第四十話 六月4
「なぁ、ここは本当に迷宮なんだよな?
どっかの宝物庫にでもいる気分だぜ」
「そうですね。ですが宝物庫にしてはちょっと広いですね」
トートとトイフェルは割と楽しんでいる感じだった。
思ったよりも楽に迷宮を探索出来ているからだろう。
「こんな武器なんていりませんわ。
それに歩いてばかりで退屈です。
疲れるし汚いし迷宮なんて来るものではありませんわね」
メッサーは相変わらずだ。
何のために付いて来たのか理解出来なかった。
「どんな時でもモンスターへの警戒と地図の確認だけは忘れないでね!」
◇◇◇
そして二日目、三日目も何事もなく終わり、四日目にそれは起こった。
『シャル! モンスターだ!』
『本当に!? でもなんで急に遭遇したのかしら?』
『いや、これは……。数は一体、ボスだ!』
俺はその感覚を覚えていた。
前回遭遇した時よりは少し弱く感じたがそれは間違いなく二十階のボスだった。
「みんな気付いてる?」
シャルは一応みんなに確認する。
「なんでしょうか?」
「なんだ?」
「疲れましたわね」
まだ誰も気づいていないようだった。
「モンスターよ。数は一体だけだけど……ボスよ!」
その場に緊張が走った。
「最近倒されたばかりなのについていませんね……」
「いやこれはついてるだろう!」
「退屈がやっと紛れそうですわね」
だが恐れていると言う感じは無く、戦いを望んでいるようにも感じた。
……シャル以外は。
「ファースト、ボスからは逃げれそう?」
「俺だけなら!」
シャルは油断していなかった。
前回は俺が一人で倒したような物だったし、今回もそれをしてしまうと面倒事が確実に増える事になる。
今まで以上の勧誘が生徒達以外からもされる事になるだろう。
……もうすでにされているのかもしれないが。
「はぁ……。前回の私は運良くボスを倒せただけよ。
前回より人数は居るかもしれないけど油断しないでね!」
「僕は前回の事など分かりませんから油断などありません」
「俺も二十階のボスは初めてだからな」
「私の手に掛かればどのようなモンスターでも倒して見せますわ!」
「おしゃべりはそこまでだ……来るぞ!」
魔狼がその場に現れる。
前回とは少し違い、頭が二つだった。
「オルトロスよ! 二手に分かれましょう!」
シャルは咄嗟に指示を飛ばす。
「トートとトイフェルは向かって左。
私のメッサーは右をやるわよ!
ファーストは援護して!」
「はい!」
「分かったぜ!」
「分かりましたわ」
「了解!」
前回は頭を一つ潰しても他の頭が治していたように思えた。
この指示は的確だろう。
「トート援護してやる!
その変わった武器の力見せてみろよ!」
「はい! 任せて下さい!」
トートは武器を構える。
右手で握り腕を突き出す。
左手は右手に添え狙いを付ける。
そして右手の人差指で引き金を引いた。
発砲音は魔法の発動のそれと同じだった。
だがそれは俺の良く見知った武器。
それは銃だった。
拳銃と言われる片手に納まるほどの大きさの物だ。
黙視できない攻撃がオルトロスに命中する。
予期せぬ攻撃でオルトロスはたじろいでいたがダメージ自体は感じられない。
「なんだそりゃ? 速さはあるが威力は無いのかよ!」
「すいません、ボスが思ったよりも頑丈で……」
どこかの神速が喜びそうな武器である。
「私達も行きますわよ。
シャルさんは防御を。
私が攻撃を致しますわ!」
「良いわ、任せる!」
メッサーが魔力を貯め、魔術を放つ。
「ファイアランス!!!」
それは見事な魔術だった。
大きな炎の槍がそれも複数でオルトロスを襲う。
だが属性が悪かった。
オルトロスは全くダメージも無く怯む事すらなかった。
そして本当の炎とはこういう物だと言わんばかりの攻撃をメッサーに向かって放った。
「アイスウォール!」
オルトロスの炎はシャルによって防がれる。
その間にもトートは銃で攻撃し続けているが牽制にしかならない。
「もうなんですの、このモンスターは!」
「属性が悪いようね。攻守を変更しましょうか」
遠距離での攻撃は魔術が有効だ。
魔法だと接近するか膨大な魔力が必要になる。
「私、防御は苦手ですの。
それに魔術はもちろん、魔法も炎以外は得意では無いですのよ」
使えねー!
