第四十一話 六月5
今日は二話分更新予定です。
次は二十時になると思います。
「なんとか逃げ切れましたね……」
「そうみてーだな」
「つ、疲れましたわ」
三人が十九階に着いてしばらくした後にシャルも着いた。
モンスター同士には縄張りでもあるのか階層を越えて追ってくる事はほとんど無い。
まずは逃げ切れたと言えるだろう。
「みんな居るわね? 怪我は無いかしら?」
シャルは皆の状態を確認する。
「そうは言っても、しばらくは医療品も何も無いのだけどね」
「使い魔さんは大丈夫でしょうか?」
「ファーストなら大丈夫。空も飛べるし、逃げるのは得意なのよ」
「ドラゴンはそう簡単にはやられないって事か」
「それに頑丈なのよ。囮には打って付けね」
「あのペットが欲しくなりましたわ。私に売ってくださいません?」
「売る気は無いわよ。
その前に売り買いする物では無いわ。
それに……」
「それに俺は売られてもまたシャルの所に戻ってくるよ。
……今みたいにね!」
俺は無事にオルトロスから逃げ切っていた。
そしてシャルの熱い抱擁で迎えられ……無かった。
「無事だったみたいね。
……でもちょっと近づかないでくれる?」
この扱いは酷い。
だが仕方のない事でもあった。
「何? このペット、匂いますわよ」
俺はオルトロスに丸呑みにされた。
だが腹の中で暴れたら程なくして右側の頭から吐き出された。
中でつながってるんだなぁとか考えるよりも、自らの置かれた状態が気になった。
胃液? のような物でベトベト。
そしてとにかく匂いがきつかった。
戦う気力の無くなった俺はそのまま逃げ出した。
そんな俺をオルトロスはなぜか追わなかった。
匂いがきつかったからでは無いと思いたい。
「ペットの世話は大変だと聞きますが、それが分かりましたわ……」
シャルの魔法によって体を洗われる俺を見てメッサーがそう言った。
「綺麗になったら今日はもう休みましょう。
ファースト、荷物を出して!」
「あ、その前に私も洗って下さる?
返り血が気持ち悪いのよ」
世話の掛かるペットはどっちだよ……。
◇◇◇
迷宮内での野営の場所は袋小路が選ばれる事が多い。
もしくは見通しが良くモンスターの気配を察しやすい場所だな。
部屋のような狭い場所で入口が一つしか無ければそこを土の魔術などで塞ぎ休息を取る事もある。
……俺には関係の無い事だったがな。
寝床は男女が一応は分けられていた。
薄布一枚が隔てているだけだがそれはマジックアイテムだった。
周りの気配や音などを遮断する物だったがそんなのを迷宮で使って良いのかとも思う。
当然、メッサーの持ち物だった。
「まだ起きてらっしゃる?」
「……なによ」
メッサーがシャルに話しかけた。
「今回の事で貴方がどれだけ強いのか良く分かりましたわ。
無尽蔵とも思える魔力に底なしの体力。
指示も的確で頭も切れる。
自信に満ちた態度も納得できましたわ」
「そう? ありがとう」
シャルはメッサーが何を言わんとしているか分からなかった。
「でも、それでもケーゼ様を蔑ろにする理由にはなりませんわ!
私が今回着いて来たのは貴方を知りたかったから。
ケーゼ様をどうしてそこまで嫌うのか知りたかったからですの」
なんとなくそんな気はしていた。
初めは何か良くない事でも仕掛けてくるんじゃないかと思っていた。
迷惑を掛けられっぱなしだったが態としている感じは無かった。
「……メッサーはケーゼをどう思う?」
シャルは質問を質問で返した。
「そ、それは強くて逞しく、聡明で優雅な殿方だと思っていますわ」
べた褒めだった。
「それだけ?」
「えっ? あ、あとは家柄も良く裕福ですしそれにその……」
「……かっこいい?」
「え、ええ。凛々しくて容姿端麗ですわ!」
俺にはそうは思えないが好きな人はそう見えるって事だろうか。
「私は……ケーゼ自身を何とも思っていない」
「ではなぜ!?」
「貴方も知っているでしょう。
学園を卒業したらケーゼの元へ私は行く事になる」
「それは知っていますわ。
妾と言うのが嫌なのでしょうか?
でも私は正妻の座を譲りませんわよ!」
「そう言う事じゃないの。
私の未来の事が私以外の手で決められているのが嫌なの」
「そんな事は貴族では当たり前の事でしょう?
それに私がいう事では無いかもしれませんが条件としては悪くないはず」
「そう思うのが貴方と私の違い。
私は自分の事は自分で決めたい、ただそれだけなの。
そしてケーゼに対するのは……八つ当たりみたいなものよ」
「そんな子供みたいな事で!」
「……そう子供なのよ。
そして少し前はケーゼもそうだった。
だから対立してケンカしてるみたいになったんだと思う」
少し前は……か。
「でも最近のケーゼは変わったわ。
変に対立する事無く、私を丸め込もうとする。
それはきっと……貴方のせいなのでしょうね」
シャルはからかうような笑顔でメッサーに言った。
「私のせい?」
「貴方のお陰と言った方が良いのでしょうね。
貴方と仲良くなるにつれて、ケーゼは大人になっていったんだと思うわ。
それが子供のままの私には腹立たしい事だったのかもしれないわね」
「それは……貴方も大人になるしかないのではありません?」
「ええ、そうかもしれないわ……いえきっとそうなのね」
シャルは何か決心と言うか踏ん切りがついた様な感じだった。
「貴方と話せて良かったわ。
……もうケーゼとは対立しない。
それにこのまま迷宮の探索を続ければ私の未来も自分で決められる!」
シャルの不安のような物はもう無いのかもしれない。
「……それは良かったですわ。
貴方も早く大人に慣れると良いですわね……」
メッサーも納得した様だった。
「それで私も聞きたい事があるのだけれど?」
「何かしら? 私の質問に答えて頂きましたし何でも聞いてくださって結構よ」
そしてシャルは悪戯っ子の顔になっていた。
「ケーゼとはどこまで行ったの?」
「は、はい? え、えっとそれは……」
メッサーが顔を赤らめ子供のように狼狽える。
「あ、ちょっと待って!
