第三十五話 五月2
「いつも悪いわね」
「気にしなくて良いんだよ!
僕も買い物のついでだからね」
シャルは未だに学園の外に出る事は制限されている。
俺が力に目覚めてからはドラゴンが重要視されるのは納得出来る事だった。
「ショコラは今日は付いて来てくれないのかい?」
「私は用事があるんだよー、マルメラを連れて行くと良いんだよー」
そう言ってショコラはマルメラを呼んで来ていた。
「マルメラさん、お願いできるかな?
僕は買い物が苦手でね!
いつも余計な物を買ってショコラに怒られているんだよ」
「はい……キルシュさん……」
「マルメラも悪いわね」
「シャル、良いのよ……私も買いたい物あったから……」
マルメラはインドア派だと思ったけど、まぁずっと引き籠る訳にも行かないか。
「ではマルメラさん、お手を……」
「はい……」
そう言ってキルシュはマルメラの手を取り、使い魔の騎竜トルテに乗せる。
そして自分はマルメラの後に乗り手綱を握る。
何これ超かっこいいんですけど。
まるで物語のワンシーンみたいに絵になる光景だった。
それをショコラが複雑な表情で見ているのに気付いた。
「じっとしていれば大丈夫ですからね?
では、行ってくるよ!」
俺達はその光景を見送った。
「さて私は後を付けるんだよー」
「「は?」」
俺とシャルは間抜けな声をあげてしまった。
「私は二人を見守らなければいけないんだよー。
それでは私も出発なんだよー」
ショコラは二人の後を追って行ってしまった。
「んー、どういう事だろ?」
「まぁあの三人はちょっとね……」
「俺さ、ショコラはキルシュが好きなんだと思ってた」
「たぶん、そうでしょうね。
前に小さい頃キルシュに助けて貰ったとか言ってたわ。
珍しく恥ずかしがりながら」
いつも一緒にいるし、仲も良いように思えた。
これは確実かな?
「でもマルメラとキルシュの仲を取り持つような事してない?」
「してるわよ」
「そこの所気にならない?」
マルメラはエルフで容姿がかなり整っている。
ショコラは獣人族だがマルメラに劣らずとても可愛いとは思う。
この辺は好みの問題だろう。
「んー、マルメラはキルシュの許嫁だったはずよ。
親同士が決めた物らしいけどもう決定みたいな物よ」
「知らんかった!」
「本人達は変に意識しちゃって微妙なんだけどね。
でも嫌いな訳じゃないと思うわ」
んー、でもここで問題が……。
「じゃあショコラは諦めてるの?」
「どうして諦めるのよ?」
あー、この世界は何人も妻を持てるんだっけか?
「でも言わんとしてる事は分かるわ。
キルシュにその甲斐性があれば……ね?」
「確かに……良い奴なんだけどその辺は微妙かも……」
どっかの公爵様なら全部受け入れそうだ。
最近俺の中でケーゼの株がうなぎのぼりだな……。
「それに……ショコラとマルメラはお互いが好きなのよね。
もしかしたらキルシュの事以上にね」
あの二人が対立する事はないだろう。
「やっぱキルシュ次第か。
まさかの女の子同士とか……無いよね?」
「……その発想が出来るドラゴンって言うのも別の意味で怖いわね」
俺はもう誰しもが恐怖する存在だった!
いや全然嬉しくないけどな。
そしてここからが本題である。
「それでさ、シャルもキルシュの事……好きだよね?」
なんとなくだが確信めいたものがあった。
「そうねー、頼りになるし正義感もあって勇気もある。
そしてそこそこカッコイイからね?
まぁ一番は家柄がよくてお金持ち!!!」
最後が一番力が入っているのが何か嫌だった……。
「まぁ最後は冗談としても多分……好きだと思うわよ?」
「やっぱそうなのか……」
俺はかなり落胆していたと思う。
「でも友人としてよ。
ショコラやマルメラのような感じとは違うわ。
この先どうなるかはまだ私にも……誰にも分からないけどね」
誰にも分からない。
そうだよな、まだ分からないよな!
まだ学生でこの先の事なんかどんどん変化していく。
今はまだ結論なんて出ない……よね?
