第四十五話 七月4
今日は二話分更新予定です。
次は二十時になると思います。
俺達はレーレン先生の部屋で説教中だった。
大体の説明はキルシュによって行われた。
その際ちゃんと自分が王族でしかも王位継承権もあると説明した。
ぶっちゃけショコラ以外全員知っていた。
先生は学園に入る前の根回しで知っていたし、マルメラはそのつもりでこの国に来ている。
シャルは俺が盗み聞きした事を既に伝えていた。
そしてトートは言わずもがな王からの依頼で動いていた。
トートは説明の途中で気が付き、一緒に説教を受けていた。
「ショコラ、この件については後で二人で話そう」
「……わかったんだよー」
キルシュもやっと話す気になったようだ。
このヘタレが!
ショコラがそんな事を気にする訳が無いと言うのに。
むしろ隠されていた方を気にするだろう。
まー、ここからは二人の問題だな。
「話は分かりました。トート君は少しやり過ぎたようですね。
ですが、貴方達はもっとやり過ぎた。
……しばらくの間、謹慎するように!
別途学園から指示はあるかもしれませんが、謹慎だけで済むように取り計らいましょう。
キルシュ君の事を明かす訳にもいきませんからね」
「「「有難う御座います」」」
謹慎か。
シャルがちょっと嬉しそうにしていた。
大方迷宮に籠れるとか思ったのだろう。
「謹慎中は当たり前ですが、迷宮等外出は控えるように。
それでは寮の部屋に戻りなさい」
シャルがうなだれる。
先生にはお見通しだった様だ。
「先生、少し二人で話したいのですが……」
「ええ、良いですよ」
キルシュがそう言った。
そして二人を残して皆は部屋を出た。
「……ファースト、分かっているわね?」
「御意!」
俺は隠密忍者っぽく返事をする。
先生とキルシュの話を盗み聞きするのだ。
ドラゴンなら多少は慣れていても話は聞こえる。
壁越しでも余裕だ。
「それで話とはなんだね?」
「……僕はどうすれば良いのでしょう?」
「これはまた漠然とした質問だね……。
それは生徒としての事だろうか?
それとも王の座を継ぐ者としての事だろうか?
後者については私は何も言えないよ」
「……では前者の方をお聞きしても?」
「それはもう君は分かっているだろう。
今まで通りで良いんじゃないかな?
君は優秀だからね、何でも出来るさ!」
キルシュは何でもそつなくこなす。
まさに優秀といった感じだ。
だからこそどうすれば良いのか迷うのかもしれないが。
「何でもは出来ません。
現にこうしてたった一人の女の子すら守れなかった」
「君は十分守っていると思いますよ。
聞きたい事は恋愛についてでしたか。
それとも愛その物について……ですかね?」
これはあれですね。
シャルが大喜びしそうな内容ですね!
……俺もだけどね!
「それは人によって違う物ですからね。
……私が今から言うのはあくまでも一般論として参考までに聞いてい下さい」
先生が前置きを入れる。
確かに人の一生を左右するかもしれない大事な話だ。
キルシュに至っては国を左右したりしてな……。
「この国では一夫多妻が認められています。
ですがこれを良く思わない人がいる事も確かです。
国は認めていますが、教会では推奨していません。
ですが教会がそれを悪としている訳では無いのも忘れないでくださいね」
なんだか授業みたいになってきたぞ。
「それではどうして一夫多妻と言う物があるか分かりますか?」
「……強い子孫を残す為でしょうか?」
強い子孫とは強い男性が女性を独占するという動物の習性、習慣のような物だろう。
「概ね正解と言えます。
今現在のわが国では平民が子供を三人以上育てるのは難しいです。
その場合は国からの補助を受けます……それが兵役です。
兵役に付けば生活が保障されますからね。
そして兵士の生存率は驚くほど低いという事も知っていますね?
その為、貴族に一夫多妻が多くなるのです。
家族を養うのが強いという事にもなりますね」
育てられないのに子供は作らないという事だろうか。
そして貴族は裕福な事が多いからな。
「ですがこれは大昔の話です。
そうまだ魔術を使えなかった頃の事ですね。
今は男性と女性に体力的な差はほとんどありません。
なのにこの風習のような物が無くなるどころかむしろ推奨されています」
んー、元の世界でもほとんどが一夫一妻だったかもなー。
「それは……勇者の存在が大きいのでしょうね。
勇者は男だったと伝えられています。
そして各国の女性がこぞって勇者を求めたと聞いています。
当然と言えば当然の結果ですが、それを勇者は受け入れた。
勇者の英雄譚にそのような話がいくつも残っていますね」
勇者はこの世界で何やってんだよって思うわ、本当に!
