第三十四話 五月
シャルは寮の食堂を手伝わなくなって空いた時間をトレーニングに当てていた。
そしてまだ薄暗く人気の無い量の屋上に俺達は居た。
「ファースト、行きましょうか」
「ああ!」
俺は幼生から成体へと変態する。
シャルに貰ったリボンが伸縮性があって本当に良かった。
それともシャルはここまで考えていたのだろうか?
そして二メートルはあろうかと言う大きな体は八頭身で凛々しかった。
俺個人の見解なので本当に凛々しいかどうかは分からない。
「何度見ても凄い迫力ね! 禍々しい感じがとっても良いわ!」
このように意見は分かれる。
そしてシャルは俺の背に跨り、大空へと飛び上がる。
これこそがファンタジーと言える光景だった。
『もっと激しくしても良いわよ』
今は搭乗者にそれ程負担にならない速度で飛んでいた。
ドラゴンの体は幾ら速くても耐えられたが搭乗者はそうもいかない。
初めてシャルを乗せた時、俺は浮かれてその辺を考えずに自分勝手に飛び回った。
『あん! 駄目、駄目だったら!』
『あっ、あっ、あっ! もう駄目……これ以上は……』
『あーっ!』
最後に甲高い声を上げてシャルは気を失ってしまった。
大事に至らなかったのが幸いだ。
『じゃあ速度を上げるぞ!』
俺はより速く飛んだ。
本当は魔法で抵抗を少なく出来る。
だがそれをするとシャルの魔法が使いずらくなってしまう。
その為、シャル自身が耐えれるようにトレーニングしていた。
速度だけで無く上下左右、縦横無尽に飛び回る。
『ん、もう少し、大丈夫』
『これくらい?』
『も、もうちょっと』
シャルはいつも限界ぎりぎりまで頑張る。
『も、駄目。ちょっとだけ待って』
『ん、いいよ』
そして限界が来ると少しだけ休憩してまた始める。
『ちょ、待って。もう……』
『何度もはだーめ!』
たまに意地悪したくなるのはなぜだろう。
そしてまたやってしまった。
『あーっ!』
シャルは意識を失っていた。
◇◇◇
「はぁはぁ……やり、すぎなの、よ……」
「すいませんでした!」
寮の屋上に戻り、俺は幼生の体に擬態していた。
シャルは意識を取り戻していたが、汗びっしょりで息も絶え絶えだ。
「私はこれで戻るけど、ファーストはまだ飛んでいても良いのよ?」
「一人で飛んでもつまらないよ」
やっぱり一人より二人の方が楽しかった。
「……私をあんまり玩具にしないでよね」
「はい、本当にすいませんでした!」
最後にもう一度釘を刺されてトレーニングは終わった。
◇◇◇
「んー、では人質役はトイフェル君にお願いしましょうか」
「またですか? たまにも違う人にお願いしたいですね」
俺達は授業で実習棟に来ていた。
今回はマジックアイテムを使っての屋内実習だ。
「私は監督しないといけないので、んーそうですね。
ではマルメラ君にお願いしましょうか」
「はい……」
「マルメラ君の治癒魔術はかなりの腕になっています。
ですが皆さんは細心の注意を払って実習に臨むように!
万が一、怪我をさせた場合は補習でマルメラ君の実験に付き合って貰います」
「「「それは遠慮します!」」」
「では気を付けて始めて下さい」
マルメラはレーレン先生の特別授業でまた一段と成長しているようだった。
「俺の時は気にせず派手にやれっていってませんでした?」
「細かい事を気にする男は嫌われますよ」
トイフェルの訴えをレーレン先生は軽く流した。
こいつも結構苦労してるのかもしれない。
実習は屋内に閃光石を投げ入れ、その隙に素早く制圧すると言う物だった。
まんま誘拐事件の時と同じだった。
ドラゴンはそんなものでは目が眩むことが無く楽勝だった。
ただ今の俺は力が強すぎるのでやり過ぎないように注意が必要だ。
体を小さく擬態してはいるが力はほとんど変わらなかった。
◇◇◇
「なんかもうめんどくさくなってくるわね」
「だなー。あいつら一体何なんだろう?」
迷宮でまた追跡者が現れた。
そして今度は複数の人数でだ。
だが例によってモンスターと追跡者達が遭遇した間に距離を離した。
「困った時のレーレン先生頼りかしら?」
「普通に教師に報告することだと思う」
襲われてからでは遅い。
戻ったらすぐにでも報告するのが良いだろう。
だがそれはすでに遅かった。
今回は二十三階からの探索後に、追跡者達が十一階で待ち伏せをしていた。
十一階を選んだのは他に人が少ないからだろう。
徐々に包囲網を縮め、そして退路も絶たれていた。
「何かしら? そこを通りたいんだけど」
そして遂に追跡者達と遭遇した。
「んー、ここは関所? そんな感じだから税を納めな!」
「何時そんなものが出来たのかしら?」
シャルは儲けていた、それもかなり。
先月は確か学園全体の四分の一程をシャル一人で稼いでいたはずだ。
それは時間に余裕のある五年生の何倍もの金額だった。
「良いからその財宝を置いて行け!
