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ご主人様は真っ黒  作者: pinfu
第二章 成体
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第三十二話 四月2

「目標は二十一階。

 今回はその階層を重点的に探索するわよ!」

「二十一階とか危なくないか?」


 俺とシャルは迷宮を探索していた。

 他に仲間は居ない。

 医療品や食糧の買い出しは手伝って貰ったが探索は別だ。

 それはシャルがかなり無理をする為でもある。


「危険だけどこの前のような事は避けたいの。

 二十一階からはほとんど誰もいないはず。

 道中も人が居たら避けて進むわよ!」

「了解」


 この前は上級生に難癖をつけられ酷い目にあった。

 それに深い階層の方が高価な物が手に入りやすい。

 その分危険なのだがな。


 二十一階までは一日ほどで到達した。

 普通なら一週間は掛かる所だ。


「この階層でもモンスターに遭遇しないとか……」

「みんな俺にびびってるのかな?」

「今の見た目では全然なのにね」


 モンスター特有の魔力の波動を抑える事はまだ出来なかった。

 擬態したら大丈夫かなとか少しだけ思った。

 だが幼生の時も十七階までしか行っていないがモンスターは出なかった。

 関係あるかどうかはまだ分からないって事か。


「二十一階からは学園支給の地図にはほとんど道が記されていないわ。

 一応慎重に行くのよ。

 警戒を怠らないでね!」

「分かってるよ!」


 今の俺は複雑で遠くの場所もなんとなく察する事が出来た。

 かなり遠いがモンスターがいる。

 だがそれは俺達からどんどん遠ざかっていた。

 無理に追いかけるよりも今は財宝を探した方が良いだろう。

 そして迷宮に(トラップ)は無い。

 一応現時点で到達している範囲でだがな。


 モンスターが居て財宝がある。

 財宝を餌に人間を呼び込み、モンスターが捕食する。

 そして迷宮はその内部を定期的に一新する。

 トラップくらい簡単に出来そうなのだがなぜか存在しなかった。

 まぁ無い方が楽で良いのだが。


「あったわ! 何これピカピカよ!

 ……高いわ、間違いなく高く売れるわ!」

「長かったな……」

「ええ、本当に長かったわ」 


 これまでまともに稼いだ事が無かった。

 せいぜいが浅い階層での鉄くずみたいな武器を手に入れたくらいだ。

 財宝と呼べる物はこれが初めてだった。


「この調子でどんどん見つけるわよ!」

「おう!」




◇◇◇




「本当に全部マジックボックスに入れなくて良いの?」

「ええ、これくらいなら持てるわ。

 ファーストも少しは自分で持つのよ」

「はいはい」


 トータルで二十本ほどの剣や槍を手に入れる事が出来た。

 ほとんど新品みたいなそれは、過去に迷宮探索で亡くなった者達の武器なのだろうか?

 その内十本をマジックボックスに入れ、残りの五本ずつを俺とシャルで持っていた。

 あらかじめ用意してきたロープで縛りそれを浮かばせて運ぶ。

 正直持つという感覚は無い。

 魔法の力とは凄い物だ。

 シャルはきちんと持っているがな。


「一つくらい魔道具(マジックアイテム)があっても良さそうなのになぁ」

「マジックアイテムなんてほとんど手に入らないわよ。

 それこそ一個で何百万ギルとかするんだから!」

「それでも毎回一個くらいは見つけないと借金が……」

「今あるだけでも百万ギルはいってると思うけど?」

「マジですか!?」


 ひゃくまんえん!

 本当はそう叫びたかったが馬鹿っぽかったのでやめた。

 そう言えばまともな剣は一本十万とか言っていたな。

 毎回これくらい見つけてあとはマジックアイテムが多少見つかれば期日までになんとか返せる……のか?