ファースト! アンタは男達の所へ行って耳を塞いでいなさい!
会話を聞いちゃ駄目よ!」
「えええ!? ここからが本題なのに!」
「やっぱり聞いてたか! さっさとあっちに行くの!」
俺はこれからって所で追い払われた。
めっちゃ聞きたい……が仕方ない。
俺はトートとトイフェルの所へと退散した。
「どうしたドラゴン、女どもに邪魔者にされたか?」
「ああ、その通りだよ。ガールズトークに入れて貰えなかった」
「ふはは! やっぱそうか! こっちはこっちで男の話をしようぜ!」
「僕はもう寝たいんだけど……」
「そう言わずに語ろうぜ!
周りはお前と違って年上ばかりのお姉さんだろ?
同世代の子供とは違って気になる女ってのがいるだろう?」
まだまだお前らも子供だから! いや俺もそうなるのか?
「そ、そんな事は言えませんよ!」
「言えないって事は居るって事だな。
恥ずかしがらずに言えって!
ここには俺とドラゴンしかいねぇだろう?」
「仕方ない、存在として上位種であるドラゴンが答えてやろう。
俺は最近マルメラが気になっている!」
「まさかのご主人様を差し置いてその友達とは!
ドラゴンのくせに隅におけねぇな!」
「ぼ、僕も実はマルメラさんが気になってて……」
「お、トートもか。それでどの辺が気になるんだよ?」
「シャルさんやメッサーさんはその気が強そうで」
「あー確かにな。
俺もシャルが気になってはいるが確かにちょっと気が強すぎると思うぜ」
「そうなんだよな!
マルメラってちょっと変わってるけど、癒し系(治癒魔術)で優しいからな!(シャルと違って)」
「それにエルフなのにその胸が……マルメラさんって着やせするタイプですよね?」
エルフは容姿端麗ではあるが体は扇情的では無くスレンダーな事が多い。
その事をトートは言っているのかもしれない。
「やっぱ男なら胸に目が行くよな。
トートと同年代よりはそりゃでかいからな」
トイフェルがトートの肩を叩く。
トートは顔を真っ赤にしてしまっているが、それ程恥ずかしがっては居なかった。
「だが胸ならアネモネだな。
いつもクラスの隅の方にいて目立たないがあれは凄い」
「リーリエさんも捨てがたいですよね!」
「だな。その三人の内の誰が一番かは俺には判断が付かねぇ。
もしかしてドラゴンの感覚なら分かるのか!?」
「いやさすがにドラゴンの俺でも、見ただけで細かい判断までは付かない。
シャルのなら鮮明に分か……」
そこで竜の氷像が出来上がった。
「……今日は冷えるな、早めに寝るとするか」
「そ、そうですね」
自分は聞くなとか言っておいてこれは酷い。
だが俺はこれを理由にそっちの話を聞きだそうと心に誓った。
◇◇◇
「今回の探索はなかなか楽しかったぜ!」
「僕も良い勉強になりました」
「私も得るものがあったと思うわ」
行く前はどうなる事かと思ったが結果は上出来だったと思う。
「最後に利益の分配をするわね」
結局財宝は武器をそれぞれ五本ずつ。
マジックボックスは一杯だったという事にして財宝を入れなかった。
俺自身も何も持っていなかったので計二十本が今回の回収できた分だった。
お金にして百二十万ギルになった。
二十階と二十一階ではその財宝の質に大きな差があるように思えた。
「私はいらないわ。食糧の代金にでもしておいて下さい」
「その分はちゃんと大目に引いてあるわよ。それに……」
シャルはメッサーに耳打ちする。
「初めて稼いだお金でケーゼに贈り物をするのも良いかもしれないわよ?」
「そ、そうですわね。報酬は受け取る義務がありますわよね」
迷宮探索で得た物はお金だけでは無かったかもしれない。
バラバラだった人達がなんとなくまとまりのある物になった気がする。
後日シャルにプレゼントが届いた。
二つセットのぬいぐるみだった。
ケーゼとメッサーを意識した男の子と女の子のクマのぬいぐるみだった。
うぜぇ……。
バカップルの相手をするのは大変だな。
それは部屋の片隅に飾られる事になった。
男のクマの方が良く床に落ちているのは気にしてはいけない。
+15,672,087 前回残高
... ±0 十日分の食糧(シャルの分もメッサーより徴収)
.. +400,000 財宝の売上(剣や槍など二十本を四等分)
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+16,072,087 一千六百七万二千八十七ギル