全部とは言わないさ。
俺達が安全を保障する。
その護衛料だと思ってくれれば良い」
その危険はお前達だろうが!
それに完全に舐められている。
人数の差もあるかもしれないが……。
魔石を持ってこない。
モンスターを倒せない。
財宝だけを漁って逃げ回る弱い奴。
だとでも思われて居そうだな。
どこから魔石を持って来ないとか調べたかは分からないがな。
あれか業者に聞けばすぐか……。
キューケンだったっけ? あいつマジで使えねーな!
「安全は自分で確保する。
……そこを通してもらうわね」
『……多少怯えさせるわ。
もうこんな事をしないようにね。
大丈夫、浅く斬りつけるだけよ。
一応援護してくれる?
後は任せるわ』
実力行使になるよねやっぱ。
そしてシャルはその腰にぶら下げた剣を抜いた。
その刀身は氷のように美しく、周りには冷気のような物も見て取れた。
「マジックアイテム? 魔法剣か!」
こんな物を使わなくても良いと思うがこういう雑魚には打って付けかもしれない。
「命までは取らないであげる」
シャルは相手の一瞬の隙をついて一気に距離を詰めた。
追跡者達はそのせいで遠距離での攻撃が出来なくなった。
味方を巻き込んでしまう為だ。
シャルは魔術師とは思えないほど鍛えている。
接近戦で勝てる奴はそうは居ない。
そして追跡者たちの一人をその剣で刻んだ。
それは薄皮一枚を斬る感じだ。
派手に鮮血が舞う。
その一人は剣を落とし痛みに耐えていた。
本当に浅く斬ってるだけだよね?
「ふふふ、痛いでしょう?
だったら……もっと鳴かないとね?」
シャルはなおもその一人を斬り刻む。
「ギャーー!」
「あははは、もっと鳴いて良いわよ!」
ちょっとやり過ぎではないでしょうか?
多少怯えさせるとか言ってたけどこれは……。
「なんで魔法が使えないんだ!」
「どうなってやがる!?」
「こんなに強いなんて聞いてないぞ!」
「モンスターから逃げ回るだけの下級生じゃなかったのかよ!」
後の奴らは俺がアンチマジックフィールドで魔法を中和した。
今の俺は貯めずにすぐに発動できる。
そして追跡者達がアンチマジックフィールドのようなものは使えないはずだ。
それはすでにシャルが確認済み(・・・・)だ。
「薄情な仲間ねぇ。
あれ、もう鳴かなくなっちゃった?」
斬られていた者は口から何か変な物を吐きながら気絶していた。
きっと痛みで気が狂ったのだろう……。
死んで無い所が逆に恐ろしい。
シャルさんどこでそんな事覚えたんですか……。
「次は誰かな? 私の前に立つ者はこうなるわよ?」
誰もシャルの前には立たなかった。
追跡者達は気を失った者を介抱しようと集まっていた。
「まぁ立たなくても斬るんだけどね!」
その背後にシャルは詰め寄る。
鬼だ! 立ち去ろうとしてまた背後から忍び寄るとか!
「でも今回は学生証を出すだけで許してあげても良いけど?」
追跡者達は固まっていた。
「早く出しなさい?」
言葉と同時に追跡者達の一人にまた斬り傷が増える。
その後は早かった。
学生証を素直に出し、それを俺が回収した。
「次はドラゴンの餌にするからね?