「全部売らずに自分でも使うわ。

 それでもそれくらいはするはずよ。

 私もあんまり詳しくは無いんだけどね」

「その辺も勉強しないとかー」


 迷宮探索だけでなく道具(アイテム)の価値なんかも覚えて行かないと駄目かもしれない。


「帰ったら祝杯でもあげましょうか?」

「肉無しなら大歓迎だよ!」




◇◇◇




「……これは本当に君達だけでしかもこんな短時間で探索したのかい?」

「はい」


 迷宮から帰って来た。

 まずはレーレン先生に報告をする。

 だが信じて貰えなかったようだ。


「三年生になったばかりと言うのに二十一階、しかもこの広範囲を探索。

 君達が嘘をつくとも思えないし、その財宝を見る限りは信じるしかないか」


 ごめんなさい。前に一度嘘つきました。

 シャルもそれを思い出しているのか微妙な顔をしている。


「先生には正直にお話します。

 ドラゴンの力なのかモンスターとほとんど遭遇しません。

 それは二十一階でも変わりませんでした」


 信頼してくれている先生を此方も信頼して答えたのか、罪悪感からかは分からない。

 シャルはその理由を答えていた。


「そういう事でしたか。

 財宝の中に魔石が無いのもそのせいなのでしょう」

「まだマジックボックスの中に同じくらいあります」

「本当に凄いね! これは納得するしかないな。

 だが気を付けておきなさい。

 この事を妬む者、蔑む者が現れるかもしれません。

 上級生下級生問わずにね」


 まったくその通りだった。

 もう少し早く知りたかった。


「あとあまり公にはしていませんが、二十階のボスを倒しに行った昨年の五年生が帰って来ませんでした。

 残念ですがボスに倒されてしまったと思われます。

 その後まだボスの討伐は報告されていませんので十分に気を付けてくださいね」


 ボスじゃなくて俺達ですとはさすがに言えなかった。


「これから財宝を業者に売るのですか?」

「はい、そのつもりです」

「……高く売れると良いですね」


 レーレン先生は最後に何か気になる言い方をしていた。

 実は俺達の事は全て分かっているのでは無いかと不安になってしまった。




◇◇◇




「これは結構な量だな。少し時間が掛かるから待っていてくれ」


 一本だけ残して後は全て売る事にした。

 その数十九本。


「あーっと、魔石は無いのか?」

「ええ、魔石はありません」

「まぁ今のご時世なら直接町で魔石を売った方が儲かるからな。

 無理にとは言わんよ」


 そう言って業者は財宝の査定を始めていた。


「なぜか迷宮より落ち着かないわね」

「俺も同じ事を思っていたよ」


 落ち着かない時を過ごしたが間もなくして査定が出たようだ。


「少しおまけして全部で九十万ギルでどうだろう?」


 百万ギルには少し届かなかったがこれでも十分凄い。

 今までの苦労が何だったのかと思えるほどの金額だった。


「これで良ければ貨幣にするかい?

 それともそのままお金を預けるかい?

 学生証があればあれはギルドカードの代わりにもなるからな」

「そうですか……んー」


 シャルは迷っていた。

 預けても良いし、マジックボックスに入れても良い。

 でもこの迷いが結果として良かったのかもしれない。

 違う事で迷っていると業者は思ったようだ。


「これだけの物を町まで運ぶのも大変だろう?

 次の時もまた少しくらいはおまけするからこれで手を打たないかい?」


 んー? もしかしてぼったくられたのか!

 これはもっと高く売れたのかもしれん。

 それに確か生徒は原則として値切りや値上げ交渉は出来ない。

 その代わり業者は適正価格より一割程安く売ったり買ったりすると決められていたはずだ。

 一割というのは憶測らしいがな。


「いやいやキューケンさん! 出来ればもう少しおまけして下さらないかな?」


 そこでなぜかレーレン先生が現れた。


「あ、これは先生! いつもお世話になっております。

 ……今日は一体どうされたのでしょう?」

「この生徒は少し特別でね。

 とてもお金に困っているのだよ。

 出来れば助けると思ってもう少し高く買って貰えないだろうか?」


 そう言って業者と二人で何やらコソコソと裏で計算を始めていた。

 ええ! そんなに! とか聞こえたがレーレン先生が細かい数字を言うと大人しくなった。


「一本150,000から200,000くらいはしますよね?

 一本150,000としても業者さんの買い取りは六掛けでしたね。

 90,000の物が十九本で1,710,000になりますかね?」

「……はい。今回は更に勉強させて頂いて1,800,000で如何でしょうか?」

「それは助かります!」


 どうやら話が付いたようだ。


「今回は助けると思って百八十万ギルで買い取ってくれるそうですよ!」

「はい、助かります!

 全て預ける事にします」


 そう言ってシャルは学生証を差し出す。

 業者は涙目だったが、元々がそれくらいするのだろうが!

 買い取り価格が倍になっているしかなりぼったくられていたようだ。


「シャル君はまたこの業者さんを使ってあげて下さいね?」

「ええ、こんなにも高く買って下さるなら勿論です」

「……今後ともフォーゲル商会を宜しくお願いします」

「キューケンさんもいずれこの事を喜ぶときが来ますよ!」


 業者はただ冷や汗をかくばかりだった。


「レーレン先生、助かりました!」

「いえいえこれも授業のようなものですよ」

「でも学園の業者にあんな事しても良いのでしょうか?