確かに炎の魔術は強力だったが、今は有効では無い。
「もう……。邪魔にならない様に下がって!」
シャルはメッサーを諦めた。
「嫌ですわ。私の魔術はこの程度ではありませんのよ。
……シャルさんはボスの動きを止めて下さるかしら??」
「良いけど何度も守ってあげられ無いからね!」
メッサーにはもっと強力な魔術があるのだろう。
「アイスバインド!」
シャルは床に手を付き、魔術を使用する。
手を付いた先から氷が広がって行き、オルトロスの足元まで全てを氷で埋め尽くす。
そしてオルトロスの足を氷で拘束した。
その間にメッサーはオルトロスに走りこんでいた。
メッサーの手に武器は無い。
接近して炎以外の魔法を使うのだろうか?
だがそれは危険だ。
俺は援護の為、急いで飛んで近づく。
「シャルさん、足場を!」
「注文の多い事で……アイスウォール!」
シャルは更に氷の壁でオルトロスの頭までの足場を作り出す。
そこをメッサーが駆け上がるがオルトロスも黙ってはいない。
動ける範囲で体を動かし、メッサーを迎え撃つ。
危ない!
メッサーが攻撃を受ける瞬間、俺はその間に入り込んだ。
「援護感謝しますわ!」
「ふぎゃう!」
そんな俺をメッサーは踏みつけ攻撃を回避し、尚且つオルトロスに飛び移った。
そう言うつもりでは無かったのだが俺の援護は的確だったようだ。
そしてメッサーはその右の拳をオルトロスの目に叩きこんだ。
肉弾戦!
まったくもって馬鹿馬鹿しい攻撃だったがそれは有効だった。
「まだまだですわ!」
そう言ってメッサーは更に攻撃を続ける。
「ファイアバースト!」
メッサーの右手から魔術が発動される。
オルトロスは頭の五分の一程が吹き飛んだ。
エグイ……。
周囲には肉の破片が飛び散り、メッサーは返り血で赤く染まっている。
「こっちも真似させて貰うぜ! トート援護だ!」
「はい!」
トートは銃でオルトロスの左の頭に攻撃し、牽制する。
「アースウォール!」
トイフェルはシャル達と同じように土の壁を足場にしてオルトロスに近づく。
「オラァ!」
そしてトイフェルは頭に回し蹴りを食らわせた。
お前も肉弾戦かよ!
だがその威力は凄まじくオルトロスが氷の拘束を引きちぎって吹き飛ばされた。
獣人族の力はここまでの物なのか!
更にシャルが追撃する。
「アイスランス!」
そしてみんなに叫ぶ。
「まだ足りないわ! 速く頭を潰すのよ!」
それに続くようにトート、トイフェル、メッサーそしてシャルも魔術を使用した。
「ファイア……」
「アイス……」
「ウィンド……」
「アース……」
「「「「ランス!!!」」」」
決定的攻撃が決まる。
完全にオルトロスの頭は潰れていた。
左側の頭はもう原型が分からない程だった。
だがそれは見る見るうちに修復されていく。
タイミングが悪かったのだろう。
右側の頭がすでに修復されており、その後左側の頭を潰したという事だろう。
そして左側の頭の修復も終わった。
「目の錯覚かしら……」
「これは凄いですね……」
「まじかよ……」
三人は目の前の光景を信じられないといった感じだった。
「やっぱり間に合わなかったか……。
もう一度行くわよ!」
シャルだけは前回の戦いでその回復力を思い知っていた。
諦めずにすぐに再度の攻撃を指示し実行した。
◇◇◇
「僕は、もう限界なのですが……」
「俺もちょっときちーな」
「私はとっくに限界ですわ」
トート、トイフェルはまだ立っていたがメッサーは座り込んでいた。
「アイスウォール!!!」
今はシャルだけで抑え込んでいる感じだ。
前回のボスよりは弱いのだろうが倒すまでには至らない。
その無尽蔵の回復力をどうにも出来ないでいた。
「……撤退する。
トート! 十九階への道は分かるわね?」
「……はい!」
「トイフェル! メッサーを支えてあげて」
「めんどくせーが分かったよ」
「メッサー! とにかく走りなさい」
「……分かりましたわ」
「後方は私が守る。
ファースト! 殿は任せたわよ!」
「了解!」
これ以上の戦闘は無理だ。
まー、俺が残ればなんとかなるだろ。
「行くわよ! みんな走って!」
シャルが声を上げる。
「アイスバインド!」
シャルは最後尾でオルトロスに足止めを掛け、他の三人は後方へ撤退する。
『足止めだけで良いわよ』
『別に倒しても良いんだろう?』
『……幼生のままで倒せるなら構わないわよ』
『流石にそれはきつくない?』
『あまり知られたくないのよ。
……十九階に着いたら教えるわ』
『了解! 後は任せてくれ!』
俺がオルトロスに突っ込んだ所でシャルは撤退した。
「さて……ここから先は通さないよ」
俺はオルトロスの前に立ちふさがり、そう言い放つ。
そして俺は……オルトロスの左側の頭に丸呑みにされた。




