皆がトートに注目していた。
「トートのー、それはどうなってるのー?
ちょっと脱がしてみよっかー?」
シャルの手が最後の一枚に掛かる。
「シャルさん、駄目ですから!
お願い、駄目だから、駄目、ダメ、だめー!」
トートの叫び声が響いていた。
これ以上は可哀想なので……実際に起きた事は忘れようと思う。
◇◇◇
後日、それはいつも通りと言えば良いだろうか?
「ファースト、昨日の記憶が無いわ」
「思い出さなくても良いと思うよ!」
世の中知らない方が良い事は……あると思う。