 レーレン先生も学園の職員なのでは?」

「ハハハ、私はいつでも生徒の味方だよ。

 それにキューケンさんは学園の職員とはまた違ったものだからね。

 これからシャル君が売るであろう量を考えたら何方にとっても良い事になるだろうしね!」


 生徒だけでなく業者にも顔が利く。

 好かれる人というのは誰にでも好かれるのかもしれない。




◇◇◇




「「「かんぱーい!」」」

「今日は好きなだけ食べても良いわよ!」


 寮の食堂でプチ宴会が開かれていた。

 本当は町で酒場なんかを貸し切りたかったが中々そうもいかない。


「僕は何も手伝っていないのに参加して良いのかい?」

「それをいったら私もだよー」

「タダなら……沢山食べる……」


 俺とシャル、キルシュにショコラ、そしてマルメラがそこには参加していた。


「みんなには準備とか手伝って貰ったからね。

 それに一人じゃなんかさみしいじゃない!」


 俺は二人っきりでも良かったんだがな!

 って一人? 俺は人数に入っていないのか?


「買い出しくらいいつでも手伝うさ! 自分の分もあるしね」

「キルシュだけじゃ変なのばかり買うんだよー」

「ジャムの薬……たくさんあるから……」

「俺が一番がんばったよね!?」


 ここはアピールしておかないとな!


「そうね、ファーストが一番頑張ったわ!」


 そう言ってシャルは酒を進めてくる。

 お酒は二十歳になってから!

 そんな法律はこの国には無い。

 そしてこのお酒はケーゼからの祝い品だった。

 どこで知ったのか誘われても居ないのに律儀な奴だ。


「酒は駄目なんで。オレンジジュースください」

「ドラゴンって酒豪じゃなかったのかしら?

 まぁ良いわ……キンキンに冷やしてあげる!」


 今日のシャルは上機嫌である。

 オレンジジュースを氷の魔術でキンキンに冷やしてくれた。

 いつものシャルらしくない。

 お酒が回っているのかもしれないな。


「この調子で一気に借金なんて返してやるわー!」

「その時は是非僕の所に来て欲しいな!」

「ふふーん、考えてあげるわー!」

「キルシュてめー、どさくさに紛れて何言ってやがる!」

「ファーストは私が欲しいんだよねー?

 人間に恋するへんたいなんだよねー?

 でもー、私が誰でも受け止めてあーげーるー」


 あれこれやばくね?

 なんかシャルがおかしいぞ。


「酒の席の軽い冗談だったんだが」

「シャルが何か面白いんだよー」

「お酒……結構飲んでる……」


 いつの間にか結構飲んでいたようだ。

 普段そんな嗜好品なんて口にしないからな。

 特に酒なんて初めてなんじゃないか?


「さぁーみんなのんでのんでー」


 その後シャルはぶっ倒れるまで飲み続けた。




◇◇◇




「言わなくても解ってると思うけど!」

「はい……ごめんなさい……」


 いつもとは立場が違っていた。

 シャルは正座し、俺が上からそれを見下ろしていた。

 この世界にも正座とかあったんだな。


「たまに羽目を外すのは良いけど、これは流石にやり過ぎだろう」

「はい……」


 シャルは二日酔いで頭を押さえながら落ち込んでいた。

 寮の部屋は未だに酒臭い。


「それで……私は何かしたのでしょうか?」


 そして覚えてないと来た。


「キルシュにめっちゃ絡んだ後、服を脱ぎだした所でマルメラに止められた。

 最後はぶっ倒れてショコラに部屋まで運んで貰ったんだよ」


 シャルは羞恥で顔を染めている。

 ちなみにキルシュはシャルによって裸にひん剥かれていた。

 面白いから止めなかったけど、これは言わないでおいてあげよう。


「みんな気にしてないって言ってたけど一応後で謝っておくように!」

「はい……」


 迷宮攻略は事後を含めてまずまずのスタート……かな?




     +98,521  残高(見舞金+ケーゼの肉+バイト代-今までの諸経費)

     -15,952  十日分の食糧(ファースト、シャルの分)

      -5,000  医療品(友達価格+マルメラの優しさ)

      -7,526  非常食(六日分、不味い)

     -30,000  野営の道具(毛布等、少し匂う)

        ±0  訓練用木刀(レンタル料無料、壊れてもばれない)

      -3,841  宴会費(お酒、お菓子、ジャムなど差し入れあり)

   +1,800,000  財宝の売上(剣や槍など十九本)

――――――――――――――――――――

   +1,836,202  百八十三万六千二百二ギル


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