◇◇◇
「今日の実習はとても危険です。
炸裂石を使用された場合の対処になります。
では炸裂石とは何でしょう?」
ここでレーレン先生は生徒達を見まわす。
そこで一人の小柄な生徒が手を挙げていた。
「はい、ではトート君。答えて下さい」
「はい。炸裂石とは火炎石の一種です。
爆発と同時に周囲に破片を飛ばし、物体に突き刺さす事を目的とした物です。
殺傷能力に優れ、密閉空間では驚異的な威力を発揮します」
答えたのはトート。
シャルよりも年下で、入学と同時に三年生からスタートの飛び級である。
普人族、男、年下の為かとても幼くそして可愛く見えるとは女性陣の談である。
「正解です。
今回は威力を抑えた物を使用します。
ですが十分に注意して下さい」
この炸裂石の対処法はいくつかある。
生徒達の多くが取った方法は自分と炸裂石の間に魔法で壁を作ると言う物だった。
その壁の属性は人によって違っていたが。
「僕は上手く出来る自身がないなぁ……」
「レッフェルは臆病すぎるぞ。
私が手本を見せよう!」
ケーゼが手本を見せてくれるそうだ。
「ではケーゼ様、行きますわよ」
メッサーが炸裂石を投げる。
ケーゼの前でそれは止まり一瞬の後に爆発する。
「ウィンドウォール!」
風の壁がケーゼを守る。
それは破片を受け止めると言うよりは受け流すという感じだった。
後にいた別の者達に破片がぶつかったがそれは良いのだろうか……。
まぁ怪我を威力でも無かったが。
「さすがケーゼさんですね!」
ガーベルが褒め称え、メッサーが近づき更に労う。
流れるような連携でケーゼを持ち上げている。
それは素晴らしい連携だった。
もしやレッフェルの言葉からそれはもう始まっていたのかもしれない。
「あのご一緒しても宜しいでしょうか?」
「ええ、良いわよ」
ケーゼに気を取られて居る間にシャルがトートに話しかけられていた。
「私が投げれば良いのね、行くわよ?」
「はい、お願いします!」
トートの前に炸裂石が投げられる。
それはケーゼの時よりも術者に接近していた。
「……ウィンドウォール」
それはケーゼと同じ魔術だった。
だが使い方が違う。
炸裂石が爆発する瞬間、その周りを全て風の壁で囲む。
風の壁と言うよりは風の渦に近い物だった。
「凄いわね、完全に抑え込んでしまっているわ」
「えへへ、そうでしょうか?」
トートは顔を赤らめながら照れていた。
「次は私がやって見せよう!」
キルシュである。
実技に関しては本当になぜこんなに積極的になるのであろうか?
「では僕が投げますね!」
「ああ、お願いするよ!」
トートが炸裂石を投げる。
それは先ほどよりも更に術者に近かった……ちょっと危ないんじゃ?
「ウィンド!!!」
キルシュは風の魔法を使った。
キルシュは黒の時空属性でそれ以外の魔術属性は使えない。
対抗意識でも燃やしたのか敢えて風の魔法を使ったようだ。
だがこれは良くなかった。
「クッ!」
その全てを防ぐ事は出来ず、また爆発が近かった為に怪我をしてしまった。
「大丈夫……治すね……」
近くにいたマルメラがその傷をすぐに治してしまった。
そんな事よりもマルメラとキルシュの距離感が近い!
これは一大事だった!
そこにショコラが近づいていく。
「キルシュは自信過剰すぎるんだよー」
「そうだな、いつもショコラに言われている事だったな」
何も無かった。
俺は何を期待していたのだろうか。
シャルもなぜか残念そうだった。
俺の仲間は結構いるみたいだな!
「キルシュ君は確かに油断しすぎですね。
ここは地属性の魔法を使うのが定石でしょう。
良い勉強になりましたね」
レーレン先生が注意する。
受け流すよりも受け止める方が良いようだった。
「すいませんでした! 大丈夫ですか?」
「気にしなくて大丈夫だよ、もう治ってしまったからね」
トートが気にして謝るがそれ程の事でも無かったようだ。
「そしてマルメラさん、ありがとう」
「うん……」
あんまり感情を出さないマルメラの顔が少し赤くなってる気がする。
もう何この空間?
キルシュが魔術で作り出した都合の良い空間なのじゃないかと思ってしまう。
アンチマジックフィールドを発動しかけたのは秘密だ。