世界を救った後は好き放題やってんだな……。
……断れない事だったのかもしれないけどね。
「その後は勇者の子孫が手を取り合って世界の平和を守っていくと言う物ですね。
ですがどうでしょう?
子供は皆同じ父親を持っているのかもしれません。
しかし女性はそれを受け入る事が出来たのでしょうか?
自分以外の女性を愛された事を……です。
そして子は母の影響を大きく受けたのでしょう。
父は子に対して平等であったのなら、それは母よりも共にいる時間が減ってしまいますからね」
それが現実なのだろう。
そしてキルシュの置かれた状況でもあるのか。
「世界は平和ではありません。
ついこの間、戦線が開かれ今も戦っているのです。
全ての女性がそうだとは言いません。
……複数の女性を愛するのは難しいという事ですね。
それに逆の考えをした場合……女性が複数の男性を愛した場合ですね。
キルシュ君はそれを受け入れる事が出来ますか?」
「出来ないと……思います」
そう言う事なのだろう。
それに複数の子を持った場合に国が割れるというのはよくある事だ。
母親が違った場合は特にだ。
「御父上は先の事を、貴方の次の世継ぎを心配されているのでしょう。
そして勇者の様な存在になって欲しいと。
ですが勇者だからと言って全てが正しい行いだったとは限らないという事です。
過去がこうだったから同じようにすれば良い。
そうは考えないでください。
過去から学ぶのは良い事です。
ですが真似するだけでは駄目なのです。
……どうするかは自分自身で決めるのですよ」
キルシュは何かに気づけたのか、その顔に迷いは無かった。
「はい!」
キルシュは迷っていた。
今まで王と言う物は妻をたくさん持つ事が多かったのだろう。
そしてそれは歴史上の偉人もそうしていた。
その有効性も理解できる。
何をすれば良いのか全て分かっていたが、それはキルシュのしたくない事だったのだろう。
キルシュは優秀だ。
何でも出来るがそれ故に何も決めれない。
いや決めれるが迷うのだろう。
ギリギリまで決定できないだけでキルシュの中ではもう決まっていたのかもしれない。
キルシュはショコラが好きだ。
もうこれは確定だ、そうじゃないと悩む理由が無い。
だがキルシュはマルメラを選んだ。
皆が望む事だからだ。
父が、国が、それを望む。
トートの口ぶりからもマルメラはエルフの国の要人だろう。
そうじゃないと許嫁の理由が分からない。
ショコラが的確では無いと言う理由もあるかもしれないがな。
ショコラも自分よりマルメラを選べと言うはずだ。
それが一番幸せになる人が多い。
そしてキルシュは周りからは二番目に見えるかもしれないがショコラも選ぶのだろう。
誰だってそーする。
おれもそーする。
だがキルシュはそうしない。
きっともっと良い方法を見つけるはずだ。
その為の時間はあまりない。
キルシュは優秀だ。
だがギリギリまで迷う。
……最善を見つける為に。
◇◇◇
「キルシュ、話は終わったのか?」
「ああ、とても良い話が聞けたよ!」
俺は部屋の外でキルシュを待っていた。
盗み聞きしていただけだが。
このヘタレに一言だけ言いたくてな。
「俺からも一つ話があるんだ」
「なんだい?」
「今度またショコラと買い物に行くだろ?」
「ああ、多分行くよ? 謹慎明けになるだろうけどね」
「その時はショコラを使い魔の前に乗せてやれよ?」
「ショコラは後ろで自由に動きたがるんだけど……」
「多少強引でも良い。
後は両手でしっかり手綱を握って……ショコラを守ってやれよ!」
キルシュは本当に周りに流されやすい。
それに相手を気遣ってばかりで言いなりになってばかりだ。
多少強引に自分の意見を通してみるのも良いだろう。
それにそうして欲しいと思ってるかもしれないからな。
……失敗しても俺には関係ないしな!
「……分かったよ。
まさかドラゴンにこんな事の手解きを受けるとはね……」
それ程お前がヘタレって事だよ。
まー、ヘタレと呼ぶかどうかは卒業まで待ってやるか。
◇◇◇
そしてシャルは長い謹慎を受ける事になった。
半月程だ。
迷宮に行けずイライラする日々をしていたシャルに贈り物が届いた。
メッサーからだったがどうもケーゼも一枚噛んでいるらしい。
それは最近流行りのあれだ……ドラゴンも絶賛のジャムと紅茶だった。
これを飲んで心を落ち着けろという事だろう。
この気配りと強引さがキルシュに少しでもあれば良いのだがな。