勿論、斬り刻んで良い声で鳴いて貰った後にね」
なんかシャルさん、変な性癖とかありません?
それ俺を叱った時に目覚めたとかそんなのじゃないよね?
俺に責任はないよね? ね? ね?
◇◇◇
「毎度ありがとうございます!
今回も武器を売っていただけるので?」
「ええ、お願いするわ。
あと魔石の事なんだけど誰かに何かを話したかしら?」
「同業者に武器以外の魔石はどうしてるんだと聞かれましたね、はい。
魔石は持っておいでで無いと言うのを話しましたが?」
使えねー! 顧客の情報を漏らすんじゃねーよ!
「……あまりそう言う事は言いふらさないで貰えるかしら?」
「はい! 以後気を付けますね」
そう言ってさっさと武器の査定に入った。
今回も前回と同様の物だった。
それとは関係ないがお茶とお菓子まで出て来た。
「相当儲かってるのかな?」
「段々下出に出てくるのが何か気味が悪いわね……」
そしてこのお菓子に覚えがあった。
「これマルメラが作ったのに似てない?」
「そうね、このジャムなんか味がおんなじよ」
マルメラも何気に儲けているかもしれない。
キルシュとショコラは俺達ほどではないが迷宮を探索している。
マルメラはインドア派みたいだがこういう物で薬の研究代を儲けているのかもしれない。
そして査定が終わったようだ。
「二十本で二百万になります」
「それで良いわ」
「……そちらの方はお売りになりませんか?」
キューケンは目ざとくシャルの剣を見ていた。
「これは売らないの。ごめんなさいね」
「それはもしやマジックアイテムでは?
見るだけ見せて貰えませんかね?」
「本当に見せるだけよ?」
シャルはそう言ってキューケンに剣を渡した。
「いや見事な魔法剣ですな。
んー値がつけられません。
もし似たような物が手に入りましたら、是非フォーゲル商会にお売りください!」
とりあえずコイツの目は節穴だな……。
本当に商人なのかよ。
「その時はご相談させて頂きますよ」
シャルもちょっと落胆の顔をしながらそう答えた。
◇◇◇
「ふーむ、この生徒達がそんな事を……」
学生証を見ながらレーレン先生も落胆の顔をしていた。
そうだろう、生徒達がカツアゲみたいな事をしているのだから。
いあもう強盗、恐喝と言った方が良いか。
「四年生ですね。
私が直接如何こうは出来ないかもしれません。
ですが担任の教師に報告し、きつく注意してもらいましょう!」
もうシャルがきついお仕置きをしたんだけどね!
「対策としては今回の件を起こした者にきつい罰を与えます。
それを周知徹底する事になるだろうと思います。
そしてシャル君自身の対策ですが……それはもうしているのですね」
レーレン先生はシャルの腰にあった剣を見ながらそう答える。
「その剣は良いですね。
事前に強敵を察知しやすい。
小物にはそれを見せるだけで近寄って来ないでしょう」
さすがレーレン先生だ。
この剣は氷の魔術で刀身を作り出したアイスソード。
シャルは自身の訓練も兼ねて常時この魔術を使用している。
普通そんな事をしたらあっという間に魔力が尽きてしまう。
だがシャルの魔力はいつの間にか相当量になっていたようだ。
俺ほどではないが。
もしかしたら俺を参考にして常時魔力を使う事を覚えたのかもしれない。
そして上級生達がアンチマジックフィールドのような物を使用した場合、すぐにでも分かるようになる。
これが魔術で出来た物だとすぐに分かったレーレン先生はどこかの業者と違い節穴ではないようだ。
シャルはここまでの事を考えてこの魔法剣もどきを常時携帯する事にした。
お、俺はちゃんと気づいていたんだからな!
+3,821,152 前回残高
... -15,705 十日分の食糧(ファースト、シャルの分)
.. +50,000 慰謝料(追跡者の四年生から一人一万ギルが五人分)
+2,000,000 財宝の売上(剣や槍など二十本)
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+5,855,447 五百八十五万五千四百四十七ギル




